百六十二話 おつかいは一人が良いのです!
申し訳ありません。
前回の百六十一話ぐったりツバーシにて翼がツバーシャをおんぶしていましたが、翼に布を巻いて荷物に偽装していたのを忘れていました。
おんぶは物理的に不可能なので抱っこに書き換えました。
今翼はツバーシャを抱っこしています。
ツバーシャがグッタリした。
かしわもちが恋しくなった。
ツバーシャが土気色になった。
「シノ。悪いんだがあの魔女ドリンクとかいうのを買って来てくれないか?」
「おやすいごようなのじゃ」
「お金はウエストポーチにはいっているから、ウエストポーチごと持っていってくれ」
ツバーシャを抱っこしているので両手が使えない。
だから、シノにお使いを頼んだ。
どうせなら皆で飲もうと思い、人数分買ってくるように付け加えた。
もちろん、レニオと狂竜の分もだ。
だが、そこでラビが待ったをかける。
「ご主人さま。おつかいならラビがやるのです」
「うん? ラビがおつかいか?」
何だろう。
トラブルがトラブルを呼んで収集が付かなくなるビジョンしか見えない。
ラビの気持ちも汲んであげたいところだが難しいぞ。
それにシノに頼もうとしたのはシノなら人ごみをぬって行き来が簡単に出来るだろうと考えたからだ。
ラビにはそんな芸当とても出来っこない。
「ラビじゃダメなのです?」
足りないラビの言葉だが、俺を見上げるくりくりおめめは雄弁に語る。
ラビだってちゃんとおつかい出来るのです。
ご主人さまはおシノちゃんばっかりなのです。
ラビのことも信用して欲しいのです。
断りづらい。
しかし、時は一刻を争うのだ。
ならば仕方がない。
「よし、ラビにお願いするよ。シノと一緒におつかいしておくれ」
「ラビは一人が良いのです……」
くっ。
さっきはシノを一人で行かせようとしたから、二人で行くのは違うと感じてしまうのか。
困ったな。
俺の腕に抱かれたツバーシャはカニみたいに口の端から泡吹き始めてるんだが。
まあ、急がばまわれと言うし。
違う角度から切り崩してみるか。
俺は膝を折ってラビに目の高さを合わせた。
「ラビ。ラビのお手ては狂竜を抱えているから塞がっているんだぞ? それじゃあおつかいは出来ないよ」
「はっ。忘れていたのです。で、でも、おシノちゃんに狂竜ちゃんを抱っこしてもらえば大丈夫なのです!」
ふむ、食い下がるか。
だが。
「いやいや、大丈夫じゃあないぞ?」
「な、何故なのです?」
「狂竜のお顔を見てごらん。気持ち良さそうに寝ているだろう?」
「たしかに気持ち良さそうに寝ているのです」
ラビはぴーぴーぷーすか鼻息立てて寝腐る狂竜を見詰め、そっと頭を撫でた。
「そうだろうそうだろう。それは何故だか分かるかい?」
「眠いからなのです」
「うん。それもあるだろう。けれど一番の理由はラビだからだと思うんだ」
俺は意図して“ラビだから”と言う部分のアクセントを強めた。
「ラビだから……」
それをラビが復唱して噛み締める。
よし、もう一息だ。
「狂竜はラビを信用しているんだ。だから、ラビのお腹で安心して眠れる。そして、俺はそんなラビを信頼しているからこそラビに狂竜をお願いしたんだ」
「ご主人さまもなのです?」
「そうだ。なあラビ。ラビはそんな信用も信頼もほっぽりだして、おつかいに行っちゃうのかい?」
「ち、違うのです。ラビはほっぽりだしたりしないのです。でも、えっと、えーっと……」
ここまでくれば後は逃げ道を用意するだけだ。
間違っても追い詰めてはいけない。
ついでにここでヨイショしたい。
「ラビ。シノを連れて行けば何もほっぽりださずにおつかい出来るんだよ? それに一緒にと最初に言ったけれどラビが主役だ」
「ラビが主役なのです?」
「そうだ。ラビは一人でおつかいするつもりでいればいい。困った時だけシノに頼む。例えば両手が塞がっているからシノにウエストポーチからお金を出してもらったりね」
「なるほど。ラビは主役でおシノちゃんはラビのお手伝いなのです!」
ふう。
ようやく納得してくれた。
と言うわけだから頼むぞシノ。
シノを一瞥してアイコンタクト。
コクりとわずかに頷くとシノはラビの腕に掴まった。
「ラビよ。わあはハグレてしまうかも知れないのじゃ。こうしてても良いかのう?」
「もちろん良いのです! じゃあご主人さま。ラビたちはおつかいに行って来るのです!」
「ああ頼んだよ。気をつけてな」
ツバーシャのからだが冷たくなってきたので出来れば急いでもらいたいと伝えたいところだがグッと堪えた。
でもそれは出発してたったの5秒で何もないところで躓くラビを見るに正しい判断だったと思う。




