百六十八話 何をやっても出られそうにない
魔女の実を見つけた。
ツバーシャが殴る蹴るし始めた。
ラビが穴を掘り出した。
ラビが穴を掘り出してからどのぐらいの時間がたっただろうか。
気づけば穴の周りはちっこい火山の様に盛り上がっている。
そしておむろにそんな穴からラビがひょこんと顔を覗かせた。
あーあ。
お顔を泥まみれにしちゃって。
しかし、どうした事だろう。
穴を掘り始めた時は元気だったのに今はしょげてしまっている。
「どこを掘っても木の根っこが邪魔してほれないのです……」
どうやら地中にも木の根が張り巡らされていて、犬猫閉じ込める檻を半分土の中に埋めたような状態になっているらしい。
つまり、穴を掘ってもここからは出られない様だ。
「ラビ、そんなに落ち込むことは無いさ。穴を掘っても出られないって分かったのは大きな収穫だ」
「本当なのです?」
「ああ、本当だよ。だから、穴から出ておいで。ほらっ、俺の手を掴むんだ」
穴からラビを引き上げてみれば全身泥まみれ。
これはお洗濯が大変そうだ。
ついでに城なしに戻ったらお風呂を沸かす必要もあるな。
「ほらっ、手を洗ってあげるよ。手を出して」
「はいなのです!」
「よしよし。ラビは良い子だ」
俺はウエストポーチから水を出そうとした。
しかしその時、背後からツバーシャの唸り声が聞こえてくる。
「ルググ……」
「げっ! まさか飛竜に戻るつもりなのか!?」
なんて事をしようとしているんだツバーシャは!
こんな所で飛竜の姿になったらどうなることか。
そんなのツバーシャの巨体に挟まれて皆で仲よく死んでしまうに決まっている。
と言うか、飛竜に戻ったツバーシャよりこの牢屋は狭いからツバーシャも自身も大変な事になるわ。
俺は取り合えず最悪の事態を想定してラビとシノ、そして狂竜を穴の中へと放り込む。
だが──。
バタッ。
ツバーシャは飛竜の姿に戻る事なくその場に倒れてしまった。
これはいったいどうした事か。
いや、今はツバーシャの身を案じよう。
「おい、ツバーシャ。しっかりしろ! 何があったんだ?」
「飛竜に戻る為の力を吸われたわ……」
「そんなモノまで栄養に変えてしまうのか」
とんでも無い木があったもんだ。
おっと、ツバーシャが気を失ってしまった。
今日のツバーシャは本当に色々ありすぎたんだ。
このまま少し休ませてあげよう。
俺はウエストポーチから布を取り出すと、それを地面に敷いてその上にツバーシャを寝かせた。
更にもう一枚布を出してかけてやる。
「おやすみ。ツバーシャ」
これでよし。
でも、何かまだ忘れているような……?
「主さまはなんて事をするのじゃ!」
「何故ラビを投げたのです!」
「すー!」
ああそうだ。
とっさの事でみんなを穴に投げたんだった。
こりゃあ説明するのがめんどくさそうだなあ。
俺は懸命に弁解を始めた。
で、それからしばらくして──。
「まったく君はいったい何をしているの? そりゃあ毎日たくさんの人がウチの見世物小屋に来るから変わった人もいるよ? でも楽屋で穴掘る人とか初めてだよ」
──戻ってきたレニオにお説教された。
「まったく。ちょっと目を離した隙にこんな事になってるなんてビックリだよ」
「悪かったよ。正直俺もやり過ぎかなって途中から思ってた」
「思ってたならそこで止めるよね普通」
何やらご立腹なレニオ。
しかも何故かお説教されているのは俺だけ。
どうやら弁解タイムはまだ終わらないようだ。
お説教はそれか更に10分くらい続いた。
「まあ、分かった。全部俺が悪かったから取り合えずここから出しておくれよ」
「絶対反省何てしてないよね? あと、ここから君たちを出すのは無理だからね?」
「ああうん。しばらくここで反省してろって事だよな? 正座して頭冷やしておくわ」
あんまり正座は好きじゃないんだが仕方がない。
誠意を見せてお説教タイムを短縮するのだ。
「違うよ。ボクは君にこの魔女の木は未完成だって言ったよね? 何が足りないんだと思う?」
「なんだろう? 葉っぱかな?」
「はあ……。違うよ。この魔女の木にはカギがまだ無いんだ。だから、一度扉をしめてしまうと出られない」
何てこった。
カギ穴なんて見当たらないけどこれは閉じた入り口の事を指しているんだよな。
つまり、再び入り口を開ける事が出来ないと。
「なあ、レニオどうにかならないのか?」
「どうにかならない事はないよ? この魔女の木が完成するまで待っていれば良いんだ」
「なんだ。どうにかなるのか。で、どのぐらい時間が必要なんだ?」
「さあ。明日かも知れないし、一年後かもしれない。それはすべて制作者の気分次第だよ」
「なんだって!?」
何てこった。
一年も掛かったら城なしに作った畑がすべて壊滅してしまう。
そんなのはダメだ。
でも壊してでも外に出ようにも何をやっても出られそうにないときたもんだ。
やれやれ。
これは本格的に困った事になったのかも知れないな。




