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百五十九話 シノの本気とツバーシャの本気

 俺の番がやってきた。

 狂竜がくしゃみをした。

 珍魚すくえた。



 俺に珍魚をすくわれたのがよほど悔しかったのか、両手両膝を地につけて絶望する人魚の子。


 とてもいたたまれない。


「な、なあ。珍魚は返すよ。珍魚を手に入れるのが目的じゃあなかったしな」


「ぎょ(同情なんていらない。深海出身を愚弄しないで。深海は無慈悲な世界。厳しさを忘れた深海人魚に明日を生きる資格なんてない)」


「そうかい」


 深海ってのはかくも厳しいものなのか。


 ちょっと変わった生き物がゆったりと海水に身を委ねて漂っているイメージなんだけど。


 キラキラした巨大なクラゲがフワフワーってしてたりさ。


 なんて妄想に浸っていると人魚の子に四つん這いのまま睨まれた。


「ぎょ……(まだあなたの番は終わってない……)」


「そうだな」


 俺としてはもう目的を果たせたので終わりで構わないんだがな。


 気分がのらない事もあってか、次なる獲物を探してポイを振るえば水に触れた瞬間あっさりとポイは破れてしまった。


 ちょっとホッとした。


 これ幸いとツバーシャに新しいポイを渡す。


「ほらっ。次はツバーシャの番だ」


「ねえ……」


「ん? どうしたツバーシャ」


「これって一人ずつやる必要ってあるのかしら……?」


 恐らく簡単に珍魚をすくいあげるだろうシノの横であっさりとポイが破れてしまったら切ない気持ちになりそうだから。


 そんな理由で一人ずつやる事にした。


「だから、ツバーシャが構わないなら一緒にやってもいいぞ」


「別に構わないわ。負けるつもりはないもの……」


「ほう。ツバーシャはわあに勝てると思っておるのか」


 何故だかシノとツバーシャが勝負をする雰囲気になってしまった。


 ツバーシャは分かるけど何でシノまで負けん気なんだろか。


 釣りが好きだから?

 魚が好きだから?

 猫だから?


 まあ、負けたくない理由はありそうか。


「……」


 おや。

 なんかシノがぶつぶつ言ってる。


「ぬぅ。煮るか焼くか刺身か……」


 食べる気だ。


「くふふ。たくさん捕って城なしに離せば……」


 増やしてから食べる気だっ……!


 しかし珍魚はハリセンボン。

 ハリセンボンってのは食して良いものなのだろうか。

 どことなくフグに似ているし喰ったら毒で死にそうな気がする。


 気になったので聞いてみれば。


「ぎょ(毒のある珍魚もいる。でも、こどもが、口にしたら大変。だからここの珍魚は無毒のものを選んだ)」


 との事。


 トゲがある時点でこどもが口にしたら大変なことになるんだろうよ。


 突っ込みを入れようかと思うも珍魚すくいが始まったのでそちらに注目する。


 スッ……。


 さきに動いたのはシノだ。


 狩猟者たる貫禄か忍者たる貫禄か。


 気配を殺し布の擦れる音さえ立てずに珍魚の背後へポイを差し込む。


 珍魚には背後も見えるハズだがまったく気づかれている様子はない。


「ぎょっ……!(出来るっ……!)」


 これには思わず人魚の子も感嘆を禁じ得ない様子。


 シノはポイを流れるような動作で珍魚の腹へと潜り込ませ、後は持ち上げるだけと言うところまで瞬きすら許さない早さで到達させた。


 しかし、その時ツバーシャが唸る。


「ルグググっ……!」


「なっ……!?」


 ぷくーっ……。


 ツバーシャの唸りによって威嚇され、桶のなかの珍魚全てが膨らみ上がり針を突きだした。


 あわやシノのポイと接触というところだが、直前でシノはポイを引く。


「何をするのじゃツバーシャ!」


「何って……。威嚇で獲物の動きを止めるのは狩の基本じゃない……」


「珍魚には逆効果じゃろう! 主さまを真似てフチですくいあげるつもりか? お主にアレは向かんぞ」


 シノもフチですくいあげれば良いと思うんだが、正攻法ですくいあげたいのかな。


 別に真似もなんも気にする必要なんてあるまいに。


 まあ、人魚の子はいい顔しないだろうが。


「シノ。あなたはとらわれ過ぎているわ……」


「なんじゃと? わあが何にとらわれ過ぎていると言うのじゃ?」


「言ってもきっと理解は出来ないわよ。そこで指を加えて力の差を目にすると良いわ!」


 おおっ!


 あの引きこもりなツバーシャがとうとうかつての自信に満ちた姿を取り戻した。


 瞳に迷いはなく声には張りがある。


 やはりふんぞり反ってこそのツバーシャだ。


 呆れて呆けるシノを口の端を引っ張ってあざけて見せると、ツバーシャは勢いよく足を振り上げた。

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