百四十六話 タレがないのでこってりと二度づけ禁止
チーズもらった。
パスタもらった。
城なしが怒った。
まあ、何はともあれ晩飯だ。
もう、お空はオレンジ色に染まり始めている。
これが昼飯ならパスタにしたけれど、この時間ならがっつり肉を食いたかろう。
だから焼き肉をしよう。
ラビはお肉を切る係。
安全に刃物を使えるようにはなった。
でもノコギリみたいにギコギコしている。
「むむむ。また上手に同じ大きさにならないのです」
「いいよいいよ。シノなら、大きさが違ってもちゃんとまんべんなく火を通してくれるさ。器用だしね」
「主さまは全部器用のひと言ですませすぎなのじゃ」
シノはお肉を焼く係。
ラビが切り分けたお肉をぷすぷす串に刺して七輪にのせていく。
「でも、出来るんだろう?」
「出来るか出来ないかでは無い。忍び足るものやって為さねばならぬのじゃ!」
「ああ、うん。忍者は頑張って肉を焼いておくれ」
ツバーシャはうちわ係。
静かに淡々と七里に風を送る。
ぱたぱたぱた……。ぴたっ。チラッ。
あっ、こっち見た。
「煙りは自由よ……」
「そ、そうだな」
ぱたぱたぱた……。
ちょっと何を言っているのか分からない。
まあ、うちわ係が気に入ってはいる様なのでそっとしておこう。
さて、そんなこんなで。
「焼けたのじゃ!」
ほうほう、どれどれ、それなら味見してみるか……。
ぱくり。
「ふむ、旨味があってなかなか……。ぐふっ! げほっ」
「ご、ご主人さま!?」
「これ動物園の味がする……!」
臭いがキツすぎるんだ。
こりゃあ、工夫が必要になるぞ。
なるほど、普通に食えるなら鳥豚牛に並んでもっと売られているわな。
はてさて困ったどうしよう。
いやいや、ウチにはラビがいる。
「ラビ。カレー言語魔法をお肉に掛けておくれ」
「あれ? カレーにするのです?」
「カレーはもう良いかな。臭いだけを消してほしい」
カレー食べたいなーって思うときは一日三食一月カレーでもいい。
なんて、思うんだが実際にやるとキツい。
「ターメリック。ターメリック……。ウコンウコン!」
人差し指で、『の』の字をみっつ空に書き、最後にビシッと肉を指差す。
ラビは魔法を使うときの振り付けにとてもこだわる。
「楽しそうだな」
「ご主人さまも一緒にやるのです!」
「えっ? えーっと……」
ちょっといや、かなり恥ずかしいぞ。
と言うか俺の振り付けなんて見ても気持ちの良いもんじゃないだろうに。
「じぃー……」
ああ、でも逃れられそうにない。
覚悟を決めよう。
「ターメリック。ターメリック……。ウコンウコン」
「声が小さいのです!」
「ターメリック。ターメリック……。ウコンウコン!」
「お腹に力を入れるのです!」
ラビはちょっと振り付けにはうるさい。
「ふう……。楽しかったのです!」
「そうかそうか」
「また一緒にやるのです」
それは遠慮したい。
「肉が冷めたわ……」
「わぁがもう一度火をいれるのじゃ」
「ん。その必要は無いよ。チーズがあるからな」
鍋がわりの壺にチーズを入れて火に掛ける。
チーズは底の方から溶けていき、最後に残った塊がトプンと沈む。
「ほい、こいつに串焼き突っ込んで食べるんだ」
「はー。なんだか面白そうなのです!」
「そうだろう。そうだろう」
名付けて『ジンギスカン・チーズフォンデュ』。
これなら冷めたお肉もアツアツだ。
ただし。
「二度づけは禁止だからな」
「二度づけって何なのです?」
「口を付けた串をもう一度これに突っ込む事だよ」
二度づけは大変罪深い行為だ。
O阪人に見付かったら二度と日の目は見れない。
彼らは二度づけ探して夜な夜な繁華街を這いずり回る。
「お、おおしゃか人は悪い人なのです?」
「いやあ、街の衛生を守り抜き、一歩進んだ人としての振る舞いを伝える聖人たちだよ。二度づけには容赦ないけど」
「ラビは二度づけしないのです……」
よしよし、ラビは良い子だ。
「それじゃあ、食べようか」
「は、はひっ、はふっ、熱いのれす!」
「ふーふーしてゆっくり食べなよ」
「ゆっくりしてたらチーズがたれてしまうのです……」
なるほど。
確かにゆっくりしていたら大変だ。
でも。
「ほら、ラビ。シノを見てごらん。ああやってクルクルと串を回して食べれば良いんだ」
「はー。さすがおシノちゃん。とっても器用なのです」
「これはあんまり器用さ関係ない気がするのじゃ」
さっそくシノに習って皆でクルクルして食べた。
でも、ツバーシャは一人チーズが乗ったヤギ串を冷まさず一口で放り込む。
うわあ……。
「な、なに見てるのよ」
「いや、別に……」
「フン……」
あっ、ツバーシャもクルクルして食べた。




