二百五話 マッドプリンセス
シノが腐った。
ツバーシャと巻き貝の二人は引きこもった。
ジュリが壊れた。
シノが腐る理由は猫としての本能的なものだろう。
引きこもりについては、自己に対する恐怖への防衛反応と逃避か。
ジュリのは逃避と依存だな。
ならば、一番病んでるアノ人はジュリに近い症状なのかも知れない──。
はてさて困った。
「暇になっちゃったな」
シノが今も絶賛デロデロ中なのは想像にかたくないので、マイホームに戻る分けにはいかない。
ならば、畑でもいじるかと思うも、ジュリのオーナーらしくの成果か、見世物小屋の人たちが朝から畑を耕しているので近付きがたい。
「何もすることがないなら、ラビとお散歩するのです!」
「すー!」
「お散歩かあ……」
お散歩している間に、やることが見付かるかも知れないか。
ラビと一緒に道なき道を歩く。
「メエエ……」
そんな、俺たちをもっちゃもっちゃと草食うヤギが見守る。
「あっ、ヤギさんがいるのです」
「あれは、見世物小屋の運搬要員だよ」
「うんぱん? 食べるのです?」
食べない食べない。
乳は飲んだりするらしいけどな。
少し歩くと遠目に皇子の入った牢が見えてくる。
相変わらず狭いので、たまには外に出さないとストレスで病気になりそうだ。
そんな、皇子から少し離れたところで、ラビが発見を口にする。
「ご主人さま。なんか建っているのです!」
「すー!」
「んんー? 城なしがなんか建てたのか?」
結構な大きさの建物を建築中の様だ。
まだ土台しか出来上がっていない。
しかし、変だな。
城なしは土の上では建物を建てられないと思っていたんだが……。
「ご主人さま。なんか生えているのです!」
ラビに言われて見やれば、土台の裏側から石のコードみたいな物が、ニョロニョロ伸びて下層の中真にある石の根に繋がっている。
なるほど。
直接的ではなく、間接的になら建物を建てられるわけか。
いや、それなら実質制限なんてあって無いような物気がするが。
「しかし、この建物はなんなんだ」
さすがに土台だけじゃあ分からん。
観察を続けていると、地面に絵が描いてあるのを見付けた。
描かれていたのは翼だ。
なんとなく、俺の翼に似ている。
「ご主人さまの翼なのです!」
「すー!」
「やっぱりラビもそう思うか?」
いったい誰が描いたのか。
その答えはすぐにやって来た。
「神さま!」
「あ、お姫さま」
「神さまありがとうございます。この様な教会を建てて下さり──」
あっ、これ教会なんか。
別に俺が建ててるわけじゃあないし、神さまが教会を作るってどうなんだろう。
と言うか、教会をもらって喜ぶ教徒ってのもおかしな気が……。
ともあれ、俺が作ったと思われるのは、城なしに対して後ろめたいので、そこは否定しないといかんな。
「これを作ったのは城なしだぞ?」
「はい。城なしさまは神さまの創造を犠牲に生まれました神域ですですから、神さまがお作りになられているのと同義です。そして、神さまが器用であらせられないのはこのためです」
「あ、うん。そうな……」
すげーや。
一瞬で自分の中の神さま像と整合性を取りおった。
しかも、俺の欠点をカバーする解釈になっている。
世の中大抵の物事ってのは、否定も肯定も出来るもんだが、これはその極地の気がする。
「しかし、本当にこれ教会なのか? 城なしは結構な気紛れ屋だぞ?」
突然忍者屋敷建てたり城建てたり。
何を建てるかなんて分かったものじゃあない。
「私がここで神さまに祈りを捧げていたので間違いありません」
「あー ……」
それなら、これは教会かもしれない。
文化的な建築物の好きな城なしの事だ。
祈るお姫さまを見て、“あっ、教会建てよう”なんて思っても不思議じゃあない。
「でも、俺がいるのに祈りってそれはどうなんだ?」
「当然祈りは必要です。私は神さまのいつもお側にいるわけではありません。しかし、祈りあらば神さまを常に身近に感じる事が出来ます」
「そうかい」
色々病的に狂っているのに真っ直ぐ宗教に至る道を踏んでる気がするのが怖い。
「この教会が完成すれば、ここで学びを広げる事が出来ます」
「ああ、学校作るとか言ってたっけか。変な教義を教えるより、読み書きと算術と言った基礎的な事に重みを置いておくれよ?」
「もちろん、読み書きが出来なければ聖書を読み上げたり、模写したり出来ませんから確実に教え込みます。算術についてもお布施を数えたり教会を運営するにあたって必要なので同様に教え込みます」
腹黒すぎないその教育理由?
もちっと、オブラートに包んで、さも有りがたい理由を取って付けないと誰も来ませんがな。
色々思うところがあるのでその後しばらくお姫さまに説教をした。




