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二百三十二話 レースの日の朝

 オルワを諭した。

 乱闘が起きた。

 意識がとんだ。



「……さま起きて、朝だよ?」


 朝……?


 ふむ……、俺はいつの間にか寝てしまったのか。


 しかし、さあ寝るぞと覚悟を決めた睡眠ではなかったからか、体がだるくてまだねむい。


「ラビ、もう少しご主人さまを寝かせておいておくれ」


「ラビじゃないよ? まーだよ?」


「まーだだよ? そうか……、おやすみラビ……」


 なんだか隠れんぼみたいだ。


 よくわからんが、きっとまだ寝てて良いって事だろう。


 ぐぅ……。


「もー、また寝たー! 今日はレースなんだよ? 起きてよー!」


 ユサユサ……。


 ん……?


 ユサユサユサ……。


 んー……。


 ユサユサユサユサ……。


 ええい、今日のラビは強情だ。


 どれ、布団に引きずりこんでナデナデして一緒に眠ってしまえ。


 ガバッ!


「き、騎士さま何するの?」


「撫でるに決まってるじゃないか。む……? ラビじゃなくてユンだったのか? まあ、やることはかわらんか。うりゃあ! わしわしわしわしわしー!」


「ひっ、あああああ!? 騎士さま何するのー? 髪がぽっさぽさになっちゃう!」


「はははっ、よいではないかよいではないか。もっとぽっさぽさになるまで撫でられるがいい」


 なんだかテンション上がってきた!


 いやんいやんと暴れるユンをしこたまなで回し、満足したところで俺は再び眠りについた。


 いや、眠りにつくハズだった。


 カンカンカンカンカンカン……!


「うおっ!?」


 鍋をオタマで叩くような音に阻止されたのだ。


 なんだなんだと、音の方へと視線を向ければ、蔑んだ目で俺を見下すオルワが仁王立ちしているではないか。


 手には鍋とオタマを握っている。


 本当に鍋をオタマで叩いた音だったのか。


 ん?


 と言うか、なんでオルワまでマイハウスにいるんだろう?


 あれ? もしかして無意識のウチに拐ってきた?


 それって不味くない?


 いやいやそんなハズは……。


「お、おはようオルワ。今日もご機嫌だな……。いや、ご機嫌斜めか? 何かあったのか?」


「あたしのベッドでいちゃつくんじゃないです!」


「えっ? あ、ああ、すまん……」


 なるほど、オルワのベッドのでユンとじゃれていたから機嫌が悪いのか。


 まあ、そりゃ、怒るわな。


 俺だって他人が俺の布団でじゃれあってたら怒るわ。


 いや待て?


 オルワのベッド?


 なんのこっちゃと辺りを見回せば、なんとここは知らない部屋ではないか。


「あれ? ここはどこだ? 城なしじゃあないのか?」


「お兄さんは昨日突然倒れたです。それであたしのウチが近かったから連れて来たです」


「そうだったのか。それは迷惑をかけた。ありがとう、助かったよ」


 でも、人さまのところに厄介になるぐらいなら、城なしにユンが連れて帰ってくれても良かった。


「騎士さまのおうちに連れていこうかとも考えたけど、顔が土気色になってたから……」


「ああ、からだの負担にならないように気をつかってくれたのか」


「ううん。まーの背中で吐かれたらイヤかなって」


 そうな。


 俺もユンが酸っぱい臭いになったらイヤだわ。


 間違いなく正しい判断だ。


 でもなんでかとっても哀しいわ。


 まあ、城なしに戻っていたらマンガルを出てしまったかもしれないしな。


「昨日のお礼も兼ねての寝食提供です」


「むしろお礼をしなければならないのは俺の気がするんだが……。ん? 寝食って事は、朝食もあったりするのか?」


「もちろんです。いま持ってくるから、とっととベッドから出るです」


 すでに作ってあるのか。


 なら、遠慮せずにいただくとするか。


 オルワが食卓を設置して、てきぱきとそこへ料理を載せていく。


 おや? 見たことがある料理だな。


「これはもしかするとチュンカ料理か?」


「そうです。あたしの得意料理です」


「やっぱりか。しかし、その若さで俺より料理が上手いってのは納得いかん」


 俺がオルワくらいの年の頃は、野原でバッタ追いかけてたわ。


「一応あたしは、こう見えてプロです。この『若の隠れ家亭』で料理も作ってるです」


「ここ? ただの一般家庭に見えるけど」


「一階が呑み屋になってるです」


 そうか。


 この街のゲルは、積み重なってたっけか。


「しかし、チュンカ人が嫌いなのにチュンカ料理が得意なんだな」


「あっ……!」


 何気なくこぼした言葉だったのだが、オルワは小さく叫んで固まってしまった。


 あ、いかん。


 なんか地雷踏んだ気がする。


 黙りこんでしまった。


「えーっと、別にチュンカ人が嫌いでも、料理は関係ないよな」


「捨てるです……」


「待て待て待て待て、今のは俺が悪かった。捨てるのはやめよう。食べ物に罪は無いよな!」


 捨てるのは大変勿体ない。


 ちゃんとした調味料を使って作られた料理は久しぶりだし食指が動く。


「あっ、お兄さんたちが食べても、ゴミとして捨てても変わらないかもです」


 まてーい。


「いやいやいや、それだとゴミを食えと言われているような気がしないでもない」


「なら捨てるです……」


「俺の考え過ぎだったわ。勿体ないからおいしくいただこう?」


 これ以上余計なことは言うまい。


 そんなわけで、はい、いただきます。


 肉とピーマンの千切りを炒めたモノから口に運ぶ。


 濃厚な味が口いっぱいに広がって。


「ぐふっ! ごほっ!」


 めっちゃむせた。


「なんだこれ、とてつもなく辛い! すげえなチュンカ人。朝からこんなん食ってるのか」


「チュンカ人でも朝っぱらからこんな辛いのは食べないです」


「食わないんかい!」


 ならなんでこんなに辛くしたのか。


 なんでチュンカ人の食事事情をそこまで知っているのか。


 疑問に思うが、もう地雷は踏みたくない。


 別の話題を探そう。


「そう言えばオルワ。なんだか、昨日とキャラ違わない?」


「一晩であたしの事をわかった気になられても困るです」


「あっ、はい」


 話が終わってしまった。


 その後もギクシャクした感じのやり取りが続き、これは早めにおいとました方が良さそうだと考え、適当なところで切り出した。


「それじゃあ、俺たちはやることがあるから、そろそろ行くよ。ご馳走さま」


 と、ゲルの前でお別れ。


 俺たちは『若の隠れ家亭』に背を向ける。


 なんだか、嫌われてしまったようでガッカリだ。


 だが──。


「絶対にレースに勝つです!」


「えっ? ああ、負けたらあとが無いからな」


「負けたら許さないです……」


 ──最後に激励の言葉をもらえた。


 手を振ってそれに応え、俺とユンはレース会場へ向けて歩き出す。


「ってあれ? オルワにレースの話したっけか?」


「まーはしてないよ?」


「俺もした覚えはないな」


 ならなんでオルワは俺たちがレースに出ることを知っていたんだろう。


 まあ、どうだっていいか。

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