二百二十二話 レースの裏の不審な影
バカップルした。
もと騎士に絡まれた。
ユンのお母さんにチクった。
ユンのお母さんがもと騎士を追い回した後は日がくれるまでユンとおさんぽ。
日がくれれば晩ごはんをいただいた。
そして、晩ごはんの後。
「アンタたちは、このゲルを使いな」
ユン一家の子供たちが使っていたテントをあてがわれた。
俺たちの為に、一家を一つのテントに押し込める形になって申し訳ない。
「気を使わせてしまって悪いな」
「アンタは、ユンの大事な騎士さまだからね。これぐらいはしてやるよう」
「ありがたいが、そこまでレースってのは大切なものなのか?」
走るだけなら草原を走れば良い。
レースに出れば、賞金なんかも手には入るのかも知れないが、生活に困っている様子もない。
それなら、レースに固執することも無いだろうにと思う。
「まっ、気持ちの問題だよ。馬人として生まれたからには、一生に一度くらいはレースで一番を取りたいものさ」
「そうか。それならユンもやっぱり一番を取りたいんだろうか」
「ああ見えてあの子は誰よりも早く走りたいと考えているからね。それに自慢じゃないが、アタイの娘は優秀だよ。他の馬になんて負けるはずがないんだ」
意外だな。
走るのは好きそうだが、勝ち負けにはあまり固執しないイメージだったんだがな。
「しかし、優秀だとは言っても今までレースに全て敗けているんだろう?」
「アタイの言葉を疑うのかい? まあ、それも仕方の無い話か……。ユンは勝てるハズなんだがおかしな出来事が続いてね」
「おかしな出来事?」
なにやら、ユンのお母さんは眉間にシワを寄せて難しい顔をする。
「レース中に、突然穴が開いてそこに落ちたり、何もないところで躓いたりね」
「穴? 地盤が緩んでいたとかそう言う話か?」
「一度くらいはあるかも知れないが、娘の出るレースに限って立て続けに穴が空くなんて事は普通無いだろうよ」
確かにそれはおかしな話だな。
「何者かが、ユンの勝利を邪魔をしていると?」
「そうとしか考えられないだろうよ。ただ、運営に押し掛けても、穴にに人為的な工作の後は見られないの一点張り、しまいにゃアタイをクレーマー扱いさ」
「それだけの事があって、その対応もおかしいだろう」
しかし、ユンを狙う理由が解らないな。
レースの掛け金狙っての事なら、ユンだけを狙い打ちってのはおかしい。
なら何の為に?
「おっと、レース前だって言うのに変な話をしてしまったね」
「いや、知らなければ、俺もユンと一緒に穴に落ちていたかも知れないし助かるよ」
「そう言ってくれるならありがたいね。でも、あの子には内緒にしておいておくれ。あまり、賢くない子だから難しい話をしたらレースに集中出来なくなっちまう」
確かに、ユンならそれもあり得そうだ。
「ああ、そうだ。クソ騎士の方は心配いらないからね。二度とユンに近付かないように体で覚えさせたから」
「そりゃ、助かる話だな。いったい何をしたんだ?」
「ぼこぼこにして医者に治させてから、またぼこぼこにしてやったよ」
「やりすぎじゃない!?」
そんな恐怖のおかわりはいらない。
ユンのお母さんに告げ口したのは酷い仕打ちだったかもしれない。
「まっ、アンタには期待しているよ。もうおやすみ」
それだけ言うとユンのお母さんはテントを出ていった。
「さっ、それじゃあもう疲れたし、今日はもう寝るとするか。明日は朝早くから特訓させられそうだしな」
「ラビも眠いのです……」
「すー……」
おっと、ユンのお母さんとの話はラビたちにはたいくつだったか。
「先に寝てしまっても良かったのに」
「ご主人さまと一緒じゃなきゃイヤなのです!」
「すー!」
この甘えん坊さんめ。
「じゃあほら、こっちにおいで。夜はかなり冷えるらしいから、毛布は全部使ってしまおう」
とてとてと近づいてきたラビと狂竜を捕まえて、毛布の上で転がすと、のり巻きみたいにしてやった。
「ひあー!?」
「すー!?」
そいで、それを抱き枕にすればみんなあったかい。
「じゃ、おやすみ」
「こんな、こんな雑な感じじゃ寝られないのです……! すぅ……」
「すー……! ぴすー……」
いや、寝てるし!
まったく、寝つき良すぎだろう。
まあ良いけど。
しっかし馬って酔うのな。
未だにユンに揺られている様な感じがする。
気持ち悪いって程では無いが、気になってしょうがない。
なんて考えたりもしたのだが、だいぶ疲れていたようで、俺も2分後にはぐっすり眠っていた。




