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百八十一話 脈動する城なし

 シノがローミャの街へ向かった。

 俺とラビは城なしの根本に向かった。

 城なしに根っこが生えてた。



 バキッ!


 魔法による衝撃は石の根一部を吹き飛ばす。

 

 その直後。


 バシュウウウウ!


 欠けた石の根から真っ赤な液体が吹き出した。


「うおおおお!? 何か出た何か出た何か出た!」


「ひえええええ!? 城なしから血が出てきたのです!」


「血? 血なのかこれは? と、とにかく傷口を抑えて止血しないと!」


 俺は急いで吹き出した欠片をかき集めると、石の根の欠けた部分に戻布をあてがい、謎の液体で流されないように重石を載せた。


「ふう。何とか止まったな」


「城なしごめんなさいなのです……」


「すー……」


 ラビがしょぼくれ、狂竜がラビを真似っこ。


 そんな一人と一匹を見ていたらなんだか落ち着いて冷静になれた。


 そこでふと思う。



 城なしに血なんて流れているわけなくね?



 もし、城なしに血が流れているのなら、魔女の木が城なしを貫いたときにも血が出ていただろう。


 じゃあ、この赤い液体はなんなのかって話だが、心当たりが無いこともない。


 俺はそれを確かめる為に手についた赤い液体を舐めてみた。


 ペロリ。


 ふむ、やはりこの味は……。


「ご、ご主人さま。城なしを食べるために味見してるのです?」


「すー?」


「ちがうちがう。城なしは硬くて食えないだろう。これが何なのか調べていたんだよ。らビも舐めてごらん」


 挽いて粉にすれば食えない事もないだろうがそんなつもりはない。


「むむむ。ラビはこの味を知っているのです……」


「昨日見世物小屋で飲んだからな」


「あっ、分かったのです! これは魔女ドリンクなのです!」


 そう、城なしに流れる液体の正体は魔女ドリンクだった。


「でも、どうして城なしに魔女ドリンクが流れているのです?」


「すー?」


「まあ、たくさん穴に魔女ドリンクを注いだしな」


 それだけで城なしが魔女ドリンクを体に巡らせというのはやや強引だがない話じゃあない。


 助けるためとはいえ城なしの大事な水を魔女ドリンクに変えてしまったのだ。


 異物である魔女ドリンクを体外に排出していると言うのであれば納得がいく。


「まっ、本当のところは分からないけれど調べた甲斐はあったかな」


「分からないのに良いことがあったのです?」


「すー?」


 少なくとも、城なしが壊れてしまったのであれば、城なしにこんなことは出来ないだろう。


 だから。


「城なしはラビのいった通り元気になったって事が確認出来たのさ」


 それが分かっただけでも十分だ。


 俺は結果に満足した。


 が、話はそれで終わらない。


「あれ? ご主人さま。いつの間にか城なしの震えが止まっているのです!」


 ラビが更なる異変に気付いたのだ。


「本当だ。なら、これで本当にいつも通りに戻ったな」


 これは吉兆。


 今まで城なしが震えて動けなかったが、これで行動に移れる。


 何をするのかと言えば、見世物小屋の人たちの救出である。


 最初はお姫さまを城なしに連れていけば良いだけだと考えていたが、事態はそれだけでは済まなくなっている。


 見世物小屋は焼け落ち、食糧もなく、更にはローミャの街へ入ることも叶わない。


 ここから離れようにも、離れた場所にはポールランド兵が潜んでいる。


 もうジュリたちだけではどうにもならない、言わば詰みの状態だ。


 これで、お姫さまだけ連れてさようならってのは薄情極まりない。


 だから、俺が行動に出る。


 さっきシノが話そうとしたのはこのあたりについてだと思う。


 “主さまはここの者たちをどうするつもりなのじゃ?”


 こう言おうとしたんだろう。


 で、去り際に目で問うたのは。


 “主さまにその覚悟はあるのか?”


 って、事なんだと思う。


 いや、正直、覚悟と言える程のものなんてないし、これからの事を考えると大嫌いな責任って言葉で頭がいっぱいになるけれど……。


 それでも俺は何とかしたい。


 ジュリたちを放っておきたくはない。

 

 だから俺は頷いた。


 ともかく、その為に俺がとれる行動は三つある。



 一つ、ローミャを狂竜に襲わせて乗っ取りポールランド兵と戦う。


 不可能ではないけれど、ポールランドだけではなく、ローミャの反乱やヒゲリアとの戦いでたくさん血が流れる。


 シノならこの案に食いつきそうだが俺は遠慮願いたい。


 何かそのまま世界征服の覇道を突き進む事になりそうだし。



 二つ、お姫さまを諦めて差し出す。


 うん。ないわ。最後の手段としても絶対にこれはしない。



 三つ、城なしに見世物小屋のみんなを連れて行く。


 いやまあ三つあげはしたけど俺の心うちは三つ目に決まっている。


 一見簡単そうに見えるが、52人も人が増えればトラブルも起きるだろうし食糧の確保も大変だ。


 さっきの炊き出しで思い知った。


 食料集めて日に三度調理するだけで一日が終わりかねん。


 それに、ひとは芋のみにあらず。


 色んな物も必要になる。



 それでも俺は──。



「ご主人さま? また固まっているのです」


「すー!」


「んあ、すまん。ちょっと色々考えていた」


 またいつものクセが出てしまったな。


「何を考えていたのです?」


「んー。色々だよ」


 そう色々だ。

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