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百七十六話 ぐったり城なし

 魔女の木が完成した。

 狂竜にデコピンした。

 城なしが魔女の木に貫かれた。



 魔女の木に貫かれた城なしはとんでもない早さで落ちてきた。


 ちょうど俺たちの真上に浮かんでいた城なしはそのまま俺たちに向かって落ちてくる。


 地上に衝突するまで後一分といったところ。


 それまでに魔女の木を枯らせてここから脱出しなければならない。


 けどそれでじゃあダメだ。

 城なしが木っ端みじんになってしまう。

 ならば俺が取るべき行動は──。


 俺はウエストポーチに手を突っ込むと、人魚の子から1ラーリで買った巻き貝を狂竜の耳に当てる。


 そして、続けざまにジュリに指示を出す。


「ジュリ! ここから直ぐに離れろ!」


「でもそれじゃあイッちゃんが!」


「ええい、そんな終わらなそうなやり取りをしている時間は無い! お姫さま! ジュリとレニオを抱えてここから離れてくれ」


「はい!」


 お姫さま即座に二人を抱えて走っていった。


 やっぱり酒場で不埒なやからを樽に沈めただけあって力持ちだ。


「ォォォォ……。ォ?」


 そうこうしている間に狂竜が我に返った。


「ふう。何とか魔女の木を枯らさずに済んだな」


「しかし、主さま。それではみんな城なしに潰されてしまうのじゃ!」


「ん? シノは忘れてないか? 魔女の木は──」


 そこまで口にした時。



 ゴゴゴゴゴ……。



 すでに城なしは俺たちのすぐ真上に迫っていた。


 しかし、城なしが木の根に触れた時、落下はピタリと止まる。



「あらゆる力を栄養に変える。落下のエネルギーだって例外じゃないさ」


 もっとも僅かに触れているだけなので。


 グワーン、グワーン。


 と、揺れたあと。


 ズズズズズーン……。


 城なしは俺たちのいる牢を包み込むようにして地面に突き刺さった。


「ふむ。何とか城なしを粉々にぜずに済んだのかのう?」


「ああ、取り合えず一難去った」


「でも城なしぐったりなのです……」


 そうラビの言うとおりまだ問題がある。


 城なしの中心には城なしが空を飛び、俺たちの生活を維持する為の水があった。


 魔女の木が貫いたのはその部分。


「多分人間で言えば心臓の部分を貫いちまったんだ」


「そう、即死ね……」


「お、おう。ツバーシャはドライだな」


「ひえええええ!? 城なし死んじゃったのです!?」


「ラビは驚きすぎだよ。でも大丈夫」


 恐らく城なしはまだ生きている。


 その証拠に、空まで見える城なしに空いた大穴の側面にはこんこんとわき出た水が流れ伝わり落ちている。


 まだ間に合う。


 だから、俺が今すべき事は──。


「許せ狂竜。城なしを助けるために取り合えず木を枯らせないといけないんだ」


 俺は再び狂竜の額に拳をつき出した。


 バシッ……。


 しかし、拳は狂竜のちっちゃいお手てによって弾かれてしまった。


「むー!」


 そして両手でオデコ隠して俺を半目で見上げる。


 デコピンはもう嫌らしい。


「えっと、狂竜? 城なしが大変なんだ。協力してくれないか?」


「むー! むー!」


 ベシベシ。


 頬っぺた膨らませなが木の根を叩いて抗議する。


「うーん。どうしようこれは困ったなあ」


「主さま。もう狂竜にデコピンする必要はないみたいなのじゃ」


「ん? どう言うことだ?」


 首を傾げる俺の前でシノが木の根を裏手で叩いて見せる。


 コンコンと乾いた音がした。


 なるほど、既に枯れているのか。


 恐らく城なしを受け止めたのが決め手になったのだ。


 って事は、あと少しでも狂竜を止めるのが遅れていたら……。


 そう考えるとゾッとした。


 が、魔女の木が枯れているのなら話は早い。


 俺は魔法で牢の上の部分を少しだけ吹き飛ばして出口を作った。


 そして牢の上にみんなで上がると、シノに魔女の木を登ってもらい城なしの上にロープで引き上げてもらいみんなで城なしの上に出た。



「助かったよシノ」


「おやすいご用なのじゃ」


「しかし、こりゃ、酷いな……」


 城なしのちっちゃいお城は吹き飛び跡形もない。


 魔女の木が貫いて空いた穴は深く深く痛々しい。


 早く穴をふさいであげたいところだが、この穴を塞ぐのには大量の石が必要になるし、なにより石を持ってきても城なしが自力で穴を塞げるとは思えない。


 粘土とかで固め無きゃならんな。

 しかし、そんな余裕があるだろうか。

 いや、何日も掛かりそうだしそれじゃあ間に合わない。


「ご主人さま……?」


 ラビが哀しげに俺を呼ぶ。


「ラビ、心配はいらないよ。ご主人さまが絶対に城なしを救ってみせるから」


「しかし、救うといってもどうするつもりなのじゃ?」


「それは……」


 答えにつまる。

 答えなんかないから。

 でもここは何とか答えを出さなければいけない。


 どうする? どうする? どうする?


 考えるよりもその言葉だけが頭のなかにひたすら浮かび上がる。


 くそっ、頭が回らない。

 俺はいったいどうすりゃいい。


 しかし、そこであるものが俺の視界に映りハッと我に返った。


 城なしの上に大量に散らばった丸いもの。


 そうか、これを使えば何とかなるかも知れない。


「みんな、ちょっと手伝って欲しい。これを城なしの穴にありったけ放り込んでおくれ!」

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