二十五話 おシノちゃんがどえらいことになってるのです!
城なしが再び海を渡り始めた。
お米と大豆を植えた。
ラビがこっそり大豆食べてた。
米と大豆は植えたし残るはサルナシだ。
「シノ。これからサルナシを植えてくるから、シノはおうちで待っていてくれ」
「むぅ。信用無いのう」
「おシノちゃんの分もラビが頑張るのです!」
元気に頑張る宣言されても、大したことはしないんだけどね。
でも微笑ましい。
「そうだ。シノにはこの小壺を渡しておこう。中には、サルナシの枝を入れてある」
「にゃんと!」
「にゃんこの目になっているのです!」
これから植えるサルナシを荒らされても困るので、用意しておいた。
中には一本しか入っていないけどな。
用法用量を守って正しく使わないと大惨事だし。
軒下にたくさん入った壺があるが隠し通さねば。
シノにお留守番を言い付けると、俺はラビと栗林にやって来た。
根はしっかり回り始めたかな。
順調で何より。
山ぐりは好物なので楽しみだ。
「ここにその枝を植えるのです?」
「ああ。サルナシも強いからね。こんななりになっても育つんだ」
「はー。さつま芋のつるみたいに切っても生えて来るのですね」
栗林の中央にサルナシで日除けを作りたいので、古い住居の廃材で支柱を組む。
サルナシは鉄すらへし折るからなあ。
こんなんじゃ心許ない。
でもまあ、育つまではもつだろう。
そしたら同化して自力で支えられるようになる。
「実はとってしまうのです?」
「実とか花とかは、いっぱい元気が必要になっちゃうからね。大きくなるまでは、とってしまった方が良いんだよ」
「とっちゃったら、元気なくなっちゃいそうなのです」
人とか動物なら、体の一部をとっちゃったら、そりゃあ一大事だが。
あっ。
「髪の毛とか爪とか伸びてくると煩わしくなるだろう? それと一緒さ」
「あっ。それならわかるのです!」
全然違うけど、必要性を理解してくれるならそれでいい。
「枝をぷすっと土に刺すだけではい完成!」
「えええええ!? これだけなのです?」
「い、いや、さつま芋のつるの時も似たようなモノだったじゃないか」
さつま芋と違って、オスとメスがあるから、両方植えないと実がなら無いけどね。
何て説明すればいいかわからんし黙っとこ。
なんだかんだで、泥まみれになってしまった。
折角だからお風呂に入ろうかな。
温泉に入ってから思いついた案がある。
トイレへ繋がる川に戻ると、一番大きな壺を運んできた。
石を組んで土台を作って……。
んー、ぐらつかないな。
これでいい。
「ラビ、かまどに火を入れるときみたいに薪を組んでおくれ」
「ご主人さま。このおっきな壺で何をゆでるのです?」
「ラビとシノをゆでちゃう」
「ふえええええ!?」
「あっはっは。冗談だよ。これをお風呂にしようと思ってね」
ここまで壺尽くしで来たんだ。
徹底的に活用してやる。
それに俺はこれをやってみたかった。
ゴエモン風呂。
ちょっと憧れてたんだよ。
「出来たのです!」
「じゃあ、水を入れて火を付けよう」
竹筒でふーふー出来ないのは少し残念だ。
いや、あれやるとヒョットコになるんだっけか。
「そろそろ良いかな。ラビ。シノを呼んできてくれ」
「分かったのです!」
壺の底の部分が熱くなっていたりするのかな。
河石でも放り込んで直接触れないようにするか。
「ご主人さま! おシノちゃんが大変なのです!」
「えっ? またでろでろになったの?」
「もっとどえらい事になってるのです!」
よくわからんが、どえらい事になってるなら行かねばなるまい。
一体何が。
ラビの口からどえらいとか初めて聞いたぞ。
想像できないぐらいの姿になっている気がしてならん。
俺はマイホームに向かって駆け出した。
「なるほどこれはどえらい事になってる」
猫が壺を頭にかぶり、二本の足でよろよろとふらついていた。
二本足でたつのは股関節にダメージが入るのでよろしくない。
ちがう、そうじゃない。
どうしてこんな事に……。
いや、そんなことより早く壺を取ってやらないと。
「ぐぐっ。抜けん。しっかりハマってる」
「ご主人さま、壺を割ればいいのです」
「いや、それは最後の手段だ。加減を間違えてしまったら、シノの顔に傷がついてしまう」
前世の世界なら、専門家に丸投げするんだが、ここは異世界で俺にしかシノを助けられない。
こう言う時本当に困るな。
壺に頭がハマった時の対処法なんてマニアックな知識無いわ。
石鹸で滑りやすくしてすっぽーんか?
でもそんなもの無いし……。
いや、バナナでいけるか?
「ご、ご主人さま? バナナを握りつぶしている場合じゃ無いのです。おシノちゃんひくひくし始めたのです!」
「バナナ塗ったくって滑りやすくするんだ。多分これでいけるはず──」
スッポーン!
「抜けたのです!」
「河が、河が見えるのじゃ。あの先には桃源郷があるのかのう」
「おいやめろ、還ってこい。それ渡ったらあかん!」
頭ぼっさぼっさで、バナナまみれになってしまったが、直ぐに風呂に入れるのは危険きわまりないので、正気にもどるまで待った。
「もーっしわけ無いのじゃあああ!」
「おシノちゃん、キレイなドゲザなのです!」
「いや、いいよ。壺にサルナシ入れて渡した俺も悪いし。土下座やめて」
まさか、あんな事になるとは、予想できるわきゃないが。
「でもでも、どうして、あんな事になっていたのです?」
「猫になって、サルナシを楽しもうと思ったのじゃが、ちょっとずつ、ちょっとずつ、と嗅いでる内にのめり込んで」
「頭まで突っ込んでいたと?」
しょうもない。
生きててよかった。
壺から頭が抜けなくて窒息死とか無念すぎる。
「よし、バナナ臭いからお風呂に入ろうか」
「バナナ臭い……。いや、それより風呂とな? そんなものどうやって作ったのじゃ?」
「壺なのです!」
「つ、壺? 壺が何なのじゃ?」
「いいからいいから。行けばわかるさ」
よくわかって無さそうなシノを連れて風呂に戻った。
「確かに壺じゃな。壺を風呂に見立てたのかのう」
「お湯がぬるくなっちゃったかな。体を流している間に火を入れ直すから入っちゃいなよ」
「に、煮込むのです!?」
「煮込まない煮込まない」
しかし、ラビの存在がある以上、ウサギ捕まえても鍋には出来んな。
あっ。
でも、入浴後のお湯って肥料になるんだっけか。
ウサギとネコの出汁。
水やりするときはこれ撒こう。
「ふあー。いい湯なのじゃ」
「底の方とか熱かったりしない?」
「大丈夫なのです!」
これ良いなあ。
お風呂炊きながら湯加減聞いたりね。
こう言うのをやってみたかった。
これからもこう言ったしあわせを見付けていきたいと心から思う。




