表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/301

十七話  絶体絶命のひよこ

 山ぐり見つけた。

 キツネやっつけた。

 でも、誰も俺の活躍を見てなかった。



 そんなわけで、城なしに戻ってきたんだがラビとシノが起きない。

 仕方がないので、マイホームに寝かせた。


 妖怪だから大丈夫かと思ったんだが、体力は普通の猫なのか。

 空の寒さで体が冷えてしまっている。

 これはいけない。


 石を焼いて布でくるんだ物を添えてやろう。


「ふにゃあ……」


 ふむ。

 やはり、猫は温かいのが好きか。

 とろけるような目をしおって。


 怖い思いをいっぱいさせたから、疲れちゃったのかな。

 その内、目をさますだろう。

 今の内に山ぐりを植えてしまおう。


「チチ、チュン」


 あっ。

 お前ら食われるなよ?

 シノに近づいちゃあダメだ。



 うーん、土はこんなものかな。

 木の根は深く回りそうだから、ちょくちょく持ってきて増やそう。


 さて、次は木を植えるわけだが、ここで、未来を練り込もうと思う。

 城なしは、陽をさえぎるモノがない。


 だから、ここで、将来ひと休み出来るように、真ん中だけ木を植えずに、空き地にする。


 木が成長したら、ベンチやテーブルを置きたい。


 午後の温かな一時をここで二人の女の子と過ごす。

 すばらしいじゃないか!


「主さま。ちょっと話をしてもよいかのう?」


「うおおおお!? いつから背後に!? 流石忍者、足音も気配もない!」


「ニヤニヤしながら、木を植えていたところからじゃ。それより九尾はどうなったのじゃ?」


 とても真剣な瞳をしながら聞いてくるのだが、あんなんどうでもいい。

 ニヤニヤしたのを見られて、主さまとしての品が下がったことの方が問題だ。

 ちょっと話を盛って威厳を取り戻そう。


「あんなヤツ楽勝で倒してやったぜ。シノの主さまは凄いんだぞ? べらぼうに凄いんだぞ?」


「き、九尾を倒してしまったじゃと!?」


「ああ、くるっと背後に回ってドーンだ……。あれ、不味かったか?」


 なんだか、雲行きが怪しくなってきたぞ?

 実は仲間だったとか?

 いやあ、ないわあ。

 あのキツネの目は殺しに来てたわ。


「くるっと……? 神に最も近いと詠われた大妖怪をくるっと!?」


「あ、いや、すまん、格好を付けたくて少し話を盛った」


 何だかとんでもない強さだと勘違いされそうなので、慎重に言葉を選んで詳しく話した。


「なるほどのう。いや、くるっと背後に回ってどーんでだいたいあっとるし、盛らなくても変わらないのじゃ!」


「そ、そうか?」


「はあ。主さまは不思議な方なのじゃ。それだけの事をなし得たのに、とぼけて見せるしのう」


 いつだって自分に正直に本気で生きているんだが。

 そもそも、自己紹介せずに襲ってきたキツネが悪いのだ。

 だがそれよりも、シノの評価が高まりすぎて怖い。


「のう。主さまは、わぁが猫又でもよいのかのう?」


 正体が人間にバレて、追いかけ回されたのが、トラウマなのか。


 そんな不安で悲しそうな顔をしないでおくれ。

 仕方ないな。

 やるっきゃないな!

 より大きなショックでトラウマを上書きする!


「前にも言ったじゃないか。そうかそうか、そんなに信じられないか。よーし、わかったぞお。行動で示してやろう。そりゃあ!」


「ああっ、そんにゃ明るいうちから頭ナデナデしたらダメなのじゃあ!」


 あっ。

 猫耳生えてきた。

 油断すると出ちゃうのかな?


 だかやめない!


「んー! 主さま! それ以上は……」


「良いではないか! 良いではないか!」


 尚も、しつようにナデ回すと、とうとう煙を立てて猫の姿にもどってしまった。


 だがやめない!


 むしろナデ回すチャンスだ。

 だんだん、シノの反応が良くなってくる。


「あっ、主さまあ。良いのにゃ。もっとナデナデしてほしいのじゃ」


「ここか? 顎の下をナデナデするのがええのんか?」


 ごろごろ良い始めたか。

 これは勝ったな。

 とどめにもっと激しくナデてやろう。


「うりゃうりゃうりゃ」


「いいにゃ。いいにゃ。たまらんのじゃあ……」


 とうとう、耐えられなくなったのか、そのまま呆けて、眠ってしまった。


 ふぅ……。

 本気で愛ですぎてしまった。

 ちょっと疲れた。

 少しやすも――。


「じぃーっ……」


「ラビっ? いつからそこに?」


 上目使いに俺を見つめるラビと目があった。

 な、なんだ?

 俺は何か悪いことをしてしまったのか?


「じぃーっ……」


「あっ! ラビもか! ラビもナデて欲しいのか。 構わないさ! おいで」


 どうやら、ラビの心を察することが出来たようだ。

 俺の前に背を向けてちょこんと座ると、耳をぱたぱたしながら待機する。


 ねっぷりとシノをナデ回したので、ラビは趣向を変えて、ちょっぴりクールな大人さん頭ナデナデで攻めてみよう。

 連戦はキツいが女の子に寂しい思いをさせて良いわけがないのだ!


「ん、何だか少しだけお姉さんになったきぶんなのです」


「きっと、ラビは大人の階段を一つ登ったのさ」


 女の子をちょっぴり大人にする。

 そんな魔法のようなナデナデなのだ。


「でも、ラビももっと構ってほしいのです! もっともっと構ってほしいのです……」


 あれ?

 物足りなかったのか?

 ああっ、これがヤキモチと言うヤツなのか!

 モジモジしちゃってカワイイじゃないか。


「任せろ! おりゃあああ。わしわしわしわしー!」


「ひあああああ。やさしく、やさしくしてほしいのですー!」


 陽が傾くまでしこたまラビの頭をナデてやった。


 そして、夕食の準備に取り掛かろうかと言う頃。


「チ、チチ、チュン?」

「んなあああ!」


 ひよこを見つけたシノは、突如臨戦態勢に移行した。

 猫の姿でひよことにらみあう。

 いや、ひよこは睨んでないな……。

 何が起こるのか分からず、興味津々でシノを見とる。


 いかん、これが、あったのを忘れていた。

 ひよこがシノの夕飯になってしまう。


「待つんだ、シノ。そのひよこは俺たちのなかまなんだ。食べちゃあだめだ」


「おシノちゃんの目が座ってるのです」


「まさか、わぁが、主さまのすずめを食べるわけがにゃいじゃろう。人馴れしすぎているから、教育をほどこしておるのじゃ」


 嘘こけ!

 おめめまん丸に見開いて、腰をくねらせるそれは、ガチで狩るときのヤツじゃないか。


「そりゃあ!」


「おいー!? 本気で飛びかかったらいかん!」

「ひよこたち、早く逃げるのです!」


 その時、奇跡が起きた。

 今まで、ぴょこぴょこ跳ねるだけのひよこたちだったのだが。


「チチチチチ……」


「あっ、飛んだのです! これが、巣立ちなのです?」


「ひよこも大人になったんだ」


 おぼつかない感じだけど、ちゃんと空を飛べている。

 ともあれ、これで、すずめとシノも上手くやってくれそうだ。


「むう、わぁの必殺の一撃から逃れるとはやりおるのじゃ」


「教育じゃないよねそれー? 必殺じゃ、死んじゃうじゃん」


 前言撤回、先が思いやられそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ