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百六十話 そして深海人魚の本気

 なんでかシノとツバーシャが勝負始めた。

 シノが本気だした。

 ツバーシャが本気だした。



「フンっ!」


 ツバーシャが何をするのかと思えば足でおもいきり地面を踏みつける。


 パシャっ!


 すると珍魚が一ぴき宙に飛び上がったでは無いか。


 ツバーシャは悠々とその珍魚をお碗で受け止め勝ち誇った。


「珍魚をすくうのに道具はいらなわ!」


「ぎょ(待って、流石にそれはない)」


「くっ、わあとしたことがポイに気を取られてツバーシャに先制を許してしもうたのじゃ。なるほど。道具はいらないか……」


「ぎょ?(ポイは使って?)」


「だから言ったじゃない。シノはとらわれすぎてるって。私の勝ちね」


「ぬねぬっ。まだ終わってないのじゃ!」


 熱くなるシノとツバーシャ。


 対して理不尽な珍魚のすくい方をされた上、相手にされない人魚の子。


 温度差が激しい。


 流石にこれは俺が注意せにゃならんだろう。


 そう思い一歩踏み出し口を開くも。


 ダンッ。


 と、人魚の子がツバーシャみたいに足(尾)を踏み鳴らしたのでお口を閉じた。


「ぎょっ!(わかった。私が間違ってた。深海にルールなんてない。あなたたちはそれを思い出させた。なら私もなりふり構わない!)」


 未だかつて見せなかった低い低い声のぎょ。


 これは相当ご立腹ですわ。


 ルール不用の珍魚すくいだなんてもうめちゃくちゃじゃないか。


「そう。あなたも……」


「ヤル気なのじゃな」


 だが、二人には人魚の子の言葉は通じない。


「ぎょっ!(絶対に負けない!)」


 いや、微妙に通じあっているような?


 ともかく、猫と飛竜と深海人魚による珍魚バトルが始まってしまった。


「フン!」


 ツバーシャが再び地を鳴らし魚を宙に上げる。


 狙った珍魚だけを打ち上げるってのはなかなか器用な事をするもんだ。


 更に幾度も繰り返し、二匹、三匹とお椀のなかに落としていく。


 大漁だ。


 しかし、それを黙って見ている人魚の子ではなかたった。


「ぎょ!(やりなさい!)」


 と、人魚の子が珍魚に命じれば。


 パシャっ!


「なっ!」


 珍魚が跳ねてツバーシャの持つお椀に体当たり。

 椀は手からこぼれて桶のなか。

 珍魚が逃れて碗が舟を漕ぐ。


「ぎょ(すくいあげられても奪い返す。お椀の中に珍魚を入れても終わりじゃない)」


 なんかもう色々おかしい。

 なんのバトルなんだこれは。


「やってくれるわね。そっちがその気なら!」


 まだツバーシャは何かしでかす気なのか。


 ガシッ。


 と桶の端を両手で掴む。


 おいおい。

 ひっくり返えすのか?

 いや、傾けて水を流して珍魚が水から揚がったから全部私がすくったとか屁理屈こねる気か?


 いやいや、流石にそれはない……。

 よな?


「フン!」


 ああ、やっぱり桶から水を抜くつもりらしい。

 ツバーシャは桶を持上げ傾け出した。


「ぎょっ(させない!)」


 人魚の子が叫ぶ。

 すると人魚のこの回りに水がまとわりつき。


 パシュッ。


「えっ? 消えた?」


 人魚の子は水に溶けた。


「な、なによ……?」


 さしものツバーシャもこれには動揺。

 桶を傾ける手が止まる。


「ギョッ(私は言った。簡単にはすくわせないと!)」


 次に姿を現したとき、人魚の子はツバーシャのすぐ脇にいた。


 ズンッ。


 そして、人魚の子が足で桶を踏みつけツバーシャのもくろみを打ち砕く。


 そう、足で……。


「っ……。アンタその格好……」


 今日はツバーシャの驚く姿がよく見られる。

 でも、これは驚くわ。

 だって下半身魚の姿から上半身魚……。

 いや、魚に足を生やした姿に変わっている。


 ムッチリした太ももがちょっとえっちだ。


「ギョッ(あなたが何をしようと全て阻止する)」


 姿だけでなく声色も魚のモノに変わった。

 ついでに挑戦的だ。


 いや、変身はどうでも良い。

 それよりいつまでこの不毛な戦いは続くんだ?

 何がどうなりゃ決着なのさ。

 多分本人たちも分かっていないんだろな。


 だが、終わりの時はすぐにやって来る。


「パパー。あれにのってみたーい」


 唐突に現れたヒゲ面の子が変わり果てた人魚の子を指させば。


「ほほう。これはなかなか珍妙な種族だ。桶を泳ぐあの人間ナマ足魚に乗って楽しめるのか」


 父親らしきヒゲ面が関心しながら近づいてくる。


「ギョッ!?」


 これだけたくさんの人が集うテントの中で派手に騒いだんだ。


 そりゃ、この珍魚の出店も人が群がる。


 そうなれば当然近くにいたツバーシャも人目を引くわけで。


「きょ、興が覚めたわ。今日はこのぐらいにしといてあげる……」


 それに気づいたツバーシャは俺の後ろに隠れてしまった。


 さっきまでの調子はどこにいったんだが。


 こども連れに群がられる人魚の子。

 視線にビビったツバーシャ。


 勝負の行方がどっかにいってしまったかの様に見えるがもう一人いたのを忘れてはならない。


「見てくれ主さま。珍魚が山盛りなのじゃ」


「二人があらそっている間にしれっとすくってたのか」


「フン……。私の敗けで良いわよ……」


 これが漁夫の利ってやつか。


 人魚の子もシノのお椀を見て悔しそうな顔をして見せたがたくさんの人に囲まれてどこか幸せそうだった。


 きっとこれからは珍魚すくいから珍魚水上スキーと名を変えて大いに賑わう事だろう。


 めでたしめでたし。

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