二百一話 サザエ鬼ごっこ
クイズを終わらせた。
権利を手に入れた。
ジュリを絶望の淵に落とした。
釣りに向かうメンバーは、俺、シノ、ラビ、狂竜、ギョっちゃん、サエちゃん、ヤドカちゃんの6人と1匹。
見世物小屋から3人連れて来ただけで、結構な人数だ。
これ以上増えると俺が耐えられないので、これぐらいの人数が限界だろう。
取り合えず、城なちが海面につく前に休憩所の拡張を行うか。
なんて考えたりもしたのだが、巻き貝の二人は貝から出てこないので不要だった。
シノに作ってもらった釣り道具を配ったりもしたのだが、頭と手だけを出して釣り道具を受けとり、直ぐに貝に込もってしまう。
ふむ、ちゃんとサザエやヤドカリらしい動きをしているな。
どうやら俺の目に狂いは無かったようだ。
二人は間違いなく引きこもりである。
思えば出会ってから一度も言葉を交わしていない。
まあ、別に引きこもりだって構わないんだが、しかし、これは明らかに人選ミスでは無かろうか。
なんで、この二人が釣り部隊に選出されたんだろう。
まさか、魚介類だからって理由じゃあないよな?
ない、よな……?
そんな事を考えていたら、いつの間にかドップリじぶんの世界に入り込んでしまっていたようで、気づけば真横にサザエが転がっていた。
ん?
なんだなんだ?
仲良くなりたいのかな?
こちらから声をかけて良いものか、それともこちらから声をかけた方が良いものかと悩む。
が、しばらくすると。
ヌラリ……。
貝から顔を覗かせた。
しかし、そこから出てきたのは、サエちゃんでもヤドカちゃんでもなく、ラビだった。
「あれ? なんでラビが貝から出てくるんだ?」
「ちょっと貝を借りてみたのです!」
「よく貝を貸してくれたな。中身はどこいったんだ?」
「そこなのです!」
そこって言われても、ひっくり返った壺しかないが。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……!
うーわっ。
この壺めっちゃ震えてる!
「なあラビ。本当に貝を貸してくれたのか?」
「いっぱいお願いしたら、嫌そうな顔をして飛び出して貝に入れさせてくれたのです!」
「いや、それ多分ラビが恐くて逃げ出しただけだから」
嫌そうな顔に気付いた時点でやめたげて。
引きこもりから家を取っちゃったら、そら震えるしかなくなるわ。
「とにかくその貝を返してあげよう」
「分かったのです!」
「ほーら、サエちゃんだか、ヤドカちゃんだか知らないが、貝を返すから壺から出ておいで」
声を掛ければ意外にも少しだけ壺を持ち上げて、こちらに眼を向けてくれた。
チラリ……。
が、ラビの姿を見付けると。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……!
再び、壺に込もって震えだしてしまった。
ラビは元気いっぱいだから、多分引きこもりにとってはまぶし過ぎるのだ。
このままでは、ラビの陽気に焼かれてしまう。
「ラビ、貝を置いて少し──」
──離れていてくれないか、と続けようとしたところで、トントンと、肩を誰かに叩かれる。
振り返ってみれば、サエちゃんかヤドカちゃんのどっちかが、オットセイの様に状態を反らして俺の肩に手を伸ばしていた。
そうまでして、君たちは貝から出たくないのかね。
「えっと、何か用なのか?」
コクリ。
なんだろう?
ともかく、道を譲ってくれとジェスチャーするので望み通りに道を譲る。
すると、サエちゃんだか、ヤドカちゃんだかがパチンっと指を鳴らすとあら不思議。
壺がサザエに!
そしてサザエに変わった壺は震えを止めた。
恐らく、指をパッチンした方がサエちゃんだ。
ヤドカちゃんが、サザエ作れるならサエちゃんの容姿をコピーする必要がないからだ。
そして、サエちゃんは、ヤドカちゃんの隣に貝を並べると仲良く引きこもった。
うん。
よく分からん。
「ラビも一緒に並ぶのです!」
「いや、並ぶって……」
ラビの入った貝が、サエちゃんでとヤドカちゃんの貝に近づけば。
スス、ススススス……。
サエちゃんとヤドカちゃんが距離を取る。
再びそんな二人にラビが近づけば。
ススス、ビュン!
今度は飛んでもねえ早さで逃げ出した。
「あっ! 鬼ごっこなのです!」
「多分違うと思う」
「追いかけるのです!」
ビュン、ビュンビュン……!
「あっ、待って」
と、制止の声を掛けるも既に遅く、サザエ鬼ごっこが始まってしまった。




