二十三話 耳掻きをするのです
バードストライクを回避したら墜落した。
サルナシとシイタケ見つけた。
あと、サルナシの枝をシノに与えたらトチ狂った。
城なしに戻るとシノがごろごろと赤面しながら転げ回った。
「あああ。わぁは何と言う醜態を晒してしまったのじゃああああ」
「ヨダレだばだば、目はあさってで、とても酷い顔になっていたのです」
「す、すまん悪かった。庭に植えようと持ってきたけど、全部処分するよ」
あそこまでひっどいことになるとは思わなかった。
サルナシは廃棄して無かったことにしよう。
そして、全てを忘れよう。
そう考えたのだが。
「まてまて、それはそれ、これはこれ、捨ててしまう何てとんでも無いのじゃ」
「またでろでろになるのです?」
「わぁは、そこまで酷かったのか? せ、節度をもって楽しめば大丈夫だと思うのじゃが」
気に入ったのか。
娯楽はまだ少ないし、こっそり、ちょっぴり使うぐらいならよかろう。
ネコなら普通だし。
ん?
「いや、人じゃなくてネコの姿で楽しめばいいんじゃないか?」
「「あっ!」」
サルナシ事件に決着が付いたのでマイホームに向かうと屋根がのっていた。
「何かモコモコしてて、とげとげしてて、不思議な屋根なのです」
「これは、かやぶき屋根じゃな」
「おお、囲炉裏には、かやぶきだよな。石だけど」
そりゃ、石が足りなくなるわけだわ。
石で、かやぶき屋根作るとはなあ。
だが、これで安心出来る。
明日からは海に出るから、石拾ってこれない。
間に合って良かった。
「あっ、おうちに池が出来ているのです」
「縁側の下に池を這わせるとは風流じゃな。わぁが捕まえたヤマメも泳いでおる」
「こう来たか」
実は城なし俺より賢いのか?
いや、ずれてるけどさ。
結局、水源からトイレまで繋がったけど、魚が流れていかないように工夫されているし。
しかし、これは都合が良い。
シイタケ増やすのに湿っぽい場所ほしかった。
シイタケの原木は縁の下に置いておこう。
今生えているのは全部むしって晩めしだ。
「おっきくて、グロいのです」
「シイタケか。ちと育ちすぎじゃのう」
「まあ、山のなかにひっそり生えていたやつだからね。こんなんなる前にむしってやればいい」
シイタケ、昆布、ヤマメで鍋とか心引かれる料理を思い付いたが、ヤマメは増やしたい。
海の魚は蛍光色で、キラキラ色鮮やかで食いたくない。
あれは、観賞用よな。
すずめを鍋にするのは論外だし、今は我慢しよう。
「塩ふって串焼きにして頂こうか。出来るまで遊んでていいよ」
「ラビはお手伝いするのです!」
「わぁは串を作るかのう」
何て良い子達何だろう。
進んでお手伝いするなんて!
しかし、聞き分けの無いクソガキも割りと好きなので少し寂しい。
もう少し子供らしくワガママで自由に生きておくれ。
前世の世界と違って隔離された世界だ。
誰かの迷惑考える必要もない。
でも、『マジきもいんですけどー?』とか言うような子に育ったら切腹する。
「じゃあ、以前のボロ住居をばらして薪や串にしておくれ。もうあれは必要ないからね」
「分かったのです」
「任せるのじゃ」
片付けが出来て丁度良い。
囲炉裏を使ってみたいところだが、細かい枝や葉っぱばかりだからむかないね。
さて、俺はこのお化けシイタケを切り分けますかね。
シイタケ洗って棒をとって切るだけ。
簡単なことなんだが、厚さがまばらになってしまった。
結構ながく料理していたんだが、美しく切る技術は進歩しなかったなあ。
「ほい、串ができたのじゃ」
「器用なもんだな。流石忍者か。あっ、耳掻き作れる?」
「に、忍者に耳掻き求めるのかのう。わぁは、ふびんすぎるのじゃなかろうか」
とかなんとか言いながら、シノは耳掻きを作り始めた。
串が出来たから後は刺して焼くだけだ。
「かまどの準備が出来たのです」
「スタイリッシュ着火!」
しかし、シイタケのみの串焼きでも、それなりの代物に見えるもんだ。
「ご主人さま、まだなのです?」
「もう、いいかな。シノ、耳掻きはあとで良いからご飯にしよう」
「ん。今良いとこなんじゃが致し方ないのう」
既に耳掻きは出来ていて、耳掻きのおしりの装飾に凝っていたようだ。
短刀一つでよくやる。
と言うか最初はぶつぶつと物申していたのにノリノリじゃないか。
「さあ、お食べ」
「くにゅくにゅしていて肉厚でおいひいのれふ」
「まごうことなきシイタケじゃな! 塩も良いが、醤油が欲しくなるのじゃ」
ああ。
それを言ってしまうのか。
やっぱり、醤油が欲しくなるよなあ。
「シノ、醤油作れる?」
「む、無理なのじゃ」
「だよなあ。大豆は目処がたつけどそこから先がなあ」
さっぱり分からん。
味噌も、豆腐もつくってみたいところだが、知識が足りない。
醤油はともかく、味噌は手前味噌などと言うぐらいだから、自作出来そうな気もするのだが。
食事を終えると、シノの作った耳掻きを使って耳掻きをする事にした。
「まだ出来ていないんじゃがのう」
「使ってみて具合を確めていこう。あ、ひとり一本は欲しいから、あと二本作ってよ」
「やれやれ、仕方がないのう」
やはり、ぶつぶつと言いながらもノリノリで、枝を削り始めた。
工作するのが好きなのだろうか。
忍者だけに。
「ミミカキとは何なのです?」
「耳掻きを知らないとは凄い事になってそうなのじゃ」
「おいで、ラビから耳掻きしてやろう」
ラビの頭を膝にのせる。
目と目が合う。
「ご主人さまあ?」
ウサギ獣人だからね。
耳が前向いてるからこうなるわな。
しかし、膝枕が気に入ったのか。
甘っころい声を出しおって。
「この棒を耳に突っ込むから動くんじゃあないぞ?」
「ぼ、棒を耳に突っ込むのです!?」
耳掻きの存在を知らずに育てばそりゃ怖いか。
ぷるぷる震えとる。
優しくしてあげなくてはいかんな。
にしてもやはり汚れているなあ。
構造的欠陥だろうか。
人の耳なら、自然に外にこぼれ落ちるのだが、この耳ではなあ。
「ぼぼぼぼぼって凄い音がするのです」
「ちょっとの間だから我慢しようね。それコリコリコリー」
「ひあああああ」
たんまりとれた。
しかし、知らせずにそっと処分するのが優しさよ。
「よし、次はシノだな」
「わぁは、人間とは違うでな。耳垢は貯まらないのじゃ」
「なんて便利な」
いやしかし、ネコになったりするしな。
耳垢どこいくのって話だわな。
どこにいくんだろう……。
「今度はラビがご主人さまの耳掻きをするのです!」
「えっ、お、俺は良いよ」
「ラビ、障子の時みたいにぷすっとしてはいかんぞ? 取り返しがつかなくなるのじゃ」
それが怖い。
ぷすっとされそうで怖い。
「優しくするので、大丈夫なのです。それにご主人さまは凄いから多分ぷすっとしてもへっちゃらなのです」
「そ、それはどうだろうな」
試したい気もするのだが、ダメだった時は大惨事だ。
しかし、ラビは耳掻きをすると言って引いてはくれない。
ああ、去らば俺の鼓膜ちゃん……。




