百七十八話 忘れ去ってた干し芋
みんなで魔女の実を集めた。
魔女ドリンクを作った。
城なしがとても震えた。
空へと舞い上がった俺は、城なしがおかしくなった原因を探すために城なしの周りをぐるぐると飛び回った。
「むう、太陽がとても眩しくて良く分からんな」
今は、早朝といったところでまだ陽は高くないが寝不足のまなこには厳しい。
それでもなんとか城なしの様子を確認した。
結果、城なしの真ん中に魔女木が伸びてその回りに真っ赤な魔女ドリンクの池があるのが分かる程度。
他は以前と変わらないように見える。
「ご主人さま。やっぱり城なしは元気になっただけなのです」
「いや、おかしくなければあんなに凄まじい震え方はしないと思うぞ?」
「主さま。ラビの言葉も間違いでないのかも知れんのじゃ」
「ん? シノ、それはどういう事だ?」
あまり考えたく無いが俺としては、正直城なしが壊れてしまったんじゃないかと思っていたりするんだが。
「城なしは元気になった。元気になったから何かをしようとしている。あるいは、何かをしているところである。故に震えていると言う話も無くはなかろう?」
「ああ、そう言う考え方も出来るのか」
「まあ城なしが壊れてしもうた可能性もあるがの」
どちらにせよ、俺が城なしにしてあげられる事は今のところ無さそうだ。
「今は見守ってやるしかないか」
「それなら、地上の様子を一度見てみてはどうじゃろう? 仕方が無いとはいえ、見世物小屋の者たちを一晩放置してしまったのじゃ。無事の確認はしておくべきじゃと思う」
「それもそうだ。なら地上に降りてみよう」
俺が絶対に誰の手も届かないところにお姫さまを連れて行くと言った手前、放置しておくのは違うよな。
「ところでツバーシャの姿が見えないのじゃが」
「近くに居なかったし、ツバーシャまで抱えたら多分空飛べないし、ツバーシャなら自力でどうにかするかなって」
「確かにツバーシャなら、あの場に残しても問題無さそうなのじゃ」
とまあ、ツバーシャの話はおいといて俺たちは地上に降りた。
「イッちゃん! 無事だったのね!」
降りれば早々にジュリが出迎えてくれた。
レニオも一緒だ。
「ああ、俺たちの方は問題ない。そっちはどうだ? 空から見た限りじゃ、ポールランド兵の様子が伺えなかったんだが」
「あのおっきな石が落ちてきたからどっかに行っちゃったわ」
「おや? 撤退したのか?」
それなら問題が一つ消えてありがたい限りなんだが。
しかし、そこへレニオが会話に入る。
「オーナー。その説明は酷いよ。もう。ボクが説明するね」
「ああ、頼むわ」
「おほん。えーっと、ローミャ、いや、ヒゲリアはポールランドと和平を結んでいる。だから──」
てっきり、ローミャが国名だと思っていたんだがそれは街の名前で国名はヒゲリアらしい。
で、お姫さま奪還のためにポールランドはヒゲリアに兵を入れるのを許してもらっていたそうなんだが、騒ぎが大きくなりすぎてヒゲリアが介入してきたそうな。
ウチの首都の近くてなんて事をしてくれるんだと。
やるならもっと遠くでやれと。
そりゃあもっともな話だ。
むしろ、城なしが落ちてくるまで何も言って来なかったのだからヒゲリアは寛大なもんだ。
因みに国同士の力関係はヒゲリアの方が上らしい。
まあ、ここにルーシアのクマ皇子の存在があるから話が更にややこしくなるのだが、俺はこの辺りで話についていけなくなった。
「──で、仕方なくポールランド兵は後退して目立たないようにしてる。ニラコイ皇子については、見ての通りだよ」
と、レニオの指さす方を見れば。
「ンンァベアー……」
「ムガー……」
「ンガー……」
まだやってたんかい君たち。
なんかもうみんな疲れて動きが鈍ってきてるしそろそろ引き分けてしまえば良いのに。
「なら、今のところは問題無さそうか。この隙に見世物小屋のみんなを連れて逃げるってのは?」
「難しいね。ここから離れたところならポールランドの兵は自由に動けるから」
「うーん。そうなると……」
話はお姫さまを城なしに連れていくだけじゃあ済まないか。
「それより、もっと大きな問題があるんだ。それの解決には君の力が必要なんだけど」
「なんだ? なんでもいってくれ。協力するぞ?」
「ありがとう。それじゃあ、ボクが買った干し芋をもらえるかな? 全部燃えちゃったから食料が無いんだ」
そう言えばそんな話もあったな。
「分かった。でも、そうすると昨日は何も食べていないのか」
「うん。でも、あの状況で食べ物が喉を通るかは疑問だけどね」
「それは悪いことをした。すまん」
となれば、少しはサービスせにゃならんな。
どれ、ここは炊き出しでもしてみようか。




