百七十七話 ふるえる城なし
城なしが落ちてきた。
狂竜がイヤイヤした。
城なしがぐったりした。
城なしに大量に落ちている丸いものは果たしていったい何なのか。
そんなのは狂竜パワーを吸収して大量になって落ちて散らばった魔女の実に決まってる。
そして、そんな魔女の実を見て俺は思ったのだ。
この実を城なしの穴に詰めればなんとかなるんじゃね?
と。
そんな訳で俺たちは魔女の実をかき集める事にした。
「はわっ、はわわわ……」
ラビが腕たくさん抱えた魔女の実をずっこけては再び城なしの上に散乱させ。
「すー!」
狂竜が転がる魔女の実にじゃれる。
「そりゃーっ! そりゃーっ!」
シノは持ち前の器用さで魔女の実を次々と穴の中へと投げ込み。
「ルガアアアア……」
飛竜姿に戻ったツバーシャは、かったるそうに尻尾で城なしを撫でるようにして、大量の魔女の実を穴に落とす。
一番ヤル気のないツバーシャが最も貢献しているのは皮肉なものだ。
もちろん俺も翼をホウキの代わりにしてバッサバッサと魔女の実をかき集めた。
そうこうしていると、やがて城なしの穴は魔女の実でいっぱいになった。
「ご主人さま。城なし全然元気にならないのです……」
「まあ、魔女の実をそのまま穴に入れただけだしな」
「して、ここからどうするのじゃ?」
答えは一つ踏み潰して中の果汁を絞り出すのだ。
「と言うわけでツバーシャ。穴の中の実を踏み潰しておくれ!」
「ルガアア……」
もう、めんどくさいわね……。
なんて言ってそうな気だるげな声で吠えると、ツバーシャは穴の中へと向い、魔女の実を踏み始めた。
ゴッシャ、ゴッシャ、ゴッシャ……。
「ルガアアアア……!」
最初こそ、嫌々ではあったツバーシャだったが、踏み潰しているうちに何か満たされるものがあったのか元気に吠えて魔女の実を踏み潰している。
多分あれだ。
緩衝材として段ボールに入っているプチプチをプチプチしている気分何だと思う。
あれは大変良いものだ。
「しかし、主さま。本当にこれで城なしを救えるのかのう?」
「んー。難しいところだけど他に手がないんだよ。いつもなら空いた穴ぐらい自力で塞げるだろけど、穴は空きっぱなしだ」
「なるほど、弱ってそれだけの力が残っていない訳じゃな」
だから城なしを先ずは元気にしなくてはいけない。
そこで、城なしの穴で魔女ドリンクを作って城なしに飲ませようと考えたのだ。
エネルギーの固まりだし人でなくとも効果はあるだろう。
「ルガアアアア……!」
ツバーシャがモリモリと踏み潰してくれるのでだいぶかさが減った。
しかし、穴の中に汁気はない。
穴の底が抜けているから魔女の実を絞っても果汁は直ぐに流れてしまうんだろう。
それでも良い。
それでも多少はこの大きな傷口に魔女ドリンクを刷り込めているハズだ。
俺は根気強く城なしの回復を待った。
何度も何度も魔女の実を追加した。
何度も何度もツバーシャがそれを踏みつぶした。
それでも城なしは良くならない。
やがて、夜が更ける。
「城なしがんばるので……。すぅ……」
「すぅー……」
とうとう、ラビと狂竜は眠気に負けてしまった。
「今日は色んな事があって疲れちゃったか」
俺は布を出して、そんな一人と一匹に掛けてやる。
「そうじゃのう。色々あったのじゃ……」
「シノも眠ければ先に寝て構わないぞ?」
「わぁは、大丈夫なのじゃ。それより主さま。他に城なしに尽くす手は無いのかのう?」
それは俺も考えた。
やはり、石や粘土を集めてきた方が良いのではと。
それで穴を塞いだ方が良いのではと。
だが、実は既に大量に潰れた魔女の実の残骸が底で固まってとうに穴自体は塞がっているのだ。
「だから後はもう待つしかないんだよ……」
「ふむ……」
そこで会話はとぎれ長い沈黙が続く。
そして、更に夜が更け気づけば俺も眠ってしまっていた。
ゴゴゴゴゴ……!
ゴガゴガゴゴゴガ……!
ガガガゴゴゴ……!
だが、眠ってしまった俺を突如ぶっ壊れた洗濯機の様な音が起こす。
「な、なんだ!? 城なしからしちゃいけないような危ない音がしてる!」
揺れも酷い。
小刻みにとんでもない早さで振動するもんだから前がぶれて見える。
こりゃあ、立ち上がれん。
「ごごごご主人さま! 良かったのです! 城なしが元気になったのです!」
「い、いや、これは元気とは違わないか!?」
うんともすんとも言わなかった城なしが、動き出したことは喜ばしい限りなんだが、どう考えても正常な動きじぁない。
いったい城なしの身に何が起こっているんだ?
取り合えず、このまま振動を続ける城なしの上にいるのはしんどいわ。
堪らず俺はラビとシノと狂竜を翼でくるむとゴロゴロと転がり、城なしの上から飛び発った。




