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十八話 ぐざいのです……

 山ぐり植えた。

 シノをメッチャ愛でた。

 ひよこが大人になった。



 そんな日の翌日。


「チュンチュン、チチチチ……」



 俺はうつ伏せが嫌いだ。

 腹の中身がつぶれてしまう感じがどうにも好きになれない。

 とは言え背には翼が生えているから仰向けでは寝られない。


 だから寝るときはいつも横を向く。


 その日はそんな態勢で横腹に違和感を覚えて目を覚ました。


 ぬう。

 なんだか横っ腹が重い。

 生暖かい何ががのせられているような……。


 夢心地のまま眠気を押さえ付け、まぶたをうっすら持ち上げ横腹を確認してみれば丸くなって眠る猫の姿のシノ。


 なんだシノが乗っていたのか。

 横腹なんて不安定なところでよく寝られるもんだ。

 夜の城なしは冷えるから暖を欲しがったか。



 俺は猫を飼うのは嫌いだ。

 狭い世界に閉じ込める事に納得がいかないから。


 しかし、猫は好きだ。

 シノが腹の上で丸くなる姿を見るとほっこりする。


 猫の姿のシノも可愛いな。


 だが眠い……。


 と言うわけで、横腹の生暖かいモノの正体は分かったのでもう一眠りすることにした。


 が、何やら熱い視線がそれを阻む。


「じぃーっ……」


 もちろん“じぃーっ”なんて口に出して俺を見詰めるのはラビしかいない。


 やれやれ、もう少し寝ていたかったんだけどなあ。


「おはようラビ。どうかしたのか?」


「ご主人さまはおシノちゃんばっかりなのです……」


「あー……」


 ラビは掛け布団がわりの翼の中から顔を膨らませながら抗議する。

 

 うーん。

 均等に愛でているつもりだったんだがなあ。

 出会って間もない分シノに偏ってしまったか。


「じぃーっ……」


 弟や妹が出来て寂しいみたいな気分なのか?

 こんな時、世のお父さんやお母さんならどうするのかね。

 俺には分からない。


 ならば愛でるのみ!


 シノをそっと持ち上げて布団の端に移す。


 そして、ラビを座らせると俺もラビの前へと座り込み、ラビを翼で包み込んだ。


 更にオデコとオデコをくっつけて優しく諭す。


「ちゃんと俺はラビの事を見ているから」


「本当なのです……?」


「ああ、本当だよ」


 それだけ言ってオデコを離すとラビの頭をやさしく撫でた。


「んっ……。今日のナデナデはいつもよりずっと優しいのです……」


 しばらく俺はラビの頭を撫で続けた。



 さて、そんな事があったもんですっかり目覚めてしまった。


 朝ごはんでもこしらえるかと思いかまどへ向かう。


 今日の城なしはなんか作ったりはしてないか。


 昨日はたくさん石を持ってきたから何か作ってくれたんじゃあなかろうかと期待していたんだが……。


 ん? これは何だ?


 かまどの下の部分に異変を見つけた。


 まるでかまどをずらしたかの様に地面の色がかわっていたのだ。


 城なしが移動させた?

 だが、動かした跡にしては変だ。

 かまどを中心にしてその跡は広がっているし。


 はてこれは?


 他にも何か変わった事は無いものかと辺りを見回していると、城なしの縁にあるさつま芋の壺がいつもより遠くにあるように見えた。


 これはもしかすると……。


 城なしがデカくなっているのか?


 海を作ったり栗で林を作ったりしたもんだから随分スペースに余裕がなくなっていたもんな。


 デカくなってくれるのはありがたい。


 なるほど、城なしは石を食べて成長する事もあるのか。

 今日も地上が陸地だったら石をたっぷり持って来よう。

 いっぱいデカくなれ。


 でも、まずは俺たちの腹ごしらえからだ。


 とは言え、今日もバナナだ。

 そろそろバナナだけじゃあしんどい。

 新たな食べものも地上で見つけたいな。


 そんな事を考えながら、俺はバナナ手に取り支度を始めた。



 そして、朝食。


「このばななと言うのは良い果物じゃのう。焼くと更に甘みが増すのか」


「棒に刺さっているから食べやすいのです!」


「そうかそうか。苦し紛れに焼いてみたんだが好評みたいだな」


 今日の朝食は皮をむかずに焼いただけのシンプルなモノだ。


 それでいて、芳ばしさとトロトロ感で、朝のお腹に優しく溶け込むなかなかのモノだった。


「日出国にも、このばななと似た味の果物があるんじゃが、種が多いし虫がたかるでの」


「へー。おシノちゃんの国にもバナナがあるのです?」


 あったかそんなモノ?

 種が多くて虫が──。

 ああっ!


「アケビの事か! 確かにあれなら味は似ているかもな!」


「おおっ。主さまはご存じか。博識じゃのう」


 日出国にはバナナなんて馴染みの無いものだろうと思ったがアケビがあったか。


 滅多に食わないものだから忘れていたわ。

 俺も前世で一度しか口にした事がない。

 食ったことのない日本人も多いんじゃななかろうか。


「おっ、そうじゃ、食べもの話で思い出したぞ。ほれっ、昨日町に降りて色々買うてきたぞ。土産なのじゃ」


 シノは風呂敷を床に広げるとそこへ手を突っ込んだ。


 あの風呂敷もマジックアイテムで、俺のウエストポーチと同じ効果があるそうな。


 風呂敷タイプは日出国のダンジョン限定の品だろうか。


 シノは風呂敷から出したものを俺の前に並べていく。


「ほほう。米と大豆か。大豆は育てた事があるんだが米はない。田んぼは難しそうだ」


「うむ。わぁも田植えと稲刈りは手伝いをしたことがあるが、田んぼの作り方までは分からん」


「お豆はラビにもわかるのです! でも、こっちのちっちゃこいつぶつぶは分からないのです」


 ラビの言うちっちゃこいつぶつぶってのは精米前の米の事だ。


 いや、更に前か?


 ともかく、シノは田んぼに蒔くことを前提に種もみの状態で米を持ってきてくれた。


「主さまはのんびり暮らすのじゃろう?」


「まあそうだな。田んぼの作り方を知らなくても試行錯誤を続ければ米作れるか」


 取り合えず、大豆と米を持ってきてくれたシノに感謝しよう。


「ありがとうシノ。おかげで食が豊かになりそうだ」


「なあに。わぁも米は食べたいからの。礼には及ばぬのじゃ」


 ああ、日出国の人間なら米は食いたいか。


 俺は米がなくとも何ともない。


 もとよりニートだったので食の選択肢などなかった。


 そうやって、感傷に浸っているとシノが更に風呂敷から土産を取り出す。


「あと、わぁはこれを植えたいんじゃが構わんかの?」


「なんだか、おっきないもむしなのです」


「ふむ。これは竹の根か……」


「ほう! 主さまは凄いのう。これがなんなのかも分かってしまうのか」


 そりゃあ、家庭菜園をしたことあるからな。


 竹は決してお庭に植えてはならない植物として永世殿堂入りする狂気の植物だ。


 タケノコ取れるし竹材は使い勝手が良い。


 しかし、ひと度植えれば後は無尽蔵に広がっていき、終いには家をも貫きかねない。


 しかも、根絶するのも難しい。


 でも城なしの上なら別に気にすることもないな。


「ダメかのう? わぁはタケノコが好物なんじゃがのう」


「好きなだけ植えて構わないよ。でも、なるべく端っこのなにもないところに植えておくれ」


 タケノコが好きとは変わった猫だ。

 マタタビとかじゃあないんかい。

 あ、マタタビを見付けたらそれも植えよう。


 さて、腹も膨れたところで今日も地上に降りてみる事にしますか。



 そんなわけで俺たちは今日も空を飛ぶ。



 空から見た地上は荒廃して木も生えず湯気が立ち上るばかりだった。


「お山のてっぺんから赤いのたれてるのです!」


「あれは火山って言うんだ。しかし何もないな。まあそれなら石を集めれば良いか」


 人も魔物も空から見た限りじゃ見受けられなかった。


 ここなら二人を残し、往復して城なしに石を運ぶ事ができそうだ。


 俺たちは早速火山の中腹に降りる事にした。



 で──。



「ぐざいのです……」


 地上に降りては開口一番ラビが文句を付けた。


「硫黄じゃなのう。わぁはこのニオイ嫌いじゃないのじゃ」


「ラビはこのニオイがダメか。それなら城なしでお留守番しているか?」


「ラビもこねニオイずぎなのでず!」


 いや、無理せんでも……。

 そんなにお留守番は嫌か。

 それならせめて顔に布でも巻いてやろう。


 俺は四角い布をウエストポーチから取り出すと半分に折ってラビのお口に当ててキュッと後ろで結んだ。


「ご主人さま。これなら大丈夫なのです!」


 そうかいそうかい。

 それは良かった。

 なら石を集めるとしますかね。


 そうして、俺たちは石を集め回った。


 シノの風呂敷も借りていつもの倍は一度に持ち帰る事が出来た。


 そして、三度目の往復を終えて城なしから、ラビたちのところへ向かう途中の事だ。


 おや?

 池から湯気が出てら。

 どういうことだろう?


 いや、どうもこうもないわ。

 あれは温泉じゃないか!


 なんとも幸運な発見だ。


 風呂なんてこの世界に転生してからとはいうもの一度も入る事が出来なかった。


 水浴びか体を拭くのがせいぜいだ。


 こうしちゃおれん。

 早く二人を連れてきて温泉を楽しまないと。


 俺は急いで二人の元へと向かった。

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