百九十一話 ややこしい畑作りの助っ人
お姫さまが男らしかった。
おうち作った。
お花が咲いた。
毎度炊き出しを行うのはキツいので、一度も使われないツバーシャのアイテムカバンをジュリに貸し出して自炊してもらう事にした。
無論、ツバーシャに許可はとったし、カバンの中には手持ちの食料をほとんど分けて入れた。
また、木こり小屋の脇に置かれた木材を、小屋の中にある道具を使って薪にして良いとも伝えてある。
そんなわけで今朝は早くから見世物小屋の人たちが忙しなく活動していた。
そんな様子を上から眺めたラビがひと言。
「ご主人さま! 虫がたかっているのです!」
「ラビ、人を虫と表現するのは良くないぞ」
「じゃあご主人さまならどう表現するのです?」
そりゃあ。
「虫がたかっている様にしか見えんが」
「ラビと何も変わっていないのです!?」
「いや、そうじゃなくだな……」
なんてやり取りをしつつも、何か困った事は無いかと下の層へ降りて様子を見に行く。
「じゃあ、お姉ちゃんはオーナーとしてどうやって責任を果たすつもりなの?」
「イッちゃんにたくさんお願いするわ!」
「丸投げじゃない。しっかりしてよお姉ちゃん……」
あっ、なんか揉めてる。
「朝っぱらから姉弟ゲンカとは元気があって良いな」
「うふふっ。イッちゃん。これは大切な家族とのスキンシップよ?」
「説教だよ!? お姉ちゃん、いや、オーナーはボクの話をちゃんと聞いて無かったの?」
ほーん。
レニオは二人だけの時にジュリをお姉ちゃんって呼んでいるのか。
「何か問題が無いかと心配して見に来たんだがその様子だと大丈夫そうだな」
「ええ、問題ないわ。イッちゃんのおかげよ」
「オーナーが一番の問題だよ。君もあんまり甘やかさないでよね?」
ふむ。
思ったよりも事は順調に進んでいるようだ。
今日ぐらいは何もせず、お休みでも良いかも知れないと考えていたんだが、予定を前倒しにしても良いか。
よし。
「なら、今日は安定した食料供給の為に畑を作ろう!」
さつま芋の壺畑なら面倒はないし誰にでも作れる。
労働力に対する収穫量もぶっ飛んでいるので、まずはさつま芋から始める事にする。
「イッちゃん! 畑作りの為に強力な助っ人を連れてきたわ! 葉っちゃんよ!」
「昨日は危ないところを助けてくれてありがとう。今日は頑張ります!」
「あっ、植人の子か。確かに畑作るのには何となく向いていそうだけど、食うために芋を育てるんだが良いのか?」
同族を食うために育てるから協力しろとか、狂ってる。
「いやいや、植物と言っても様々ですし、それは人とブタを一緒くたにするぐらい乱暴なカテゴライズですよ」
まあ、それもそうか。
人をブタにカテゴライズしようとしたお姫さまもいるけども。
そう言えば説教し忘れたな。
「それに、みんな勘違いしていますけど、植物って平和で仲良しな生き物じゃないんです。たまに共生はするけれど基本は日々殺し合いです」
「日々殺し合い!?」
「そうです。葉を落として光を奪ったり、種を飛ばして侵略したり。時には相手を文字どおり根絶やしにしたりもするじゃないですか」
確かに言われてみればその通りだ。
俺だってそんな事は知っていたはずなのに、何故か平和な生き物だと無意識に思い込んでいた。
動物と植物の視点の違いか。
「そんなわけなので、植物が生きたまま切り刻まれようが、磨り潰されようが、干されようが、焼かれようが何ともありません」
「本当に!? 言い方に悪意を感じるんだけど!?」
「あははは。たまーに、まな板に載っているのが自分だったらと想像しちゃって……」
そら怖いわ。
ソーセージになるブタの一部始終をあれが俺だったらって想像するようなものだ。
だが、ふつうそんなん想像せんわ。
「イッちゃん。葉っちゃんはね。すっごい特殊能力を持っているのよ!」
「ほー。そりゃあ、いったいどんな能力なんだ?」
「なんと、美味しくて栄養のある土が分かるの!」
それは特殊能力ではなくて身体的特徴ではなかろうか。
これは人に“砂糖を舐めて甘いってわかるのよ!”と言うようなもんだ。
でもまあ、使える能力ではあるか。
「じゃあ、出来るだけ不味い土を教えてくれ」
「えっ……? 何で不味い土を?」
「いや、栄養のある土だと葉っぱばっかり繁るから」
別に何て事無いことを言ったつもりだったのだが。
「植物が葉っぱを繁らせて何が悪いんですか!」
「芋が育たなくなるんだよ!?」
「か、体の一部を意図して育てるなんて変態です!」
何故か怒られて変態呼ばわりされてしまった。
そこで何故、胸を隠すんだよ……。
ちょっとこの子はややこしいかも知れない。




