二百三話 のんびりプカプカ干物
サエちゃんが近づいて来た。
ヤドカちゃんも近づいて来た。
二人は手にナイフを握ってた。
ドスッ!
ビクン!
ザクザクザク……。
「ほー。見事なもんだ。あっという間に魚が開きになったな」
「すー!」
炎天下の小島でサスペンス。
なんてものがはじまりそうな雰囲気だったが、んなこたなかった。
サエちゃんとヤドカちゃんは、釣った魚を捌いてくれようとしていた、だけだったのだ。
「ありがとう。助かるよ」
コクリ。
二人は頷くと更に、開いたさかなの目の部分にさつま芋のツタを通していく。
何をするのかと思えば、どうやら開いた魚を天日干しするようだ。
なるほど、干物にするのか。
ならば、物干し台がいるだろう。
壺に土を入れて棒を突き立てたものを二つこしらえて、その間に棒を渡して簡単な物干し台を作った。
俺が作ったから不細工だ。
シノに頼めばずっと、良いものが出来るだろうが──。
「わぁのが数が多いのじゃ!」
「ぎょ(私のが大きい)」
──何やら、白熱しているのでそれはむずかしい。
と言うか君たち、勝負のルールを決めていなかったんかい。
勝負の行方は泥沼の様相を呈している。
まあ、あっちは放って置こう。
しかし、勝負のために釣果を手元に置いておきたいだろうから、シノとギョっちゃんの魚は捌けない。
そんなわけで、直ぐにサエちゃんとヤドカちゃんが手透きになってしまう。
「あー……。まあ、どうせ直ぐに釣れるし、休んでいても構わないぞ?」
フルフル……。
二人は首を横に振る。
おやまあ、勤勉な引きこもりが居たもんだ。
ならば、釣りでもを始めるのかと思えば、膝を曲げ、頭を下げて飛び込み姿勢。
そして、頭から海に飛び込んだ。
サエちゃんとヤドカちゃんは、どうやら網を使うようで、四角い網を広げ、端と端を持って海にもぐっていった。
あの飛び込みを俺がやると、あのままの姿勢で前に飛んで、足から海に落ちるんだけど何が違うんだろう。
「ご主人さまー!」
そこへちょうど入れ替わりで、ラビがやって来る。
ははんなるほど。
ラビが来たから逃げたのか。
「ラビもお手伝いするのです!」
「すー!」
「じゃあ、狂竜と一緒に釣りをしておくれ」
ウエストポーチをラビに渡し、結んだ縄の反対側を自分の腰に巻き付ける。
これなら、うっかり手を離してしまっても大丈夫だ。
「行くのです狂竜ちゃん!」
「すー!」
バッシャーン。
よしよし、どうやら釣りは任せても大丈夫そうだ。
そんな二人を見守りつつ、俺は塩を作り続ける。
そうやって時は過ぎて行き──。
サエちゃんと、ヤドカちゃんが、コッソリと城なちに上がり、網で捕った魚を開き、ラビと目が合えば一目散に再び海へ。
俺も海水を塩に変えては、また新たに壺に海水を沸かして塩にする。
出来立ての塩を少し炒って、昼食にシノが捌いて刺身にした魚をそれで頂いたりしたりもした。
──やがて日が傾く。
その頃には物干し台に、たくさんの魚の開きがぶら下がり、今日の成果を実感できた。
「ところで、シノとギョっちゃんの勝負はどっちが勝ったんだ?」
「わぁのが数は多かったのじゃ」
「ぎょ(私のが大きい)」
あっ、これは地雷を踏んだか?
どっちが、勝ちか俺に決めさせたりしないよな……。
「だから引き分けなのじゃ」
違った。
引き分けでも納得できるのね。
「どうせ、明日も釣りをするんじゃろう?」
「明日も海だったらね」
「ぎょ(次は勝つ)」
そりゃ頼もしい。
で、今回の釣果はと言うと。
全部合わせれば、三日分ぐらいの食料にはなりそうだ。
1日頑張って三日分じゃあ、割りに合わない気もするが、50人分の食料。
かなりの収穫だろう。
「じゃあ、そろそろ城なしにもどろうか」
「はいなのです!」
「すー!」
海に飲み込まれる太陽を眺めながら、俺たちは城なしに帰った。




