百九十九話 二つの巻き貝の違い
釣り道具作ってもらった。
深海人魚の子の名前が明らかになった。
クイズが始まった。
本当に突然始まったジュリエッタクイズ。
しかし、それは多分──。
『ちゃんと豪華賞品も用意したのよ? なんと! 賞品は! わ、た、し! うふふふふ!』
──これを言いたかっただけだと思われる。
まあ、そのあとジュリに何でもしてもらえる権に変えてもらったら、なおの事嬉しそうではあったけど。
しかし。
「この子たちって言われても……」
貝じゃないか。
貝人?
いや、クイズにするぐらいだからもっと具体的に名称まで答える必要があるだろう。
幸い、この貝は俺も見たことがある。
七輪にのせて炭火をうちわでパタパタ。
最後に醤油をたらして頂くヤツだ。
「解った。この子たちはサザエ人族だな」
「んー! 残念! 半分は正解だけど、半分はハズレ。正解はサザエ人族とヤドカリ人族でした!」
「解るかそんなん!」
一問目から答えが二つとか、これ正解させる気ないだろう。
「ちなみに、サザエ人族の子がサエちゃんで、ヤドカリ人族の子がヤドカちゃんよ」
「紹介されても区別付かんわ……」
どっちもでっかいサザエでしかない。
そんな戸惑う俺を置き去りにして更にクイズは続く。
ジュリは、左足を曲げて右足を伸ばし、左腕を腰に当てて、右手はチョキにして右目を挟んで、左目でウィンクしてみせる。
どこまで、ポーズに凝っているんだか……。
「第2問。どっちがサエちゃんで、どっちがヤドカちゃんでしょー?」
「区別が付かないっていっているのにそれを問題にすんの!?」
「んもう。イッちゃんったら文句ばっかり。じゃあ、サービスで中身を見せてあげるわ」
それなら簡単だ。
ヤドカリとサザエの違いぐらい誰でも分かるだろう。
なんて、タカを括っていたのだが。
ヌラリ……。
と、貝から出てきたのは、寸分違わぬ顔をした女の子。
「おいおい。ヤドカリとサザエってのは嘘だったのか? 種族が違えばおんなじ見た目ってのは無いだろう」
「うふふ。ヤドカリ人は宿だけではなく、宿主の容姿も借りてしまうのよ?」
「借りるって言うか、乗っ取ってないかそれ?」
かなり悪質な特性だな。
いやまあ、貝人にしか有効ではないけれど。
二人並んでるってことは仲が悪い訳じゃあなさそうだ。
「ぬう。違いが分からん。容姿をコピーしている時点でもうお手上げなんじゃないか?」
「そんな事ないわ。良くみてあげて? キチンと向き合えばおのずと二人の違いが分かるハズよ?」
「そうかあ?」
ならば、じっくり余すことなく見比べて見るか。
まずは天辺から。
髪は後ろで束ねたやや赤みの掛かったポニーテール。
しかし、そのポニーテールはゼンマイの様にくるくると円を描いているちょっと変わったもの。
これは二人の間に違いはない。
だもんで、さっさと下に視線を落として表情を観察する。
眉は太めで、瞳は……。
あー。
この瞳は俺やツバーシャと同じやつだ。
目が合っても、どこか深いところを覗き見ているような印象を受けるもので、更には濁っている。
これは……。
これは引きこもりの眼だ!
「イッちゃん? そんなに二人を見詰めてどうしたの? あっ、まさか一目惚れ!?」
「いや、そう言うのじゃあないから」
「そう? それなら良いんだけど。早く答えてね?」
早くと言われても、ここまで全部一緒なんだが。
仕方がない、更にじっくり見てみよう。
胸はそこそこ、片手に収まる程度と言ったところ。
その双房はタオル程度の布をあて、はみ出ないように包んで、後ろで結んだ単純なもの隠されている。
下はカボチャぱんつか。
と言うかこれ下着だろう!
「なんで、二人ともこんな格好をしているんだよ」
「あらあら? イッちゃんたちは海に行くのよね? なら水着はおかしくないんじゃないかしら?」
「あっ、水着なんだ……」
水着も下着も似たようなもんか。
強いて違いを言えば透けるか透けないかぐらいだろう。
でも、白いスクール水着は透けるって聞いたことがある。
うん。今はそんな事を思い出しても仕方がないな。
しかし、やはり二人の間に違いはない。
答えがまったくわからん。
と言うか、人との違いも分からん。
貝から両方とも完全に出てるんだが。
貝って死ぬまで同じ貝にいるもんじゃないのか?
ただ貝に住んでいる普通の人間じゃないのかこれ。
まあ、それでも答えは二つに一つ。
適当に答えても50%の確率で正解を引ける。
分の悪い勝負じゃあない。
さっさと答えてしまうか。
ん……?
待てよ?
巻き貝の大きさが違うような。
ヤドカリはその名の通り、自前の貝を持たずに生まれ落ち、落ちてる貝を拾って装備する。
対してサザエは自前の貝だ。
多分、サザエ人ってのは脱皮するんだろう。
ならば小さい方がヤドカリでは無かろうか?
チラリとジュリをみやれば、考えを見透かしたかのように、いやらしい感じで目を細める。
ワナ? それともフェイクか?
ならば裏をかいて、貝を交換していると考えてみるか。
それなら。
「こっちの少しだけ小さい方がサエちゃんで、少しだけ大きい方がヤドカちゃんだ」
「うふふ。本当にそれで良いのね?」
「ああ、構わない」
俺の答えを聞いたジュリは意味ありげに、眼をつむりひと息吐くと、レニオに向き直る。
「レニオ。どっちがサエちゃんで、どっちがヤドカちゃんかしら?」
「うおーい!? あたかも、私分かってますみたいな振りして、自分でも違いが分かって無かったんかい!」




