二百五十話 一言で表現するなら甘酸っぱい革靴
目が覚めた。
お金もらった。
ラビと狂竜と街を見て回る事にした。
そう、ラビと狂竜を連れて街に出た。
ワイワイと活気のある街並みをラビと手をつないで掻き分ける。
この時俺はユンのお母さんと別れた直後に、ふと気になることを耳にした事で思考に更けていた。
なんでもレース終了後、レース中に魔法をぶちこんできた連中を競馬会が一時拘束するも、なんと衛兵に引き渡す前に逃げられてしまったそうだ。
更にはブラックベールも忽然と姿を消していたと来たもんで。
あの一連の流れから見るに、両者は間違いなく関係しているのだろう。
「結局あいつらの目的はいったいなんだったのか……」
いやまあ、覆面男はユンを勝たせないのが目的だと言っていたが、それは目的ではなく手段だろう。
別に目的があったはずだ。
「あいつらってどいつらなのです?」
「すー?」
おっと、思考が口からはみ出していたようだ。
ラビに聞かせる様な話じゃあない。
「何でもないよ。あっ! あんなところに美味しそうな屋台が!」
話題を反らすのにその辺にあった屋台を出汁にした。
なかなかに良さそうな屋台だ。
が、客引きのお姉さんの一言が全てを台無しにする。
「ナンニスルーラ?」
ああ、これは間違いなく不味いやつだ。
チーマの屋台じゃあないか。
ちなみに売り子のお姉さんはさっき一緒に走っていたナンニスルーラとは別人なので、のれん分けされた屋台だと思われる。
「ゴハンニスルーラなのです!」
「すー!」
「あらノッてくれてありがとう。何本欲しいのかナー?」
いかん。
ラビが、お姉さんに捕まってしまった。
しかも何だか既にチーマを買う流れになりつつある。
「ラビ。チーマは不味い。二つの意味で不味い」
「そうなのです?」
「いや、ラビは実況の隣で話聞いてたよね?」
まあ実況は早口だったし、チーマの話は左のお耳から右のお耳に流れてしまったのかもしれない。
「でも美味しそうなのです」
「確かに美味しそうではある」
あれだけ不味い不味いと言われていたチーマだが香りは良い。
食欲をそそる香ばしい香りだ。
見た目も良い。
縦横5センチで奥行きが2センチほどの四角いチーズを薄くスライスした2枚の馬肉で縦と横に巻き、重なった部分を串で刺して留めてある。
どこか愛嬌のある四角が三つ並んでいて可愛らしい。
「しかしなあ……」
あれだけ不味い不味いと言っていたからには、相当不味いはずだ。
絶対後悔するわあ。
買わずに別のにしよう。
そう決め込むも十分後。
「ホカホカのチーマなのです!」
「すー!」
気づけばチーマを買っていた。
おかしい。
買うつもりなんて無かったのに。
なんてこった。
しかも量も量で凄まじい事になってしまったぞ。
と言うのも、馬蹄銀の価値がわからず、なんとなーく、一つでまあ、何だかんだ言ったって銀貨だし500円玉みたいなもんだろう。
なら、買えても4、5本程度に違いない。
そう考えた俺は、馬蹄銀を売り子のお姉さんに渡して、これで買えるだけ包んでくれと言ってしまった。
するとどうだろう。
馬蹄銀の価値が思ったよりも高かったのか、はたまたチーマの値段が安かったのか。
4、5本どころか4、50本買えた。
更にはサービスだと言って量が倍になった。
100本近くあるんだがどうするんだこれ……。
「まあ、残ったらウエストポーチに入れておけばいいか」
「ご主人さま。あそこでゆっくり出来そうなのです!」
「すー!」
ラビが指差したのは公園。
いや岩場と言うべきか。
ゴロゴロと大小さまざまな石が転がっている場所がある。
恐らくは馬人の性質上、この様な石が道ばたにないほうが好ましいと考えてここに集められたんだと思う。
現にそこにいる馬人は四つん這いなっていない。
ただの、石置き場ではあるが、公園がわりに利用されているようだ。
ちょうど良いのでここでチーマを頂く事にする。
石に腰掛け、笹に包まれた包みを一つ手に取り紐を解く。
と、同時に辺りにチーマの香りが広がる。
やはりいい香りがする。
とても不味いとは思えない。
ひと包みに三本のチーマが包まれていたので、一本ずつ手に取った。
「結構ずっしりしてるな。一本でも結構なボリュームがありそうだ。さあ、食べてみるとするか。いただきます」
「いただきますなのです!」
「すー!」
みんな一緒にチーマにかじりついた。
みんな一緒に顔をしかめた。
「これは……」
「不味いのです……」
「すー……」
良く言おうとすれば、酸味が効いて甘酸っぱいチーズに、歯を押し返すような協力な歯ごたえ馬肉が面白いとでも言うのだろうか。
率直な感想として一言で表現するなら甘酸っぱい革靴とでも言うべき代物だ。
とても食えたものじゃあない。
ラビと狂竜に至ってはうっすら涙を浮かべている。
「クスリだとでも思って飲み込むんだ」
「ううっ。頑張って飲み込んでもまだ二つ刺さっているのです……」
「すー……」
そう、チーマは一つの串に三つ刺さっている。
絶望は直ぐには終わらない。
口に運ぼうとしては止めてを俺たちは幾度となく繰り返した。
そんなことをしていると。
「あー! 騎士さまなんか食べてるー!」
ユンが通りがかった。
多分、ユンのお母さんのところへ戻っている最中だろう。
しかしこれ幸い。
「おっ、良いところに来たな。ユンも食べるか?」
「えっ? いいの? うん、食べる。口にいれて!」
自分で食べろとは言うなかれ。
ユンの手は泥まみれでまっくろなのだ。
俺の食いかけをずぼっと口に突っ込んでやる。
「うぐっ! チーマだこれー……」
「うむ。戻すなよ? ちゃんと食べるんだぞ?」
「うへー。まだ一つ串に刺さってる……」
やはり、三つ刺さっているのは絶望しかない。
刺さっているのが一つであったなら救いはあった。
絶望にひれ伏す俺たち。
しかし、そこへ希望の光を纏った救世主が現れる。
「チーマ!? チーマおいしい! チーマ? チーマチーマチーマ?」
そう、チーマ狂いのあの馬だ。




