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二百四十八話 足掻いて決着最後の一矢

 ブラックベールの騎士が槍をくるくるした。

 氷山が現れた。

 飛び越えて見ることにした。



「んじゃ行くぞ」


 ユンと密着し翼を地面に対して水平に広げる。


「わっ、わっ、とと……。き、騎士さま!?」


 ユンがたたらを踏んだ。


 傾きをつけなくても、それだけでユンのからだがふわりと浮いたからだ。


 しかしまだ飛び上がったわけじゃあない。


 バランス崩して転ばないように神経を尖らせてタイミングを見極める。


 フラフラとユンのからだが右へ左へぐらつく。


 手綱を引いて姿勢を制御。


 翼が安定して地面と水平を保てるようになったところで合図をだした。


「よし、いまだ跳べ! ユン!」


「うん!」


 ダッ。


 ユンが地を蹴った。


 それに合わせて翼を傾け、今までユンが駆けることでまとっていた前に進むためのエネルギーを高度に変える。


 反るような形で俺たちは風に乗った。


『セカンドポエル。氷の壁に臆することなく駆け続け、空を飛んだ! 古代、マンガル人は翼の生えた馬だった。そんなマンガル神話を裏付けるような光景です! 流石はセカンドポエル。ポエルの名を継承するだけのことはあります! しかし、これは……』


 しかし、これは……。


 あー……。


 いかんまずい高さが足りん。


「ねえ、騎士さま? まーはまーが氷にぶつかりそうな気がするよ?」


「まあ、このままだとぶつかるだろうな……」


「えええっ!? 失敗だったの!?」


 いや、地上から助走をつけて空を飛んだだけでも俺にとっては成功なんだがな。


「ぬおおおおおおおお!」


 それはともかく、ユンを氷山にぶつけるわけにはいかないので必死こいて羽ばたいた。


 結果。


 ゴシャ!


「んんーっ……!」


 ユンが顔から氷山に突っ込んだ。


「ユン!?」


「んあああー!」


 否、ユンが手の腹で氷を砕き衝突の勢いを殺した。


「よしでかしたユン。あとは任せろ!」


「でかしたの? まーはでかした気がしないよ?」


「顔から突っ込まなかっただけで十分だ!」


 足りないのは大人一人ぶんの高さ。


 切り返して高度を上げようにも近くに風が吹いている場所はないので再浮上できなくなる。


 故にここは意地でどうにかする。


「ふんぬおおおおお!」


 俺はバッサ、バッサと何度も何度も羽ばたいた。


「騎士さま! 全然上に上がってないよ!?」


「よ、よく見ろユン! 一羽ばたきあたり小指の先ほどあがっている!」


「小指の先!?」


 バサッ、バサッ、ババババババ。


 今、俺はハチドリになった。


 毎秒数十回という羽ばたきで浮上する。


「騎士さまは、絶対そんなに早くない気がする」


 まあ、ハチドリになった気分を醸し出してみただけだしな。


『セカンドポエルあと少しが届かない。それでも必死にあがく、あがく、あがく!』


 あと一息。


「ぬおーっ!」


 そして。


「騎士さまやった! 越えられたよ!」


「ゼハー、ゼハー。どんなもんだい」


 山なりに尖っているので、ここを越えたからにはあとは転がり落ちても先には進める。


 しかし、その事実が災いする。


 極度の疲労×目標達成の満足感=最大の隙。


 そう、いつもなら簡単に避けられたそれを俺は受けてしまったのだ。


 ビシッ!


『あーっと! セカンドポエルの騎士の側頭部を突如飛来した矢が貫いたー!』


「貫いた!? 騎士さま死んじゃう!?」


「えっ? 俺死ぬの? いやいや、貫かれたのは壺だけだよ……」


「そっか。あれ? でも壺にあたっても不味かったんじゃ?」


 そう、先の弓による集中攻撃で壺の背面には矢が刺さり、そこを中心にヒビが入っている。


 そんな状態で矢を受けたらどうなるか。


 パッカーン!


 見事に真っ二つだ。


「騎士さまっ!? 今、壺が割れたような音がした!」


「大丈夫だ。すぐにどうこうなるわけじゃあない」


「なるよね? すぐにどうこうなるよね?」


 まあ、確かに壺だけなら壺が割れたら直ちに即死するが──。


『壺が割れてセカンドポエルの騎士の素顔が、今、明らかに……。いや、明らかになっていないー!? 壺の下には布袋を被っていた!』


 ──そんなわけなので猶予はある。


 しかし、長くは持たないだろう。


「じゃあ、とっととゴールしてしまおうかね」


「うん!」


 俺たちは氷山を滑り降りるように斜面に沿って飛行し、そのままゴールをくぐった。


『今、セカンドポエルが一着でゴール! 終わってみれば、ただの一度も鼻先を他の馬に譲ることは有りませんでした。文句なしの逃げきりです。尚、二位以下は棄権のため──』


 そして、どこか遠くに実況の声を感じつつ、俺の意識はそこで途絶えた。

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