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百五十八話 クチッ……

 狂竜をトカゲで押し通した。

 俺は子パンダを取り出した。

 子パンダはウエストポーチにはまってた。



 ラビと狂竜の代わりの子パンダが珍魚すくいに挑戦し、すくいあげた珍魚の数はゼロ。


 それがよほど嬉しいのか人魚の子は終始にやけっぱなしだ。


 やれやれ。

 淡白な言葉とは裏腹に感情豊かな子だな。

 店側が客を駆逐して喜ぶようじゃいかんだろうに。


 だが……。

 それもここまでだ。


 俺はポイを握ると珍魚の泳ぐ桶の前に構えた。


「ぎょ?(次はあなたがやるの?)」


「ああ、悪いが本気で行かせてもらうぞ」


「ぎょ(あなたに珍魚はすくわせない)」


 俺たちは啖呵を切って互いににらみ合う。

 目を反らしたら負けだ。

 いや、人魚の子は目隠ししているから勝負とかないわ。


 何となく気まずいモノを感じつつも気を取り直した俺は獲物とすべき珍魚を探る事にした。


 さて、どれにするかな。


 狂竜を抱えているからあまり遠いところにいる珍魚は狙えないので近場にしよう。


「ご主人さまならぜったいに珍魚をすくえるのです!」


「おお。応援してくれるのか。ありがとうな」


 応援ってのはなんだがくすぐったい気分だが悪い気はしないな。


 ふむ……。

 ラビの敵討ちだしラビが狙っていた珍魚を狙うのが良いか。

 針を出すのにも体力がいるだろうしきっと疲れてすくいやすくなっているハズだ。


 問題はどの珍魚がラビの仇なんだというところだが……。


 おっ、あれだな。


 注意深く桶の中を見渡すと、ちょうどしぼんで針をしまっている途中の珍魚を見つけた。


 針をしまって何事もなかったかの様に他の珍魚にまぎれようとするも、一ぴきだけ傾いているのでもうまるわかりだ。


 しかも、幸いな事に2、3歩右にずれれば手の届く位置にいる。


「一度逃げた珍魚をすくっても構わないよな?」


「ぎょ(……)」


「沈黙は肯定と受け取るぜ」


 カッコ良さげなこのセリフを一度言ってみたかった。


 なんでそうなるのかは知らん。


 ともかく目標は決まったので傾き珍魚の近くへと移動する。


 あっ、そうだ。

 一応【風見鶏】は使っておくか。

 水中には効果がないが水面には多少効果があるしな。


「見える……!」


 やはり空ほどの効果は得られないがある程度の進路予想は出来る。


 ポイをどの角度から差し込むかの参考にしよう。


 はて、前からか後ろからか。

 はたまた横からか。


 後ろからが良さそうだが……。


 チラッ。


 じっと珍魚の目を見る。

 珍魚の目は多くの魚より外に向かって出ている。

 それは何故か?

 そもそも魚の目には世界がどう写っているのか。


 そんなのは俺にはわからない。


 ただ真横についていることから、人より多くの視野を確保出来ている様な気がする。


 もしかしたら珍魚ってのは背後も見えるのでは無かろうか。


 そうであるなら目が出ている理由にも納得出来る。



 デブだから目が出てないと腹が邪魔で後ろが見えない!



 なんだか間抜けな理由だがしっくりくる。


 まっ、試してみますかね。


 俺はポイをそっと珍魚の尻に近づけた。


 ふよふよふよ……。


 すると珍魚はポイから逃げるように前に泳いでポイから逃げる。


 どうやら俺の考えは正かったようだ。


 つまりどこから攻めても同じか?


 いや……。


 俺はふと思い立ち、珍魚の正面にポイを近づける。

 珍魚はポイの脇を抜けるようにして逃げていく。

 もう一度尻から攻めてみる。

 珍魚は前に泳いで逃げていく。


 なるほどな。


「そう言う事かい」


「ぎょ?(なに?)」


「いや、魚ってのはさ」


 言いつつ俺は珍魚の正面にポイを近づける。


 珍魚はポイの脇を抜けようとするも進路を先読みし、それに合わせて進路をふさぎ続ければ、いやんいやんと首を振る。


「鳥が空を飛ぶのと同じで急な反転は出来ないんだな」


「ぎょっ(だから?)」


「つまり、正面から攻めれば逃げれない」


 どうだ。

 珍魚の弱点見つけてやったぜ。


 俺は勝ち誇った。

 

 だが、人魚の子は動じない。


「ぎょぎょ(確かにあなたの言う通り。魚は後ろに下がれない。でも」


「でも?」


「ぎょ!(あなたは珍魚を警戒させたらどうなるのかを忘れている!)」


 ……。


 あっ……。


 ぷくーっ……。


 針出ちゃうじゃん。

 いかん、さっさとすくいあげれば良かった。

 いや、針を出してポイを破られるのがオチか。


 珍魚をすくうにはこの針をどうにかしないとどうにもならんな。


 いっそポイを勢いよく振り上げて珍魚飛ばしてお碗で受け止めるか?


 いやいや、水面にあげる前に落ちるだろう。


 うーん。

 どうしたものか。


 俺は更なる思考の渦に身を投じようとしていた。


 が、そこで狂竜が小さくかわいいくしゃみをする。


「クチッ……」


「おわっ。体冷えちゃったか?」


 もちっと体にくっつけてやろうか。

 変温動物っぽいし日の光がないと寒いんだろう。


 俺は狂竜を温める為に体勢を変える。


 カツン……。


 その時ポイが桶に触れた。


 あっ!


 そこで俺はひらめく。


 金魚をすくうポイにはぜったいに安全と呼べる場所がある。


 それは紙を貼るフチの部分だ。


 とは言えフチは細くとてもじゃあないがここに珍魚をのせてすくいあける事なんて出来ない。


 だが、トゲを突き出している今だけは別だ。


 すぐさま俺は膨らんだ珍魚の腹にポイを差し込みフチをトゲに絡めてロックした。


「ぎょぎょ!(それズルい!)」


「いや、針で紙を破っておいてズルいは無いだろう」


「ぎょっ……(うっ……)」


 ちょうど水に対してポイが垂直になるから、水の重みでポイが破れる事もない。


 だから後は持ち上げるだけだ。


「お、ととっ……」


 だが、水中から揚げたところで浮力が働かなくなり、トゲとトゲの間にポイをロックしているにもかかわらず不安定に。


 そして少し珍魚を水面から持ち上げたところでとうとう落としてしまう。


 駄目か……。

 すまんラビ。

 ご主人さまはラビの仇を討てなかった。


 俺は諦めた。


 諦めたが。


「クチッ……」


 再び狂竜がくしゃみをした。

 くしゃみの反動で狂竜の頭がお椀を持った肘にあたる。

 肘ってのは衝撃を受ければピンっと伸びるもので。


 ポチャン……。


 ちょうど伸びた手で握ったお椀が珍魚の下に潜り込み珍魚はお椀に吸い込まれた。


「お? おおっ! やったぞ! 珍魚をすくえた」


「ぎょっ!?(そんな!?)」


「ご主人さまの勝ちなのです!」


 いつから人魚の子との勝負になったんだいとは思うも嬉しかったので考えない事にした。


「ぎょっ……(今まで誰にもすくわせなかったのに……)」


「いやいやいや、全くすくえなかったら詰まらないだろう」


「ぎょ(珍魚すくいは遊びじゃない。珍魚すくいは命をやりとりする。私はなんとしてでも珍魚がすくわれれるのを阻止しなくてはいけなかった)」


 そうかい……。


 いや、そこまで言うなら珍魚すくいなんて開くもんじゃあ無いだろうよ。

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