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二百二話 その手にはナイフが

 ラビがサザエ乗っ取った。

 壺がサザエになった。

 引きこもりを追っかけ回した。



 鬼ごっこを始めたと言っても長くは続かなかった。


 のんびりと降下する城なちでも、10分もあれば海面に到達するには十分だからだ。


 だが、10分も全力で駆け回ればグッタリとして動けなくなるわけで……。



 早くも3人の脱落者が出た。



 やれやれ何をしに来たんだか。


 もっとも、貝の二人がぐったりしたのはラビのせいでもある。


 まあ、サザエが三つ寄り添って転がっている光景は微笑ましいので良しとしよう。


 しかし、そんな三つのぐったりサザエとは対照的に、釣りに闘志を燃やす者もいる。


「ぎょ(今度は負けない!)!」


「ぬ? なんじゃ? その熱い瞳……。ふむ、勝負かの。わぁに釣り勝負を挑んでくるとは良い度胸なのじゃ」


 相変わらずシノには、ギョっちゃんがなにを言っているのか分からんのに通じあってる。


「熱くなるのは構わんが、珍魚すくいの時みたいに相手の邪魔をするのはやめておくれよ?」


 釣った魚を海に逃がされては、本当に何をしに来たのか分からなくなる。


「当然、心得ておるのじゃ。あっ、主さまは、かばんで釣りをするのじゃろう?」


「そのつもりだな」


「ならば、反対側で釣ってくれぬかのう。勝負に水を差されたくないのじゃ」


 おおう。

 追い払われてしまった。

 まあ、真剣勝負の横でウエストポーチを使った釣りなんてして欲しくはないわな。


「なら俺たちはあっちで一緒に釣りをしような狂竜」


「すー!」


 シノたちとは、ちょうど反対側の縁に陣取って、ウエストポーチに縄を結ぶ。


「そら、このウエストポーチを海に投げるんだ」


「すー!」


 バッシャーン。


 城なちの縁に座って足を海に放る。

 狂竜は膝の上。

 一人と一匹でウエストポーチに海水が飲み込まれていく様子をじっと見詰める。 


 海に浮かぶ城なちはプカプカと波に揺られ、船の上にでもいるような気分だ。


 たまに通り抜けていく潮風が心地いい。


 ふむ。潮風か……。塩風……。塩……。


 そうか、塩も大量に必要だよな。


「狂竜。お塩もついでに作ろう。だから、一度、ウエストポーチを引き揚げる。手伝っておくれ」


「すー!」


 ちっちゃくても、そこはドラゴン。

 縄を引っ張る力は強い。


 でも、お手てもちっちゃいので何度も何度も手を滑らせる。


 その度にアワアワと慌てるものだから、膝の上から海に落っこちてしまいそうだ。


「縄のはしっこは俺が持っているから大丈夫だよ。だから、落ちついてゆっくり引き揚げよう」


「すー!」


「よしよし狂竜は良い子だな」


 なんとか引き揚げたウエストポーチを確認してみると魚が数匹中に入っていた。


 ふむ。

 この魚は見たことあるようなないような?

 ダメだやっぱり魚なんてどれも同じに見える。


 取り合えず、魚は壺にあけて分けておく。


 今日は大量に魚を集めるので、ウエストポーチを圧迫させたくはない。


 ついでに、壺を取りだし、火の準備をする。


「よーし、これで釣りをしながらお塩を作れるぞ」


 と、狂竜に語りかけたのだが、狂竜は何やら狂ったように声を上げる。


「すすすすすすす、すー!?」


「突然どうしたんだ狂竜。そんなに“すすすす”言っていると舌を噛んじゃうぞ?」


「すー! すー!」


 すーじゃ、分からんがな。


 でも、ちっちゃいお手てで俺の後ろを指さしている様な。


 誰か来たのか?

 

 ん? いや待て後ろ? なんで後ろ?


 シノたちは向こうにいるし、サザエは転がったまま。


 俺の後ろに誰かいるはずなんて……。


 恐る恐る振り返る。


 すると、そこにはサエちゃんと、ヤドカちゃんがいた。


「おお、二人とも回復したのか」


 だが、俺の声には反応せず、生気のない瞳で──。


 ユラリ……。ユラリ……。


 ──と、近づいてくる。


 更にはその手にナイフが握られていて、陽の光を受けてキラリと光る。


 えっ? 凶器? 何で凶器?


「ま、待て、落ち着け、突然何を……?」


「す、すー!」


 ぷるぷると震える狂竜。

 狂竜に共振する俺。

 歩みを止めないサエちゃんとヤドカちゃん。


 ユラリ……。ユラリ……。


 これはいったい何が始まろうとしているのだろうか。

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