二百五十一話 負け馬の会
ラビと狂竜を連れて街に出た。
チーマ買ってみた。
不味かった。
「チーマ! チーマ! チーマ!」
俺たちのチーマに反応して吠え続けるチーマ狂い。
もはや犬なんじゃないかコイツ。
「コラッ。止めなさい! 人さまのチーマ欲しさに吠えちゃダメっ」
「うー……! チーマ!」
手綱を引っ張って止めるものだから、飼い犬にくくりつけたリードの様に見えて尚更犬っぽい。
まあ何だって構わないさ。
「食べ物を粗末にはしたくないからな。さあ、チーマをたんとおあがり」
「チーマ!? チーマチーマ!」
「いやいや、お客さまにそんな迷惑を掛けるわけには……。って、あー! 誰かと思えばさっきのお兄さんだ!」
今気づいたのかよ。
布袋被った俺に気が付かないのは相当だぞ。
「あっ、そうだ。派手にずっこけていたけどケガは良いのか?」
「えっ? 医務室に一緒に行ったよね? って、そっか意識がなかったんだっけ?」
「ああ、人の視線は苦手なんだ」
ナンニスルーラの騎士は、あのセクハラ医師に診てもらって、俺が目覚める少し前に医務室を出ていたそうだ。
「レースだとは言え、吹っ飛ばして悪かったな」
「うーんどうだろう? お兄さんが何かしなくても、ニンジンスキーの鎌で引きずり下ろされてたと思うし、お兄さんのせいじゃないと思うよ」
「それもそうか」
確かに俺がユンの脚を止めたときには、ナンニスルーラの騎士のお腹に鎌が掛かっていたっけか。
「チーマ! チーマもっと!」
「え、まだ食えるのか? まあ、たくさんあるしな」
ウエストポーチに入れたチーマを取りだし、包みを解い差し出してやった。
チーマは、さもそれが旨いものだと思わせる食いっぷりで、ガツガツとチーマ狂いの胃の中へと納められていく。
そんなチーマ狂いの様子に感心したり、狂気に恐怖を覚えていると、ユンが立ち上がった。
「まーはお母さんのところへ行くからまた後でね」
「ん? ああ、報告しに行くんだったか?」
「うん」
ユンを見送るとナンニスルーラが口を開く。
「あっ、そうだ。私もこんな事をしている場合じゃなかったんだ。早く行かないと」
「行くってどこに行くんだ?」
「トーサンダンサーのお店だよ」
「ああ、例の店か」
引退したらお父さんのお店で働くと言っていたっけか。
「結局なんのお店なんだ?」
「お酒のんで踊り見て歌を聞くところだよ。お兄さんも一緒に行ってみる?」
「ふむ……」
興味はある。
酒場でぱーっと金を使うのも悪くない。
店を貸し切りユンの家族を呼んで打ち上げなんてどうだ?
ふむ、その為の下見がてら覗いてみるか。
しかし、ラビを連れていっても良いものか。
ラビの方をチラリとうかがうと、なにかを悟ったのか身構える。
「置いてきぼりはダメなのです……」
「すー!」
「しかしなあ……。酔っぱらいの居るところにラビたちを連れていくのはなあ……」
俺が渋っているとナンニスルーラの騎士が口を挟む。
「今日はいつもならお店を開けていない時間にお店を開けてもらっているから大丈夫だよ。お酒も出ないし」
「本当か? それなら行ってようか」
「行きたいのです!」
「すー!」
そんなわけで、みんなでトーサンダンサーのお店へとやって来た。
例え野宮であってもゲルであることには違いがない。
縦置き式の看板が一つ入り口の脇に置いてあるので辛うじて住居との見分けがつく。
店内は薄暗く中のようすは確認できない。
「まあ、取り合えず入って見ようか」
と、言ったところで背後から声が。
「ちょっと待った! なんでセカンドポエルの騎士がここにいるんだ?」
そう問いかけて来たのは、ニンジンスキーの騎士。
はて?
「いや、興味があったからナンニスルーラの騎士に案内してもらったんだがダメだったのか?」
ダメな理由が検討もつかないのだが。
「そりゃダメだよ。今日はダメだ。ナンニスルーラの騎士もなに考えてるんだ?」
「いやまあ、いっかなーって」
「良いわけあるかーっ」
何やら険悪な雰囲気になってきてしまった。
「事情がわからん。俺が何かしたのなら謝るから、とにかく話してくれ」
「えっ、いや、それは察して欲しいんだけど。このメンツを見て思う所はないの?」
そう言ってニンジンスキーは背後を振り返る。
そこにはケリタマガールとホニュービンの騎士と馬の顔ぶれが。
「いや、思うところと言われても……。さっき、レースに出ていたメンツってぐらいしか」
「はあ……。鈍いなあ。ここにいるのは全てセカンドポエルに負けた馬。これからトーサンダンサーの店で負け馬の会を開いて傷を舐め合おうってのに、勝った馬の騎士がいちゃダメだろう」
「あー、そら確かに……」
これはちょっと気まずい。




