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百三十四話 え? 俺死んだの!?

 エルルを見つけた。

 トトエルを見つけた。

 エルルはトトエルに一服盛っていた。



 皆で食事をすると言っていたので、専用の船室があるのかと思ったらそんなことはなかった。


 どうやら元々倉庫だったらしい。


 木箱やタル。それに布を掛けてテーブルやイスに見立て食事するようだ。


 先に、女神さまとスライムが席に着いている。


 そこへラビがとてとてと駆け寄り、女神さまの体に丁度重なり合うように座り、顔だけ少しずらしてアホなことをのたまう。


「ご主人さま見て欲しいのです。ラビのお胸がちょびっとだけおっきくなったのです!」


「すー?」


「コラコラ。人の体をおもちゃにして遊ぶんじゃあない」


 しかも、ちょびっとだけってさりげなく酷いこと言ってるし。


 一応女神さまなんだぞ。

 元女神さまだけどさ。


 取りあえず、ラビを女神さまからひっぺがす。


「よし。揃いましたね。それじゃあ食べちゃいましょう」


 ちょうどそこで頂きますの合図。 


 献立はパンとスープだ。

 それに、肉を焼いたもの。

 あと、何かの葉っぱのサラダ。


「代わり映えしねーな。オレ様はもう少しこったものが喰いたい」


 そんな食事を前に偉そうに文句をつけているのはスライムのライム。

 スライムだから、ライムなんて名前になった訳じゃあない。

 転生後も同じ名前を使っているだけなのだ。


 その本名は川州来夢かわすらいむ


「無茶言わないでくださいよー。ここは海の上ですよ? どうにもなりません」


「海だって食い物はあるだろ。釣りでもすればいいんじゃね?」


「そう都合良く道具なんて持っていませんよ。海に潜って手づかみでもしろって言うんですか? あっ、ライムさんなら出来るかもしれませんね」


 “ライムさんなら”


 その言葉を聞いてライムはぶるんとその体を震わせた。


 ああ。まだ水が怖いんだな。


「い、いやほら……。オレ様には手足が無いし手づかみはちょっと難しいかなーって。と言うか泳げないんだよ。海水じゃ、潜るのすら難しいわ」


「そうですか? 練習すれば案外出来ることかも知れないですよ。翼さんだって最初は飛べずに……」


 女神さまはハッとして、言葉尻をすぼめる。

 そして、食卓が重い沈黙に包まれた。


 いったいどうしたんだ?

 俺の名前が出てから様子が変わってしまった。

 もしかして、俺がいなくなったことを心配してくれているんだろうか。


 いや……。

 そりゃそうだよな。

 突然いなくなったら誰だって心配するよな。


 申し訳ない。

 そんな風に思いつつも、心配してくれている事が嬉しかった。


「なあ。ヤコ。まだ翼の事を……」


「いえ……。ごめんなさい失言でした」


 でも、ちょっとこの空気は苦手だな。


 なんて、考えたその時だ。

 それまで、静観していたエルフの兄妹がそんな空気を吹き飛ばす。


「ヤコちゃん。翼はもういないんだよ」


 うん?


「そうだ。だから私たちはもう前に進まなければいけないんだ」


 あれ?


「それは、わかっています……。いえ。わかっていないのかも知れませんね」


「いや、別に無理に気持ちを整理する必要もないんじゃねーか?」


「いいえ。翼さんは死んでしまったんです。いつまでも引きずっていてはきっと翼さんも成仏出来ません」


 え? 俺死んだの!?


「ご、ご主人さま。死んだのです?」


「い、いや。生きてるし……」


 生きてるよな?


 何だか自信が無くなってきた。


 実は俺死んでるとか。

 なんか城無しって天国的な雰囲気があるし。


 あれ? 俺死んでる?


「でも、そうするとラビも死んでるんじゃ……」


「ふぇぇっ!? ら、ラビも死んでるのです?」


「ふぇー?」


 実はラビは、助けられず崖から落ちて死んでいた。

 実はシノは、助けられず海に落ちて死んでいた。

 実はツバーシャは、城無しに突き刺さって死んでいた。


 狂竜は、暴走して爆発しちゃったとか。


 うん。無さそうな話でもない。

 みんな死んだことに気が付かずに毎日楽しく暮らしていたりね。


 そう。

 城無しはお化け島だったのだ。


 なにそれホラー。

 いやいやミステリー?

 やれやれオカルティックな話は得意じゃあないぞ。


「はわわわわ……」


 ああいかん。

 ラビを怖がらせてしまった。


 お耳を小刻みに震わせてぷるぷるしている。


 俺はどうするか少しなやんで、ラビを後ろからぎゅっと抱き締める事にした。


「ほらラビ。温かいだろう?」


「温かいのです……」


「死んだら少なくとも冷たくなって温かいのもわからなくなるさ」


「そう……。なのです?」


「ああ」


 多分な!

 詳しいことは知らん。


「だから私は。いえ、私たちは、翼さんの分も生きないと……」


 俺たちがそんな事をしている間にも、話は明後日の方へとぶっ飛んでいく。


「翼さんの分も笑って、悲しんで、苦しんで。そしてそうやって生きていかなきゃいけないんです」


 いや、もう忘れておくれよ。

 さっきは、心配してくれて嬉しいなんて思ったりもしたけれど、これはこれでいたたまれないわ。


「ああ。そうだな。オレ様たちが死んでも翼に顔向け出来るように立派な冒険者にならないとな!」


 お前そんな事言えたキャラじゃ無かったろう。

 それにそんな大層な目標が俺たちにあった覚えはない。

 適当にダンジョン潜ってただけだ。


「そうだね。僕も自分の行いを誇れるよう努力しないと」


 トトエルの行いって女がらみじゃないか。

 死後そんな事を誇られたら堪ったもんじゃないわ。

 それにその努力はエルルの負担が増えてしまう。


 かわいそうだからやめたげなさい。


「私もあに様を誇れる様、一層努力しよう」


 そうでもなかったわ。

 エルルのやつ目を輝かせて使命感に燃えてるわ。

 人生に何か目標があるのは良いことだ。


 だが、それが兄の女ぐせを治す事で良いのか?


 まあともかく、俺の死を理由に場は盛り上っていく。


 何だろう。

 仲間の死を乗り越えて、パーティーの絆が深まる。

 いい話のハズなのに、俺が生きている事で生じる違和感。

 あと疎外感。


 ぐううう……。


 そして高鳴る腹の音。


「うん? 腹の音?」


「ご主人さま。お腹すいたのです……」


「あ、うん。そうな」


 そう言えばまだごはん食べてなかったか。

 と言うかこの不思議空間でも腹が減るんだな。

 食い物持ってきて無かったら飢え死にしてたかも知れん。


 ウエストポーチから干し芋を取り出しながら、そんな事を考えた。


 そして、いつ終わるかわからない、キラキラした友情物語を見ながら俺たちは腹に芋を詰めた。


 結局、目的だったこの船の目的地は分からず終い。

 俺たちがここにいられる間に結果は得られるんだろうか。

 そもそもいつまで俺たちはここにいられるんだろう。


 ちょっと不安になった。

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