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百九十四話 真っ赤なお湯でキレイになろう

 お風呂作った。

 お芋を用意した。

 火を入れた。



 巨大な壺。


 そしてその下には大きなキャンプファイアー。


「何あのおっきい壺!」


「何だか良いニオイもするよ!」


「何だろうね。今日は炊き出しあるのかな」


 やはりこれだけ大掛かりな事をすれば目立つものだ。


 わらわらと人が集まりだした。


 人が集まれば視線も集まるわけで。


「うっ、目眩が……」


「大丈夫イッちゃん? 後は私がやるからここは任せて!」


「ああ、すまん。後は任せた……」


 俺はその場を離れる事になった。


「はーい、みんな! イッちゃんがみんなの為にお風呂を用意してくれたわ。お風呂の入り方を教えるから、お芋を食べながらよく聞いてね!」


「ふぁーい!」



 そして、10分後。


「髪洗いっこしよ!」


「うっ、あんた脱ぐと凄いのね……」


「そうだ! からだ洗うついでに洗濯もしちゃお」


 俺は今、見世物小屋の人たちが、風呂に入る前にとからだを洗っている直ぐとなりにいる。


 もちろん、ぜーんぶっタダで見放題!


 なんて事はなく、大きな布で仕切られている。


 あっちが女湯でこっちが男湯。


 しかし、この布1枚と言うのが大変悩ましいもので想像力を掻き立ててやまない。


「しっかし、何だこの男女比は。男は俺とレニオと狂竜だけか……。ん?」


 何か忘れてるような──。


「ぷこっ!」


「うわっ! また出たエロダコ!」


「もう、焼いて食べちゃおう!」


 ──ふむ、布向こう側が騒がしいな。


 まあ楽しそうで大変よろしい。


 あっ、芳ばしい香りが漂ってきた。


「まあ、なんだっていいや。俺たちも風呂に入るか」


「えっ? ボクも君と一緒に入るの?」


「えっ? レニオは女湯あっちがいいのか?」


 なんだなんだ?


 真面目ななりして実は大胆不敵なエロガキだったのか?


 仕方のない奴だ。


「そ、そう言うわけじゃないけど……」


「レニオの歳ならまだ許されるだろうし、女湯に混ざって来ても良いぞ? さすがに一緒に付いていってやるわけにはいかないけどな」


 二重の三重、色んな意味でそんなことをしたら死んでしまう。


 あっ、でもぶっちゃけ、子供だろうと男が女湯に入るのは嫌って聞いたことがあるような。


「違うってば! そう言うんじゃ無くて……。もう。良いよ何でもない。一緒に入るよ」


「いや、無理せんでも。男同士でも恥ずかしがるやつはいるし」


「はあ……。そう言うのじゃないんだけどなあ……」


 よくわからん奴だ。


 服を脱ぎ、女湯よりずっと小さな壺風呂の前で体を洗い始める。


 が、レニオは俺とは距離をとり、離れたところで一人体を洗う。


 何だろうこの距離感は。


 野郎と二人で風呂に入った事はないが、これは違う気がする。 


 よし……。


「あっ、そうだ、俺たちも洗いっこしようか?」


「なんで!?」


「いや、俺には翼が生えているだろう? 一人じゃ洗いにくくてしょうがないんだよこれ」


 まあ、事実ではあるが、当然こじつけだ。


「じゃあ、ボクが君の翼を洗ってあげるから向こうを向いていてよ」


「いや、俺が先に洗ってやるって」


「ボ、ボクは良いよ……」


「遠慮するなってほら」


「ま、待ってよ……!」


 しかし俺は待たない。

 観念して俺にからだを洗われるが良い。


 だが、レニオは必死でからだを隠して俺にからだを洗わせようとはしなかった。


 往生際悪いやつめ。


「手をどかさなきゃ洗えないだろう?」


「だ、だから自分で洗うからいいよ」


「ダメダメ。こう言う洗いにくいところは自分じゃ気がつかない内に汚れているもんなんだぞ? それ、ツンツン」


「あはっ、ワキをくすぐらないでよ! あっ……」


 ワキをつついた事によってレニオが隠していた部分があらわになる。


「ほーん。小さいな……」


「ちょっと!? 君にはデリカシーって物がないの?」


「ジュリにも言われたな。俺にそんな洒落た心意気を求めないでくれ。それよりこれはいったいなんなんだ?」


 尻の割れ目の上の部分。


 そこに小指の先ほどの突起が生えている。


 指で摘まんでみると、骨があるのかコリコリした。


「これは……。あっ……」


 あっ、ピクンって動いた。

 ほほーん。

 神経が通っているのか。


「ね、ねえ! 変なことするのやめてよ……!」


「ああ、すまん。なんだか、かわいらしいモノが生えているもんだからついな」


「はあ……。それは尻尾のなり損ない! ボクは人と獣人との混血だからね。その名残みたいなモノだよ」


 レニオは何やらあきらめた様子で語ってくれた。


 本来であれば、人と獣人の間に生まれた子供には両親のどちらか片方の種族的な特長しかでない。


 人と獣人、獣人と獣人で交わって、代が進んでいった時にとんでもない姿になってしまうから、神さまが配慮を加えた。


 でもたまに、少しだけもう片方の種族的な特長もちょこっと出てしまうことがあるんだそうな。


 で、半端に生えた尻尾が、レニオには恥ずかしいらしい。


「まあ、気にすることも無いんじゃないか? 普通そんなところを誰かに見られる事は無いだろうし」


「今まさに、見られた上にいじくりまわされていたんだけど?」


「ああ、悪かった悪かった」


 しかし、そうなると一つ疑問がわいてくる。


「なあレニオ。それジュリにも生えているのか?」


「はあ……。君は本当に──」


 何故かそれからしばらく俺はレニオに説教された。

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