二十二話 たまらんのじゃあ
お魚焼いた。
みんなで食べた。
あと、城なしに池を作った。
事は成した。
しかし、ラビとシノのところに戻るときにちょっとしたアクシデントに見舞われた。
いかん。
鳥の群れだ。
このままじゃぶつかってしまう。
避けないと……。
あ、お見合いした。
何で避けようと思った方向にシンクロするかね。
まあ、こんなときは宣言すれば良い。
「俺、右に避けるから!」
しかし、相手は鳥類、言葉は通じない。
うわっ。
不味い、空飛んでるのに悠長な事をしすぎた。
バランスが保てない。
空を飛ぶと言うのは、優雅で自由で、開放的なものだが、とても繊細で、バランスを崩すと立て直すのが難しい。
あーだめだ。
こりゃ、落下するわ。
ぐるんぐるん回ってるもん。
どうすることも出来ずに、俺は木の上に突っ込んだ。
ガサガサガサ。
いてて。
持ってて良かった【落下耐性】。
痛いで済む。
おやこれは……。
木に引っ掛かった翼を外していると、メリメリとこの木に侵食して絡み付く植物を見つけた。
サルナシかな?
小さな実がなっている。
実家の庭にこれと同じのが植えてあったっけかな。
確かめてみるか。
この植物の正体を確かめるため、親指の先程度の実をナイフで二つに割った。
ああ、間違いない。
キウイと中身が一緒だ。
味は……。
うへぇ、酸っぱくて食えたもんじゃない。
でも、間違いなくサルナシだ。
これは城なしに植えたい。
実はひと手間かけないと食べられないが、枝には面白い効果があるからな。
シノが喜ぶはすだ。
実のなる枝と、実のならない枝をそれぞれ少しずつ折って、辺りの土と一緒にウエストポーチにしまった。
良いもの見付けられたな。
そろそろ、戻らないと。
しかし、サルナシのまわりには動物が集まりやすいと言われるだけの事はある。
木が折れていたり、引っ掛かれたりして荒れ放題だ。
折れた木にキノコなんか生えていたりしてね……。
うっ。
早く戻ろうと思ったのにまたも良いものを見つけてしまった。
このキノコはシイタケじゃないか。
カサの部分がでかすぎてグロかったので見逃すところだったわ。
売ってるのと天然物って見た目違うのよな。
キノコはみんなそう。
俺は元ニートだ。
しかし、幼少の頃は多趣味で色々なモノに興味を持つ、とても活発な子供だった。
ありんこ飼ったり、ミミズ飼ったり、カブトガニ飼ったり。
コケ増やしたり、マリモ育てたり……。
とても明るくないラインナップだが、他にもシイタケ栽培をしたこともあったのだ。
だから、このキノコがシイタケだとすぐに分かった。
これはお持ち帰り決定だろう。
増やし方までは分からんが、この辺の木とかまとめて持ってけば、生えてくるだろう。
俺は手当たり次第にキノコの生えていた環境ごと、ウエストポーチに詰め込んだ。
いやあ、今日は大収穫だったな。
サルナシもシイタケも良いモノだ。
おっといかん、こんなことをしていたら日が暮れてしまう。
早く戻らないと──。
あれ?
どっちに行けば良いんだ?
嘘だろう。
また迷子かよ。
なにも学べていないじゃないか。
流石に、空を飛べば道はわかるが、飛び上がれる場所を探さないといけないなあ。
いかん。
迷子がトラウマになっているのか弱気になってしまう。
森のなかは薄暗いし、一人で森を歩くのは久し振りだし。
ん?
何か近付いてくるぞ?
魔物か?
「見える!」
俺はいつでも戦えるように、【風見鶏】を発動させ警戒を強めた。
ああ、やっぱり一人だと不安だな。
いつもなら『ご主人さまは凄いからあんなん楽勝だよ』とか強気に出られるのに。
いつの間にか、俺の中でラビやシノの存在が大きくなっていたんだろうな。
俺は、次第に強くなってくる気配に一層警戒を強めた。
のだが──。
「あーるーじーさーまー!」
近付いて来る気配の正体はシノだった。
おおっ。
ラビを背負って全力疾走して来る。
迎えに来てくれたのか。
「ご主人さま! 怪我はないですか? 心配したのです」
「主さまが、空から堕ちていくのが見えたのでのう。助けに来たのじゃ」
「ありがとうシノ、ラビも。丁度迷子になっていたから助かったよ」
本当に助かった。
心細かったし。
ハグしちゃおう。
「そ、そんなに力強く抱き締められたら、中身が出てしまうのじゃ」
「ご、ご主人さまが、甘えているのです!? こんなの初めてなのです!」
「あ、甘えてないよ? そりゃ。頭もナデてやるー!」
何だか気まずくなったので頭をナデる事でごまかしてしまった。
でも、誤魔化しきれていない気がする。
あっ!
そうだ。
早速、サルナシの枝を試してみよう。
「ほら、シノ。シノの大好物だぞー」
「あ、主さま? わぁはそんな小枝をもらっても嬉しくは――。って、それはまさか!」
シノの瞳がネコのように細くなった。
目だけネコになるんかい。
器用だな。
ちょっと怖い。
しかも、めっちゃ、ガン見しとる。
これはいったいどういう事なのか?
答えは簡単サルナシは、キウイの仲間だ。
そして、サルナシとキウイはマタタビの仲間なのだ。
ネコにマタタビを与えるとトチ狂った様に病み付きになる。
「ほーれ、みぎ、ひだり、うえー!」
「にゃっ。にゃっ。うにゃーん!」
「ちゅ、宙返りしたのです!?」
あ、ラビも興味あるかな?
試してみようか。
「ラビも興奮する?」
「こ、興奮? んー、とくになにも感じないのです」
「ふむ、シノ専用かあ」
ならばしかたがない。
今は、シノだけ満足させてやろう。
「そりゃ。これがええのんか?」
「良いのじゃあ、たまらんのじゃあ。もっと欲しいのじゃあ」
うわあ。
でろんでろんになってしまった。
ネコの喜びっぷりを人間で現したらどうなるかなどと考えたことがあるが……。
ヨソ様には決して見せられない、見苦しい姿になるんだな。
なんか、とんでもないことになってきたぞ?
「ヒヒッ? イヒヒヒヒヒヒ!?」
「お、おシノちゃんの顔が、人には見せちゃダメなモノになっているのです!?」
「あっ、待てシノ。そんな状態で走り回ったらいかん」
フラついているのにシノの足はとても速く、追いかけても、追いかけても、追い付けなかった。
げっ、見失った。
あんな状態で魔物にでも襲われたら大変だ。
「シノを探すために空を飛ばなきゃいけないな」
「あっちに良さそうな崖があるのです」
「おっ、あれなら良い感じだな。早くシノを見付けてあげよう」
そう思って崖の上に回りこんでいたのだが、空を飛ぶまでもなくシノは見付かった。
自力でシノが帰ってきたのだ。
「主さまー。いっぱいくっついて来ちゃったのじゃあー」
「良かった。おシノちゃんの顔が元に戻っているのです」
「いやいやいや。ちっともよくないぞ!?」
シノは土煙をあげながら凄まじい量の魔物を引き連れてきた。
まてまてまて!
こんなにたくさん相手にしていられないぞ!?
にげるっきゃない!
ラビを抱えあげると、バトンタッチの要領でシノと並走して、シノを捕まえワキに抱えた。
そして、俺は地を蹴り、崖から飛び立った。
「ギリギリだったのです。魔物がうじゃうじゃしてるのです」
「シノ。怪我はないか?」
「ヒヒッ。大丈夫なのじゃ」
まだマタタビが抜けとらんがな……。
危ないからもうマタタビをお外でやるの止めよう。
俺はひとり反省し、そう心に決めた。




