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二百二十九話 昨日の敵は今日の友

 騎士登録をしに来た。

 吠えた。

 尻がユルくなった。



 身体検査を終えて晴れて無罪放免、そして、騎士登録も終わった。


「あっ! 騎士さま戻ってきた! ちゃんと登録できた?」


「ああ……、まあな……」


「あれ? 騎士さま登録できたのに元気ないの? どうして?」


 言えるかそんなん。


 まったくひどい目にあった。


 後から聞いた話によればあのお姉さん、何だかんだと理由をつけては、ああして男たちの鳴き声を聞く趣味があるという。


 もちろん見張りもその趣味を共有しているので止めたりしない。


 特に異種族の場合は人間とは異なる体型をしている場合が多く、また、体重も人の基準が通用しないため、カモにされやすいらしい。


 あーあ、今思えばあの二人のやり取りは妙に茶番臭かったしなあ。


 はぁ、狂ってやがる。


「ううっ、尻が……」


「もしかして騎士さま痔? 痔の騎士さま背中に乗せるのはちょっとイヤかも」


 ユンは前屈みになって、両手でお尻を抑えてイヤンイヤンのポーズしてみせる。


 そうな、痔の騎士さまは乗せたくないわな。


「痔じゃあないから安心せい」


 空から落ちても死なない俺の括約筋かつやくきんが、あれぐらいでどうにかなるわけがない。


 でも、なんでだろう膝が笑ってぷるぷるしてしまう。


 まあ、ともかく登録は出来たんだ。


 もうさっさと帰ろう。


 が、世界はそれを許さない。


「余の……、余の馬を返せ!」


「あっ、前の騎士さま!」


「またお前か」


 競馬会のゲルから出たところで、再び自称チュンカの重鎮さまが現れた。


 重鎮が頻繁にこんなことしていてチュンカは大丈夫なんだろうか。


 やれやれ、これだけ執着するのになんでユンを見捨てて逃げたんだか。


「ユン、俺の後ろに」


「でも騎士さまお尻……」


「大丈夫。何とかする」


 さて……。


 何とかするとは言ってみたものの困ったな。


 まるで力が尻に入らない。


 つまり、今の俺は踏ん張りが効かない。


 少しどつかれただけで吹っ飛んでしまう。


 どうしたもんか。


 チラリ……。


 ぷるぷるぷる……。


 いや、まて、チュンカの重鎮さまの動きがおかしい。


「なあ、なんでそんなに腰が引けているんだ?」


「貴様たちが余をはねたからだろう」


「そうか、なんかすまん」


 コイツも膝が笑ってやがる。


 さっきはねたダメージが残っているのか。


 これならなんとかならそうだ。


「わー、二人の騎士さまがまーを巡って争ってる! なんだか悶えちゃう!」


 なんだそりゃ。


 あれか?


 私のために争わないでってやつか?


「いつまで余の馬と余の前でなれあっておる!」


 別に今馴れ合っていなかったと思うんだが。


 やれやれ、拳を構えているところを見ると一戦交えなければならないみたいだ。


「見える……!」


 俺は、構えるかわりに【風見鶏】を使った。


 目と目が合う。


「しぬぅえええい!」


 先に動いたのはチュンカの重鎮さまだった。


 前に一歩踏み出したかと思うと──。


「秘技、【不動飛翔】!」


 ──そのままの姿勢でこちらへ向かって跳ねた。


 どうすりゃそんな動きが出来るんだ。


 まあ、意表は突かれたが避けられない事は……。


 しかし、その時尻に電撃が走る。


「うっ、尻が……」


「ちぇぇい!」


「んぐっ!」


 尻の痛みで動きが鈍って鼻に膝を受けてしまった。


 鼻はやめてほしい。


 ツンツンして涙が出そうになってまう。


 それにしてもなんて跳躍力だ。


 腰を悪くしている様に見えたんだがこんなに激しく動いて大丈夫なんだろうか。


「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」


 大丈夫じゃなかった。


 ゴロゴロと地べたを転がり回ってやがる。


 しかし、これはチャンス。


 俺は、転がる自称チュンカの重鎮さまに容赦なく翼を振り上げる。


 が──。


「ふぉぉぉ……!?」


 ──尻から脊髄にかけて、くすぐるような震えが走り、これは俺も奇声をあげざるを得ない。


 なんと締まらない戦いであろうか。


 それから互いに決定打に欠ける打ち合いが続き。


「そんな腰の入っていない技をいくら出してきたところで俺には効かないぞ? むしろお前の腰が更に悪くなるだけだ」


「ほざけ。貴様かて尻に力が入っておらぬではないか」


 やがて俺たちの戦いは泥沼の様相を呈す。


「きゃあああああ!?」


 だがそれを女の子の叫び声が打ち破った。


 近い。


 これは行かねばなるまい。


「悪いな、女の子の悲鳴が俺を呼んでいる。お前に構っている暇は無さそうだ」


「それは余のセリフぞ」


「そうかい」


 コイツに見知らぬ女の子を助けようだなんてそんな正義心があったとはな。


 熱いなにかを感じつつ、俺たちはガニ股で、からだが許すかぎりの速さで駆けた。

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