百四十五話 そりゃ怒るわな
馬車が走ってきた。
ヤギの魔物が走ってきた。
やっつけた。
「本当にありがとうございました」
男は先程の馬車に乗っていた商人だった。
「いや、俺も良いもの貰えたし、解体も手伝って貰えたし助かったよ」
俺たちは商人から謝罪とお礼をもらった。
「いえいえ、こちらこそたくさん頂いてしまって」
何だか手伝って貰えるばかりでは悪いのでヤギを半分譲ると言ってみた。
すると大層喜ばれチーズを分けてくれた。
薄切りでも、細切れでも無いぞ?
ホールケーキみたいなデカいやつでそらもう立派なもんだ。
しかも自家製だと言う。
俺は悔しかった。
だって自家製だぜ?
なので、俺は自家製の干し芋で対抗する。
すると商人はパスタを取り出して──。
そして始まるお返し合戦。
「本当によかったのか? 最後には商品まで貰ってしまったけど」
「えーえー、構わんです。売る分は十二分にありますから。むしろ、これでも釣り合うかどうか……」
「ん。そうか。分かってくれるか? いやあ、その干し芋は俺の最高傑作なんだ。誉めてもらえて嬉しいよ」
「えっ? その干し芋の入った壺……」
「ん?」
「い、いえ、何でもありません。確かに素晴らしい干し芋でした!」
何やら口ごもったのが気になりはするが……。
まあ、ようやく俺の干し芋が理解されたと喜ぶ事にしよう。
「のう、そこな商人。その壺なんじゃが」
「あ、お返しします?」
「主さまが差し出したものを返せとは言わないのじゃ。だが、この近くの街では売り払って欲しくはないのう」
「ええ、分かっています。あなた方もあのローミャの街で商いをなさるんですね」
そんな予定は無いが。
「では私たちはこれで失礼します」
それだけ言って商人は去っていった。
「最後の方はよそよそしかったな」
「主さま。本当は全部分かっておるのじゃろう?」
「うわ、シノは容赦ないな」
また干し芋が城なしの壺に負けたことぐらい分かっているさ。
「しかし、変なものを扱っている商人だったのじゃ」
「生えていないと恥ずかしい毛を売る商人なのです!」
「ラ、ラビ。そんな誤解を受けそうな事を大声で言っちゃあだめだ」
誤解が誤解を呼んで大変な事になる。
まあ、それよりもだ。
「城なしに一度戻ってお昼にしようか。パスタもらった事だしな」
そして城なしに戻ると城なしが──。
ボコォ。ゴトッ……。
──石を地面から産み出した。
「なんだなんだ? 城なしは石ころくれるのか?」
アレかな?
地上で俺たちが貰いっこしていたのを見ていたのかな。
それで真似したくなったと。
なかなか、かわいいところがあるじゃないか。
「いやあ、悪いな城なし。ありがたく貰っておくよ」
ボコォ。ビュッ、ゴチッ……!
「痛い! 頭に石をぶつけたら痛いって……」
器用にも石を投げつけてくる城なし。
どうやらご立腹の様だ。
しかし、いったい何故だろう?
特に怒らせるような事をした覚えは無いんだけど。
「うーん。どうしてしまったんだろう」
「きっと、城なしはお腹がすいているのです!」
「あはは。そんなまさか。城なしはご飯なんて食べないよ……。あっ!」
石を食べるじゃないか!
待て待て、最後に城なしに石を持ってきたのはいつだ……?
うんまったく思い出せん。
まあ、少なくとも一月以上は石を持って来ていない。
うわあ、やっちまった。
「いかん、完全に忘れてた。そりゃ怒るわな」
「主さま。ここはもう一度地上に戻った方が良さそうなのじゃ」
「城なしのご飯がないのにラビたちだけ食べるのは美味しくないのです!」
確かに。
引け目を感じて喉を通らなそうだ。
「城なし、今度はちゃんと石を持って帰って来るからな!」
久しぶりの天気だし、きっと石を持って帰って来てくれると期待していたんだろう。
その後俺たちは地上と城なしを何度も往復した。
狂竜にも手伝ってもらったので、過去最大の運搬量だ。
城なしも満足して石を投げつけるのをやめてくれた。
しかし、なんだろう。
また何かを忘れてうっかりしたような──。




