二百四十四話 尖ってないのに鋭く突き刺さる矢
ニンジンスキーにはめられた。
ユンがバテた。
ラビがうっかり弱点をバラした。
『このマンガル競馬。元々は傭兵の見本市として始まりました。そして、マンガルの傭兵と言えば馬人騎兵ですが、馬上弓術もまた売りのひとつです』
で、なんとか競馬で弓の腕前も見せられないかと考えたルールで俺が狙われていると言うわけだ。
ヒュヒュヒュヒュヒュン!
とかなんとか想い老けっている間にも矢が降り注ぐ。
ボコボコボコボコ……。
痛い。
矢のさきが丸くたって、こんなの金づちをフルスイングでぶつけられるようなモノだ。
「騎士さまなんで避けないの!?」
「俺は丈夫だからな。壺を庇いつつ翼で受けるのが一番良い」
「絶対うそだよ……」
まあ、うそだ。
やれやれまったく変なところで勘の良い。
今はユンの体力回復を優先すべき。
しかし、そうなるとユンを動かして避けるなんてもっての他。
俺がユンの上で動き回る事ですら負担になるハズだ。
だから、防御に徹している。
「まあ、ここは俺が凌ぎきるから任せておけ!」
頭を低くして体を翼で庇う。
これだけで済むなら楽なんだが、後ろの奴らもバカじゃあない。
ひたすら頭にばかり矢が集中ということはなく、どうにかして俺の防御を崩そうとしてくる。
具体的には、俺ではなくユンを、特にユンの手、脚を狙って矢を撃ってくる。
流石に翼で全てを覆うことは出来ないので動かざるを得ない。
動けば他の守りが薄くなる。
それでもユンを庇うのは難しくない事なのだが、やはり予期せぬ事態は起こるもので。
ガッ!
狙ったのか、はたまた偶然か。
一本の外れた矢が地面に刺さることなく跳ね返り、ユンのかかとへと向かう。
くっ、この矢を防ぐのに翼を傾けると俺の頭に別の矢が……。
俺が受けてもユンが受けてもよろしくない一撃。
「ええい、それなら考えるまでもない!」
当然俺が受ける。
ゴッシャッ! ピシッ!
「なんかすごい音した!」
「なんでもないよ……」
「絶対なんでもあるー!」
ちょっと不味いことになったが言えるわけがない。
『おおっと! これはなんと言うことでしょう。セカンドポエルの騎士が被る壺に矢が刺さっている! どうやら壺を撃ち抜いたのはトーサンダンサー。やはり芸に秀ています』
だからバラすなっつのー!
「ほらー! やっぱりなんか大変なことになってるー!」
「ちょっと矢鴨みたくなっただけだ」
「矢鴨ってなに!?」
人類の鴨に対する七つの大罪の一つだ。
『と、三本目のハロン棒をセカンドポエルが通過。射撃はここまでです。弓を納めてください』
ふー、なんとか凌ぎきったようだ。
「壺は大丈夫なの?」
「もう一撃受けたら多分完全に割れるがもう矢は飛んでこないし大丈夫だろう」
「でも、あの先にあるコーナーを曲がりきったら次は弓じゃない武器で襲いかかってくるよ」
あー……、やっぱりそれもあるのか。
「それより、ユンの調子はどうだ?」
「まーはもう大丈夫。お尻叩いて良いよ?」
「いや、今はまだ加速しなくても良いだろう」
まだまだレースは三分の一すら終わっていない。
ユンが一度バテてしまっているしここはスタミナ温存だ。
『セカンドポエルと後続馬との距離がだいぶ縮まりました。7馬身ほど離れたところにトーサンダンサー。ほとんど差はなくナンニスルーラがだいぶ飛ばしてきました』
ほー、後ろはニンジンスキーが下がってその二頭が繰り上がってきた感じか。
勢いからしてそろそろナンニスルーラが攻めてきそうな気がする。
『その後ろ4馬身ほど離れたところにニンジンスキー。再び前に出る機会を伺います。それより後方、ケリタマガール、ホニュービン、ブラックベールについては相変わらず変化はありません』
ニンジンスキーはまだ上がってくる気配はないか。
またあとでねと言っていたし、あれで終わりではないと思うのだが……。
『先頭のセカンドポエル。4ハロン目を通過。ここでコーナーに差し掛かります。それに続くナンニスルーラ、すさまじい馬脚でセカンドポエルに詰めかける! 5、3.5、2、ぐんぐん伸びて1.5馬身差! あっと言う間にセカンドポエルの背後につけたー!』
「おっと、やっぱりナンニスルーラが攻めて来たな。ユン、休憩はここまでだ。ムチを入れるぞ!」
「うん! 思いっきし痛いのでおねがい!」




