二百四十一話 パドック 八番 セカンドポエル
覆面ぱんつの正体が明かされた。
勝たせないとか言われた。
俺に致死量の視線が突き刺さった。
『最後は八番、セカンドポエル。馬は文字通り一騎当千、一騎で千の敵を討ち取り、隣国を震え上がらせたあの伝説の傭兵ファーストポエルの娘です。オッズは8.8倍』
ワアアァァ!
おおっ、歓声あがってるじゃないか。
「ユンも結構人気あるんだな」
「まーじゃなくてお母さんのお父さんの人気だもん……」
おおう。
ユンがしょげてしまった。
「まあ、そうか……。それなら勝ってユンのファンを増やそうな」
「それはそうだ。うん! 勝ってまーのファンを増やそう!」
「そうだそうだ」
どうやらユンのファンってのが琴線に触れたらしい。
首を起こし、姿勢を正し、胸を張って歩き出した。
がぜんやる気になったようだ。
「ところでポエルってなんなんだ?」
「ポエルはマンガルの始まりにして、全ての馬人の母なんだってさ」
「それも馬人神話か?」
「うん。分かりやすくいうと、ポエルはみんなのかあちゃんなんだよ」
いや、分かりにくくなったのだが……。
アダムとイブのイブのポジションだと思ったのだが。
聖母マリアのような母のポジションなのか?
「んー? んー……。よくわかんないけど、どっちもかな?」
「おいおい、最初の女性にしてみんなのかあちゃんか? どっちも担っているなんて欲張りだな」
「まーにいわれても知らないよう」
しかし、なんだってそんな大それた人物の名前を継承しているのか。
『さて、血統には申し分のないセカンドポエルですが、未勝利のまま最後のレースにまで来てしまいました。実力もあります。ならば、騎士か。そう思ってか騎士を変えてきました。これが吉と出るか凶と出るか』
うっ、視線が……。
『さて、そんな気になる騎士ですが、ブラックベールの騎士と同じく顔を隠しています。が、こちらはあろうことか壺を被っている! 壺男だ! 前は見えるのか? 息は苦しくないのか? やる気はあるのかー!?』
ブウゥー!
おう、司会者余計なことをすんな視線がすごい俺が死ぬ。
なんか盛大にブーイングまでもらってまったし。
ほんとやめて心抉れる。
「騎士さま大丈夫?」
「心配するな。壺を被っているからな。辛うじて致命傷は免れたさ」
「でも、膝が笑ってるよ? まーのお腹にプルプルしたのが伝わってきて、まー、お腹壊しそう」
それはよろしくないがどうしようもない。
早くどっかに視線やってくれないものかね。
祈ってみてもドスドスと視線が突き刺さる。
視線で壺が割れたりするんじゃあなかろうか。
と、そこへ思わぬ助けが入る。
『騎士については謎が多いセカンドポエル。そこでセカンドポエルの騎士について詳しい方をお呼びしました』
いや、誰だよ。
俺は昨日こっちに来たばかりだし知り合いなんて……。
『ご主人さまはすごいのです!』
って、ラビだと!?
『はい、こちらはラビちゃんです。かわいいですね』
馴れ馴れしくラビちゃんとか呼ぶんじゃあないわ。
『それで、ご主人さまはいったいどこがどういうふうにすごいのかな?』
『えっと……。すごいのです!』
『はいありがとうございました。大変よく分かりませんでしたね。ただ、ご主人さまを想う気持ちは伝わりました。拍手ー!』
パチパチパチパチ……!
はーん。
なんなんだいこりゃあ。
「場を盛り上げようと思ったんじゃない?」
「子供を出汁にするんじゃあない」
「でも騎士さま震え止まった」
おや、本当だ。
ラビに救われたな。
「視線で震えちゃう騎士さまかっこ悪ーい」
「抜かせ、自分だって、負けたたらまーどうなっちゃいんだろーとかプルプル震えていたじゃないか」
「あー! あー! 騎士さま、なんでそれ言っちゃうの!?」
それをユンが言うんかい。
っととと……。
よほど恥ずかしいのか、耳まで赤くして首をぶんぶん振るもんだから落ちてしまいそうだ。
反応がまだまだ若いねえ。
『さて、それでは各馬出揃いました。投票の為の時間を待った後にレースとなります』
おっと、そろそろレースに意識を集中した方が良さそうだ。
『オッズが確定いたしました。最終的なオッズは──』
一番 ホニュービン 14600馬券 3.44倍
二番 トーサンダンサー 7500馬券 6.66倍
三番 エターナルサンデー 3馬券 16666.66倍
四番 ケリタマガール 6400馬券 8.33倍
五番 ニンジンスキー 5900馬券 9.09倍
六番 ナンニスルーラ 7200馬券 7.14倍
七番 ブラックベール 2400馬券 25.00倍
八番 セカンドポエル 5500馬券 9.09倍
総馬券数 49503枚
『──以上となります。三番エナーナルサンデーは棄権につき払い戻しがありますので馬券は破棄なさらず大切に保管してください』
『間もなくレースです。観客のみなさまにおかれましては、お見逃し無きよう早めに席の方でお待ちください』




