百五十話 おいもを売ろう
布が風に飛ばされた。
お姉さんが走り去った。
ツバーシャがおヒゲを付けた。
「それじゃあお店作りを再開しようか。今度は風に飛ばされないようにするんだよ」
「むふふ。かしこいラビは二度もおドジをしないのです! 狂竜ちゃん!」
「あいー」
布の上に狂竜を載せて重石がわり。
びゅうううう……。
パタパタ……。
今度は自称かしこいラビの知略によって布のが飛ばされることはなかった。
でも風で布のが捲れて狂竜が包まれて半端な餃子みたいだ。
「すー!」
そこで布のを真っ直ぐにしようと狂竜がゴロゴロと転がりだす。
何が楽しいのか風が止んでもゴロゴロしっぱなしだ。
「むむむっ……」
それを見ていたラビが狂竜を羨ましそうに見詰めている。
ラビもゴロゴロしたいのかな。
でも何だか恥ずかしくて出来ないと。
ふむ……。
ここは空気を読んできゃっはーなどと叫びながら俺が先にゴロゴロすべきだろうか。
よし。
なんて考えていざ実行に移そうとしたところ。
「ねえ……」
「ん? ああ。どうしたツバーシャ」
すんでのところでツバーシャが俺を呼び止める。
なんだなんだ?
ちょうどいい感じに勇気を奮い立たせたところだったんだが……。
ん? ツバーシャはなんだかモジモジしているぞ。
「もしかしてツバーシャもゴロゴロしたいのか?」
「ちがうわよ! その……。私は何をすれば良いのかしら……?」
「えっ? ツバーシャもお店作りを一緒にやるのか?」
「やるわよ……」
やるらしい。
「じゃあ、これを並べておくれ」
何だかヤル気のツバーシャにウエストポーチから壺を出して手渡す。
干し芋を売るつもりなので地べたに布一枚敷いたところにそれを転がして置くには忍びない。
だから壺を台にするのだ。
「よーし、完成だ。こんなもんでいいだろう」
布を敷いてひっくり返した壺を並べて壷の上に布被せただけだが芋を並べてみればお店っぽくはなった。
途中、ツバーシャが壺を並べている間にラビがためらいがちに隅でこっそり申し訳ない程度にコロコロしてたのは見なかったことにしておく。
「はて。値段はどのぐらいにしようかな」
「一度で済むように高い値段を付ければいいわ……」
「いや、そんな高い芋なんぞ売れないだろう」
そもそもこの辺りは富裕層の住む街の中心からかけ離れているのでお財布事情も厳しそうだ。
「ならタダで売るのです!」
「すー!」
「いやいや、発想が転倒してるからね。タダじゃお金は稼げないよ」
なら幾らなら良いのだという話だがこの街の物価がわからない。
はてさて困った。
いやいや、ウチにはシノがいる。
シノは忍者らしく先に別のところでローミャの街を駆け巡り情報を集めている。
忍者足るもの情報が命なのじゃと嬉々としていたもんだ。
だが、それは建前で本音はダイエット。
以前なんのけなしにシノが自分の腹をつまんで苦い顔をしているのを目撃してしまったので間違いない。
雨でだらけすぎたのだ。
「主さまー!」
おっと、ちょうどいいところにシノが帰ってきた。
「シノ。おかえり。何か分かったか? 幾らで売ったら良いか分からんから取り合えず相場が分かるとありがたい」
「抜かりないのじゃ。1ラーリでパンが1個買える程度と言ったところかのう」
「ふむ。すまん聞いてもさっぱり分からなかった」
ラーリが通貨の単位ってのは分かるが……。
まあ、芋は文字どおり腐るほどあるし、売値は十本分の干し芋でパンと同じ1ラーリにしておけばいいか。
「でも人がいないんだよなあ」
「それには理由があるのじゃ。なんでも昨日、この街の空をドラゴンが飛び回っていたとかで……」
「あー……」
城なしに石を運ぶのに狂竜に巨大化してもらってピストン輸送したっけか。
「まあなんだっていいや取り合えず売ってみようか」
「えへへ。ワクワクしてきたのです!」
「すー!」
なんだかラビも楽しそうだ。
たくさん売れる事を祈るとしよう。
しかし──。
「むむむっ。ぜんぜんまったく売れないのです……」
ガッカリしたラビが人差し指の腹でイモをグリグリしながらボヤく。
無理もない。
一時間くらいたったけど誰も買いに来ないのだ。
やはり人がいなければ売れるものも売れないのか。
うーんどうしたもんかな。
なんて頭を悩ませていると。
「やあやあ、入場料は稼げたかい? あっ、あの怪しさ極まりない布袋は被るのをやめたんだ。賢明だね」
そこへサーカステントの前にいた燕尾服の少年がやって来た。
「さっぱりだよ。一本も売れやしない」
「あははは。素人商売なんてそんなものだよ。それじゃあボクが初めてのお客さんだね」
「他人事だと思って笑いおってからに。ん……? 初めての客って事はイモを買ってくれるのか?」
「買ってくれるのです!?」
「うん。さっき貰ったのは美味しかったし、ウチの皆にも食べさせてあげようと思ってね」
おお。
干し芋の良さを理解してくれたのか。
「お前……。良いやつだな」
「良いやつなのです!」
「ボクが良いやつねえ。芋を買うってだけでオーバーだね。まあいいや。100ラーリ分貰うよ」
えーっと。
十本分の干し芋で1ラーリだから千本分の干し芋か。
うわあ出すのがめんどくさい。
でもガンバって少年の前に積み上げた。
なんだか燕尾服君の顔が引きつっているけど気にしない。
「ほい。100ラリ分の干し芋だぞ」
「ねえ、ちょっとこれ多すぎるよね? 君は金銭感覚がおかしいよ」
「たくさんあるから良いんだよ」
食べる量より遥かに生産量が多いから貯まっていく一方だし。
「いや、こんなにボクが持てると思う?」
「どうせそっちに向かうし届けるよ。と言うか、こんなことなら入場料を芋にしてくれれば良かったのに」
「他の人たちがマネして入場料を食べ物で払うようになったら厄介じゃないか」
「ああ、確かに……」
干し芋は日持ちするけど、大量のナマモノが積みあがったら始末に困るか。
「はい、じゃあはい代金の100ラーリ」
「ん。それも後で入場料として渡すんだし面倒だから持ってておくれよ」
「入場料は一人10ラーリだからだいぶ余るよ?」
「この国のお金を貰っても直ぐに遠い国にいくからな。持ってても仕方がない無いんだ。だからおつりはいらないよ」
まあ城なしの気分次第だけどな。
「いや、中でもお金が必要になるからね? 全部ボクが受け取ってしまったら楽しみが半減しちゃうよ」
そう言って入場料を差し引いた残りのお金を返してくる。
はて?
これはいったいどういう事だろう。
「サーカスなのに入場料の他に中でお金が必要なのか?」
「えっ? 何を言っているの? ウチはサーカスじゃなくて見世物小屋だよ」
「えっ?」
何ですと?




