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十五話 巫女じゃあないんかい

 日本みたいな国に着いた。

 巫女が崖から飛び降りた。

 アイスで懐柔した。



 ともかく巫女の子は落ち着いてはくれたみたいだ。


 なので、アイスのおかわりを出しつつ俺のこと、ラビのこと、そして城なしについて詳しく語って聞かせた。


「ほう。世界中の旨そうな食べ物を見つけては育てておるのか。なんとも豪快で面白そうな道楽なのじゃ」


「さつま芋とバナナと海なのです!」


「まあ成り行きでな。でも別に食道楽を目的にしているわけじゃあないぞ」


 とは言え、現在最大の目標はラビにお腹いっぱい食べさせてあげる事だから間違ってはいないか。


「この国ではもう旨いものを見付けたのかのう?」


「まだ着いたばかりで何も見付けてない。あっ、そうだ。この国はもしかして日本と言う国だったりするのか?」


「日ノ本で日本か。面白い呼び名じゃのう。しかし、この国を日本と呼ぶ者はおらぬ。日出国と呼ぶ。そして、日出国で旨いものと言ったらやはり米なのじゃ」


 日本を日出国と呼ぶこともあったよな。

 米が後押しして尚更日本みたいだし。

 しかし、米か。


 米は田んぼが必要になるってのはさすがに分かるがそれ以上は分からんから育てるのは難しいな。


「ふぅ……。あいすは甘くて美味しいのじゃ」


「それは良かったな。で、もう自殺はいいのか?」


「い、いや、わぁだって死にたくて崖から飛び降りたわけじゃあない。捕まったら酷いことをされそうだったから、やむを得ず飛び降りたのじゃ」


 なるほど。


 飛び降り自殺を図ったわけではなく、崖下の海へと活路を求めたのか。


 それなら、もう自殺の心配は無さそうだ。


「のう。主よ。やはりわぁをここに置いてはもらえぬかのう?」


「別にいいぞ。好きなだけここにいると良い」


「そっ、そんなにあっさり決めてしまっても良いものなのか? わぁが悪の手先で寝首をかくかも知れんのじゃぞ?」


 寝首ねえ。


 俺はウエストポーチからナイフを取り出すと、自分の首に当てて見せる。


 そして、おもむろに何度も突き立てた。


 それを見た巫女のが慌て俺の手首を掴む。


「なっ、何をしておるのじゃ!? そんな事をしたら……」


「別になんとも無いぞ? 普通の人よりちょっとだけ俺の体は丈夫なんだ。だから、寝首はかけないぞ」


「なんと!? いや、いかに首を鍛えようとも刃物を防ぐ事など叶うわけが……」


 巫女の子は驚き身を乗り出し指で俺がナイフを突き立てたところをなぞった。


 ちょっとくすぐったい。


 疑り深くもナイフの刃まで確認して巫女の子がポツリとこぼす。


「たしかに……。何とも無いのじゃ……」


「そうだろうそうだろう」


「ご主人さまはすごいのです!」


 溺れたり毒でも盛られれば死ぬとは思うがあえて今言う必要はあるまい。


「まあ、悪の手先で俺の寝首を狙っていたなら、俺がナイフを首に突き刺そうとした時に止めたりはしないんじゃあないか?」


「するとわぁは試されたのかのう?」


「それはどうだろうな」


 なんとなく寝首をかけないと分かってもらえれば納得してくれると思っただけだ。


 でも、それを伝えるのはちょっとカッコ悪い気がして言葉を濁した。


 巫女の子は僅かに考えるような素振りを見せたが、直ぐに俺の目の前へ来て地に両手を付けて深く頭を下げる。


「主さまは命の恩人じゃ。懸命に尽くすが故にどうかよろしく頼む。わぁはシノ。皆にはおシノと呼ばれておったのじゃ」


「そうかシノか。しかしシノ。本当に帰らなくても良いのか? 今ならまだシノを日出国へ帰す事が出来るけど明日明後日には日出国に帰れなくなってしまうぞ?」


「構わぬ。もうわぁの居場所はどこにもない」


 切なげに目を伏せてそんな事を言うものだから、俺にはもう何も言うことが出来なかった。


 主さまだの尽くすだのちょっと気になる言葉が出てきたからそのあたりの話を詳しく聞かなければいけないような気がすんだけどな。


 まあ、良い。


 ともかく、そんなこんなで城なしに新たな住人としてシノが加わった。


 ラビと同様にたくさん愛でてやろう。


「さて、俺とラビは地上に降りて探索をするけどシノはどうする? もうだいぶ移動したとは思うがまだ日出国だ。今日は城なしで留守番するか?」


「いや、わぁも行く。主さまが行くのにわぁが行かないわけにはいかぬのじゃ」


「でもご主人さまがラビとおシノちゃんを抱えたらお空を飛ぶのがたいへんなのです」


 そうなんだよなあ。

 二人を抱えて飛ぶのはしんどい。

 かといって一人ずつ運ぶのは手間だ。


 はてさてどうしたものか。


「ん? わぁは空を飛べるぞ?」


「はいー?」


 いやいやいや。

 翼も無いのに空は飛べないだろう。

 それともなにか?

 魔女がホウキに跨がって飛ぶようにお祓い棒で空飛ぶのか?


 そんな理不尽な飛びかたをされたら俺の立場が無いんだが……。


「【忍法大凧の術】!」


「まてーい! 何で巫女が忍術使ってるの!?」


「巫女は世を忍ぶ仮の姿なのじゃ。まぁ、巫女の術も体得しておるがの。それはともかく、忍が忍だと分かる格好をするわけがなかろう?」


 まったくもってその通りなんだが釈然としない。


 凧に張り付いて飛ぶって飛びかたは分かるけども。


 おー、おー。

 嬉しそうに両手で凧を掲げおってからに。


「しかし、忍者だったとはなあ」


「ん? わぁの色気に騙されたのかのう? すけべな輩はこう言うのに弱いのじゃ」


「いや、女の子がそう言う格好で男を騙したらダメだろう」


 というか忍者なんてのもやらせたらダメだろう。

 忍者って暗殺とかするよな?

 何とかしないと。


「おシノちゃん。その四角いのでどうやってお空を飛ぶのです?」


「こうやって、この大凧に張り付いて飛ぶのじゃ」


 どうやら俺の腹に大凧を縄で繋いで飛ぶらしい。


 俺たちは早速試してみることにした。



 そんな訳で空の上。


「主さまは凄いのう! 主さまと一緒ならどこまでも高く飛べそうなのじゃ!」


「俺よりそんなんで飛べるシノが凄いわ!」


「んー。ラビにはおシノちゃんが見えないのです!」


 これは飛んでると言うか牽引してると言うか、不思議な体験過ぎる。


「俺は高い所から飛び降りないと飛び上がれないからあの山の崖に降りる!」


「承知したのじゃあー!」


「ううっ。お耳がビリビリするのです」


 空を飛んでいると風に声を流されてしまうのでどうしても大声になってしまう。


 ラビの背中から腕を這わせてお腹を抱えているので大声がお耳に痛いらしい。


 次からはシノとジェスチャーでやり取りできるように打ち合わせておこうかな。


 そうこう考えつつも地上についた。


「よし、着地出来た。シノは大丈夫かな?」


「おシノちゃんはくるくる回って着地を決めたのです」


「うむ。どうじゃ? 忍術は便利じゃろ」


 そうな。


 まさか忍者がこんなんで空飛べるとはおもわなんだ。


「城なしとやらではカネは必要無くなるのじゃろう? ちょいとひとっ走りして人里で散財して来るのでここで待っていて欲しいのじゃ」


「それは構わないが追われているのに人里に降りても大丈夫なのか?」


「なあに、変装するから大丈夫なのじゃ!」


「ふわわっ。おシノちゃんが宙返りしたら服が変わったのです!」


 そうか忍者だもんな。

 変装は朝飯前か。

 でも、骨格レベルで変わるものなんだろうか。


 まるで原型をとどめない村娘に化けたぞ?


「それじゃ主さま行ってきます。お土産期待していて下さいねー」


「口調だけでなく声色まで変えられるのか」


「いってらっしゃいなのです!」


 シノは大げさにブンブンと手を振るととんでもない早さで山を下って行った。


 忍者には驚かされてばかりだ。


 しかし、そうなると何故追われていたのか謎だな。


 変装とあの身のこなしがあればいくらでも追っ手をまけそうなものなんだが。


「ご主人さま? ぼーっとしてるのです」


「ん? ああ。考え事をしていたんだ。シノは不思議なやつだなって」


「おシノちゃんは不思議でいっぱいなのです」


 まあいいか。


 シノが戻ってくるまでラビとこの辺りにめぼしいものがないか見て回るとしよう。

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