二百十八話 なるほど、走り出したら止まらないってか
ユンのお母さんは騎士だった。
前の騎士についての話を聞いた。
馬人について詳しくなった。
なんとなく食後の会話は重たい話になって、場の空気が沈んでしまった。
しかし、そこで違和感。
あれだけ騒がしかったチビッ子が静かなのはどういう事だろう。
チラリとチビッ子たちの方を見やれば、白いかりんとうの様なものを口にしていた。
ラビと抂竜も同じものをもらったようで、一緒にお口の中でモゴモゴしている。
「あれが気になりますか? どうぞ、食べてみてください」
「あ、いや、なんだか催促したみたいで悪いな」
「あはは。構いませんよ。こう言った乳製品には自信がありますから、自慢半分です」
ユンのお父さんは、白いかりんとうの様なものを一握り皿にのせてくれた。
ほーん。
摘まんだ感じ柔らかくはなく、乳製品らしさを感じない。
まあ、食ってみるか。
ガリッ。
「おふっ、固いなんてもんじゃないな。石でもかじってる気分なんだが、これはいったいなんなんだ?」
「先ほど出したものを干したものですよ」
「これもヨーグルトなのか!」
固いヨーグルトが存在するなんて驚きだ。
飴の様に舌で転がしても、味があまり染み出てこないため、かじる必要があるが、この乾燥ヨーグルトは石みたいに固い。
だもんで、味を求めて黙々と噛み続けることになり、結果チビッ子たちの口を塞ぐことになっているようだ。
「あっ、なれないと、歯が折れるから気を付けて下さい」
「そこまでか……」
「子供だましと言うお菓子です。食べている間は子供たちも静かになりますからね。場所によっては子供あやしとも言われています」
そりゃ、便利なおやつがあったもんだ。
モゴモゴモゴモゴ……。
ズズッ……。
ふむ。塩ミルクティーとの相性はいいな。
ほっとする。
ひと息吐いていると、俺のところへユンがムチをくわえて、四つん這いにトコトコと寄って来た。
「じゃ、ご飯食べたし特訓しよう?」
なんだか、散歩をせがむ犬みたいだ。
「今からか? 俺は酒飲んだから危ないし、ユンも食べたばかりだから横腹が痛くなってしまうぞ?」
「でも、時間無いし」
まあ、時間が無いのは確かだが……。
「ほらっ! 言い訳してたらいつまでたっても始まんないよ! アンタ、えーっと、そうだね。まずは今日一日ユンに股がったままでいな!」
おっと、ユンのお母さんに叱咤されてしまった。
騎士の大先輩でこの性格だ。
加えて三児のオカンときたもんだ。
逆らわない方がきっと身のためだろう。
俺はこれ以上叱られまいと、即座にユンに股がった。
が。
「あー。全然なっちゃないよ! 背筋は伸ばす! 手綱は体を支えるのに使わない! モモに力入れて体を支えるんだよ!」
ただ股がるだけで叱られてしまった。
これは、なかなかに厳しい。
言われるがままにしてみたが、ユンのお母さんは両腕をでっかい胸の下で組んで俺を見たまま動かない。
まだなんか足りなかったんだろうか。
「アンタ、足の踏ん張りは話にならないけど、姿勢は良いね……」
おおっ、誉められた。
「空を飛ぶのにへっぴり腰だと具合が悪いからな」
「へー。その辺は馬も鳥も変わらないんだねえ」
鳥じゃねえ!
口に出して否定したいが、ご機嫌は損ねたくないのでぐっと飲み込む。
「そんじゃ、股がったなら外へ出てその辺適当に散歩をしてきな。但し、今日はまだ走るんじゃないよ? また落馬するからね」
「ああ、分かった。それはいいんだが、ラビたちを一緒に乗せても構わないか?」
「ふん。ダメに決まっているだろう。アンタんとこのチビどもは面倒見とくから、さっさと二人で行ってきな!」
ラビと抂竜は一緒には連れていけないか。
「ラビ、そんな訳で連れていけないが、ユンのお母さんの言うこと聞いて大人しくしているんだぞ? 抂竜もな」
「分かったのです!」
「すー!」
おや、思ったより聞き分けが良い。
ユンのお母さんのオカンパワーのたわものだろうか。
「ほら、話は済んだろう? さっさと行く!」
ユンのお母さんは、捲し立ててユンの尻をひっぱたく。
パシン……!
「ひゃん!」
尻を叩かれたユンは可愛い悲鳴をあげて発進。
とうとう俺たちはテントから追い出されてしまった。
「やれやれ、ユンのお母さんは忙しないひとだな」
「だって馬だもん」
「なるほど、走り出したら止まらないってか……。いや、騎士だって言ってたじゃないか」
上手い事言ったつもりか。
しかし、ユンは首だけ捻って俺を見ると、きょとんとした顔で言葉をこぼす。
「騎士だけど馬人だから馬だよ?」
確かに。
その辺りはちょこっとややこしい。




