百七十九話 炊き出し52人前+3
お食事中の方は食べ終わってからお読みください。
お空を飛んで様子見た。
地上に降りた。
炊き出しすることにした。
ここで炊き出しすることを伝えるとジュリに大層喜ばれた。
「ありがとうイッちゃん! ハグしちゃう! でも大丈夫? 見世物小屋のには私たち含めて52人いるのよ?」
「そんなにいるのか……。食料自体はあるから問題ないけどいっぺんに作るのは厳しいな」
「ならみんなで作れば良いわ」
出来ればデカイ鍋、いや壺で一度に作りたいところだが、テカイ壺は城なしにあるので用意するのはちと手間だ。
そんなわけで、52人を5班に分けて各自で作ってもらう事にした。
炊き出しのメニューはあら汁。
調味料が塩しか無いので出汁でごり押しする。
具はさつま芋が合わなそうなのでこちらも肉と魚でごり押しする。
臭いが凄まじい事になるが、そこはラビのカレー言語魔法でカバーだ。
「ぬあー。切っても切っても終わらないのじゃ!」
食材のした処理と大雑把な切り分けはシノに任せ。
「おにーさん、こっちに水ください!」
「はいはい、今いくぞ」
「こっちには緑のヌメヌメして湿った葉っぱ!」
「ん? 昆布足りなかったか? あんまり入れると汁に粘り気が出るぞ」
俺は食材や水、調理器具(壺)や、薪を各班に配り回り。
「火はラビがやるのです!」
ラビは薪をセットする。
そんな感じで炊き出しの準備は進む。
途中、魚に生足姿の人魚の子が俺のところへやってきて──。
「ビョッ!(壺! 壺!)」
「そんなに急かさなくても今だすよ。と言うか、ビョってなんだ。何か食べてるのか? 口に食べ物入れたまま喋るのは……」
「ビョぼぼぼ!(良いから早く!)」
きちゃないなあ。
いったい、なんだってそんなに焦ってるんだ。
「ほら、お望み通りの壺だぞ」
俺が壺を人魚の子の前に出してやると、おもむろに頭を壺に突っ込んだ。
そして……。
「おぼぼぼぼぼぼぼ……」
吐いた。
「うわっ。おっま、飯作ってるところのど真ん中でなんてことすんの!?」
「ギョッ?(良く見て?)」
「しかもそれを良く見ろと!?」
いったい何を考えているんだ。
とてもとてもそんなモノを食事前に見たい気分ではなかったが、必死に見てくれと懇願してくるので仕方なく、壺の中を見る。
するとなんとそこには大量の珍魚が!
「もしかして、今までずっと珍魚を口のなかに入れていたのか?」
「ギョッ(何度か飲み込みそうになった)」
「そ、そうか、頑張ったな」
どうやら、珍魚を連れて逃げるために口の中へ入れていたらしい。
もっと他に方法がなかったのかとも思ったが、あの状況では余裕なんてなかったか。
「おっと、コイツら水に入れてやらないとな。淡水と海水どっちがいる?」
「ギョッ……(あ……)」
そこで、人魚の子は膝を折り、ガックリと項垂れた。
「おいおい。今度はどうしたんだ?」
「ギョッ(海水じゃなきゃダメ。海水なんて用意できない……)」
「なんだそんな事か。海水ならあるぞ?」
「ギョッ!?」
そんなに驚く事だろうか。
ともかく、あまりこんな事に時間を掛けている余裕なんてないのでさっさと海水を壺に入れてやる。
その間、でっかい魚眼でずっと疑わしげに見詰められていたのでちょっと怖かった。
だが、それも人魚の子が壺の中の海水をひとナメすると。
「ギョ……!(これは間違いなく海水……!)」
羨望の眼差しに変わった。
「ギョ(ありがとう助かった)」
喜んでもらえて良かったが、出来れば人魚姿で言ってくれた方が嬉しかった。
しかし、こんな事もあって大変言いにくいが人魚の子には告げなければならないことがある。
「あー、その……。今炊き出しで魚も調理しているんだが」
「ギョッ(食べるなら殺していい)」
「あっ、そのルール深海でも通用するんだ」
──なんて事もあったりしだが、それ以外にトラブルは無く、各班無事にあら汁作りを終えて食べ始めた。
最初は包囲のさなか緊張状態にあったためか、表情も緊張したものだったが今は明るい。
まあ、緊張が緩みすぎたためか。
「汁が緑色で泡立ってる!」
「わっ、糸引いた! ウチの班だけなんかちがーう」
「でもこれ美味しいよ?」
昆布を入れすぎた上に煮込みすぎて、ちょっと変わったあら汁になっている班もあったが、味と品質に問題はなかったようだ。
「さて、俺はもうひと仕事しようかね」
「まだ何かするのです?」
「いや、このままだとまた忘れ去られてしまいそうだからな」
俺はひたすら干し芋を葉にくるんでは芋のツルで十字にしばり、携帯食として大量に用意した。
そして、再び各班を周り歩いてはそれを配る。
これでも気休めにしかならんわな。
やっぱり、やるしか無いんだろうか。
しかし、その為には……。
俺はじっと城なしの方を見た。




