二百三十話 増えるチュンカの重鎮さま
自称チュンカの重鎮さまが現れた。
戦った。
俺たちは駆けた。
悲鳴のあがった方へ向かうと馬人の女の子が一人。
歳はラビと同じか少ししたぐらいだろか。
サイドに四本の三つ編みを付けた髪が印象的。
数で攻めていくスタイルの様だ。
こんな状況でなければさぞ愛らしい表情を見せてくれるのだろう。
だが、今は瞳にうっすら涙をためてしまっている。
今にも溢れだしそうだ。
腰が抜けたのか、膝をついて座り込んでしまっている。
「ひっ、来ないで! 来ないでくださいです!」
それでも必死に距離を取ろうと、お尻でずりずりと後ずさる姿が痛ましい。
だがそれも無理もないことだ。
女の子を三人の男たちが取り囲んでいるのだ。
それだけならまだしも男たちは両手を地に付け、なめあげるようにして女の子の顔をうかがいぐるぐると輪を描いて回っている。
しかも、なにやらぶつぶつと言っていて。
「我輩はワキをなめ回したいのでアル」
「足の親指と人差し指の間こそ至高でアル」
「尾てい骨の良さが分からぬとは理解出来ぬのでアル」
うわー。
耳を傾けるんじゃあ無かった。
これは鳥肌が止まらん。
「アルアル言ってるし、こいつらお前の同郷じゃないのか?」
でもなんかアルの使い方が間違っているような……。
いや、むしろ正しいのか?
「なんだその不快な判断基準は。まあ……、こやつらがチュンカ人であることは認めるが」
「あっ、本当にチュンカ人なんだ」
「ふむ、チュンカの恥なら余が粛正するしかあるまい。手出しは無用。ここは余に任せて貰おう」
まあ、女の子を助けられさえすれば、それでいいので構わんが……。
チラッチラッチラッチラッチラッ。
ん? なんだかめっちゃ、ユンの方を見てる。
あー……、もしかしてこれはユンに良いとこ見せて気を引こうとしているのか。
ということはここに駆け付けたのも?
なるほど感心して損したわ。
「なあ、どうでもいいけどこれ自作自演だったりしない?」
「そんなわけあるか!」
「まあたしかに自演にしては酷いような気がするが」
チュンカや、コイツの印象も悪くなるしな。
「む? なんだ? 我輩たちとやろうと言うのでアル?」
「我輩たちはチュンカの重鎮なのでアル」
「我輩たちに狼藉を働けばただではすまないのでアル」
ふむ……。
「なあ、こいつらお前と同じチュンカの重鎮だと自白しているんだが?」
「こやつらが本当にチュンカの重鎮であるならばチュンカに未来などないだろうな」
「お前がそれを言っちゃうんだ……」
というか、そもそもの話、お前も含めて全員一国の重鎮には見えませんがな。
じゃあ、こいつらいったいなんなんだろう。
「ちゃああああ!」
問答無用と言わんばかりに、ユンの前の騎士である自称チュンカの重鎮は、女の子を三者三様の形でなめ回そうとしていた自称チュンカの重鎮のヘンタイトリオに飛びかかった。
「ちぇちぇい、ちぇいやあ!」
ヘンタイトリオの一人のアゴを蹴り上げ、体を宙に浮かせると、顔面を手の甲と手のひらで素早く交互に打ち付ける。
残ったヘンタイトリオの二人が、ユンの前の騎士さまに襲いかかるが軽くあしらわれていく。
これなら放っておいても良さそうだ。
よし俺は女の子を保護しよう。
「怪我はないか? もしくは執拗に体の一部をなめ回されてはいないか?」
海水ならたっぷりあるし、必要であれば消毒してあげよう。
俺は女の子に手を差し出した。
「うっ……。わあああん! 怖かったです怖かったです怖かったです!」
「ああ、そうだな怖かったな。あれは怖いよな」
俺だってアレは怖い。
抱きついてくる女の子の体を受け止め、背中を優しくさすってやる。
「助けてくださりありがとうです」
「いや、俺はなにもしていない。礼ならアイツに言ってやってくれ」
「イヤです……」
おや?
「チュンカの人たちはいっつもいっつもこんな事ばかりするです……」
「そうか」
「そうです! だから、大キライです!」
まあ、ここでそれでもアイツは助けてくるたんだし、お礼ぐらいは言っておけと言うのは違うだろう。
なにも言うまい。
今は憎まれてやってくれ。
当の本人は未だに戦っている。
報われん奴だ。
取り合えず、この子をわざわざここに残しておく事もあるまい。
「俺はツバサ、こっちはユン。君は?」
「あたしはオルワ。お兄さんは騎士なんだ」
「ああ、さっき登録したばかりだけどな。そんな事より、オルワのおうちを教えてくれないか? 俺たちが送り届けるよ」
と、家を聞き出そうとしたところで背後から女性に声を掛けられた。
「あのー。騒ぎを聞き付けてやって来たのですがここであってますかね?」




