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二百三十九話 パドック 六番 ナンニスルーラ

 騎士は魔女だった。

 馬はデブだった。

 ニンジンスキー農場に行ってみたくなった。

 

 

『続きまして、六番、ナンニ──』


「ナンニスルーラ!?」


「「「ゴハンニスルーラ!」」」×たくさん


「ナンニスルーラ!?」


「「「キミニスルーラ!」」」×いっぱい


 ワアアァァ……!


 司会の言葉を遮り、馬の上で両手を広げて謎のコールを発するのは六番の騎士。


 それに答えて沸き上がる会場。


 これがカリスマと言うヤツか。


 いや、知らんけど。


『──子供からお年寄りまで大人気のナンニスルーラ。合言葉はゴハンニスルーラ。ナンニスルーラは屋台の名前。騎士は屋台のオヤジの娘です。この会場内ではキミニスルーラと答えても許されますが、屋台の前ではオヤジに殴られます。殴られました』


 何してんの司会者!?


『オッズは6.8倍。まずまずの人気です。そうそう、まずまずと言えば、ナンニスルーラは普段は街で屋台をひいて、屋台のオヤジがチーズを馬肉で巻いたチーマと言う食べ物を串刺して販売してるのですが──』


 ほーん。


 濃厚なチーズとあっさりした馬肉の組み合わせは良さそうだ。


 お腹すいてきた。


 チーマ食べたいかもしれん。


『──不味くて食べられた代物ではありませんでした』


 あっ、そう。


 ならいらんわ。


『チーマ屋台のオヤジは味では勝負ができないと悟り、チュンかから輸入した笹の葉で包み、テイクアウトを可能にし、何とか言い訳して手抜きをしたいと考える主婦層の心理に訴えかけます──』


 試行錯誤は大事よな。


 それはともかく主婦に対する司会者の言葉が身も蓋もない。


 主婦に何か恨みが?


 この司会者、奥さんと上手くいってないんだろうか。


『──ですが、客足が増えるどころか更に減りました。なんと冷めると3倍不味くなったのです』


 報われないな!


 まあ、肉もチーズもあったかいほうが旨いわな。


『しかし、慣れというのは恐ろしいモノで、不味いのも、冷めたら3倍不味くなるのも気にならなくなりました──』


 いやいや、それはないだろう。


 客にとっては出されるものが不味いなら、食いに行かなければ良いだけの話だ。


『──店のオヤジ的には』


 そっちかよ!


 店のオヤジが不味いのに慣れてしまうって、最悪じゃないか。


『客足は絶え、まだ屋台の味を知らない客と罰ゲーム、あるいは怖いもの見たさの客がちらほら立ち寄るのがせいぜい。このままでは、屋台が潰れるのも時間の問題です。そこでチーマ屋台の娘は考えました。レースに出て宣伝しようと。宣伝すればどんなゴミでも売れるハズだと』


 おい、ゴミって言い切ったぞ。


「娘は容赦ないな」


「騎士さまはさ、毎日3倍まずいものを食べさせられたらどんな気分になる?」


「どんなって、そりゃあ悲しくなったりイライラしたり……。ああ、そういうことか。売れ残った3倍まずいチーマは家庭内消費だわな」


 食とは時に人間性すら左右しかねない、人が生きていく上で欠かせない重要な要素だ。


 3倍まずいものを食い続ければゴミと言いたくもなるか。


 いや、悲しみを宣伝してバラ蒔くなよ。


『そんなキッカケから始まったナンニスルーラ。レース出場による宣伝効果で確実に固定客を会得。のれん分けを繰り返し、今ではこの街バータルで27台の屋台がチーマを販売するまでになりました』


 すげえな宣伝効果。


『しかし、味はまったく変わっていません』


 なんでだよ!


 なんで27台の屋台全部で不味くなるんだよ!?


 少なくとも27人もいれば一人ぐらい味を直せるだろう。


「まあでも、そこまで不味い不味いといわれると、逆に食べたくなってくるな。俺ならもっと美味く出来る気がする」


「みんな騎士さまと同じことを考えて、立ち上がっては飲み込まれ、気がつけば屋台を引いて不味いチーマを作ってたんだよ」


「怖っ! もうそれ呪われてるんじゃないか?」


 チーマの屋台には近づかないでおこう。


『さて、馬の方を見ていきましょう』


「チーマ美味しいよう?」


『馬は身一つで田舎から上京して来たところへ騎士に拾われ、衣食住、おかわりについては無限大と言う条件で住み込みで働くことに』


「チーマ美味しいよう?」


『最初はしかし、いつの日からか喜んで食べるようになり、気が付けばチーマ美味しいよ? としか言わなくなりました』


「チーマ美味しいよう?」


 うわあ、目の焦点が合っていない。


 最初はおかわり無限大に胸をときめかせたことだろうに。


 でも、チーマは不味かった。


 次第に絶望が深まり自分を騙すことでしあわせを求めたに違いない。


『さて、チーマを食べ続けたナンニスルーラの馬ではありますが、ひとつ、それによって特技を得ました。思い込みによる【自己精神操作セルフマインドコントロール】で脚質をレース中であっても変幻自在に変えられます」


 脚質を変えられる。


 ねえ……。


「なあユン。それってすごいのか?」


「さあ? まーにはよくわからない。でも、あんまりおかしな事をするとからだ壊しそう」


「そうな。そうか、後がないから、なんだってしてくるかも知れないな」


 体は限界であっても自分を騙して加速するとかね。


 ナンニスルーラもよく見ておいた方が良さそうだ。

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