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百三十三話 エルルとトトエル

 かつての仲間に出会った。

 でも無視された。

 挙げ句、足蹴にされた。



 ここは未来で、この世界に俺たちが干渉する事は出来ない。

 なんでかはわからん。

 ただ、事実として裏付ける根拠なら目の前にある。


「ご主人さま見て欲しいのです。ラビの生首なのです」


「すー?」


 ラビが壁から顔だけ出して遊んでいた。


「怖いからやめておくれ」


 物に触れる事すら出来ず、体は壁をそのまま通りすぎる。


 以前、キツネとタヌキの化かし合いに巻き込まれたときの状況に似ているかも知れない。


「しかしなあ……」


 あの時は別の場所から、別の場所の様子が見られる言わばテレビ(それも三次元)の様なものだったけれど今回は違う。


 俺たちはその場にいるのだ。


 面白いのは、壁をすり抜けてしまうと言うのに床はすり抜けない。

 もちろん床に傷をつけることは出来ないが変な話だ。

 マントルまで突き抜けて行きそうなものなのに。


 あと、呼吸。


 仲間に声が届かなかったと言うのに息は出来る。


 なんでだろう。


「ご主人さまが、また固まってるのです」


「すー?」


「ああ、いや、すまん。考え事をするとどうもな」


 まあ、気にしても仕方がないか。


 さて、俺たちは今操舵室にいる。


 他の仲間の顔も見ておきたいところだったが、いつ元の時間に戻るのかわからなかったから、必要なことを先にしておきたかった。


 ここには誰もいない。


 船って、舵をほかしていいものなんだろうか。


「それにしても、航海道具がいっさいないのはまあ良いとしても地図すら無いんだが」


「こーかい道具? 後悔するのです?」


「そんな道具は嫌だ。どっちかというと無きゃ後悔する道具だよ」


 望遠鏡とか星図とかね。


 俺としては、行く先を抑えたかっただけなので、地図さえあれば良かったんだが、あてがはずれてしまった。


「ここにいても仕方がないか。あまり気が進まないけど、皆がいるところに張り付いて何処へ向かっているのか調べないとな」


 何だか幽霊にでもなった気分だ。

 プライバシーの侵害もはなはだしいけれど、全ては再会の為。

 許しておくれ。


 そうと決まれば早速船内探索だ。


「ほらラビ。先に進むよ」


 今だに遊び続けるラビを連れて操舵室を後にし、階段を下りる。


 降りたさきは廊下だった。

 真ん中に一本廊下を通し左右に二部屋。

 突き当たりに一部屋。


「手前から、一部屋ずつ見ていくか」


「あっ、でもそこから人が出てくるのです」


「おっと……」


 ラビのお耳は、中の気配を捉えたらしい。

 慌て俺は扉開く扉にぶつからない様に距離を取る。


 って、どうせすり抜けるんだ。

 避ける必要なんてないじゃないか。 


「はー。キレイな人なのです」


 ラビが扉から出てきた女の子を見て感嘆をあげる。


 無理もない。


 まっ金きんの髪に緑色の瞳。

 そして、横に長い耳。

 エルフと呼ばれる種族で、そのすべてが美男美女なんて言うふざけた種族だ。


 ついでに寿命も長いらしい。


「エルルか」


「ご主人さま。この人知っているのです?」


「ああ。昔の仲間だよ」


 いつだって胸を張ってふんぞりがえって胸張って、やたらと人を見下したがる。

 そんな子だった。

 でもまあ、それは一般的なエルフの態度だ。


 ツバーシャと気が合うかもしれない。


「ん? あの手にあるのは……」


「何だか緑でぼこぼこしたお水なのです。それに酷いニオイがするのです。あれはなんなのです?」


「あれはお薬だよ。エルルのお兄さんはビョウキなんだ」


 それもかなりの重病だ。

 そのビョウキのせいでエルルとエルルの兄は里を追い出されるハメになった。


「ビョウキの人を追い出したのです……?」


 ラビが悲しそうな瞳で俺を見る。


 ずっとベッドの上から動き出すことも出来ず、いつもケホケホと咳をしている青年を想像したんだろう。


 だが、アレはそう言う類いのビョウキじゃあない。


 でも、それは言わない。


「行けばわかるさ。エルルについていこう」


 なんて言ってはみたものの。

 目的地はすぐ隣の部屋だった。


 エルルがドアノブに手を掛け扉を開き、俺も後に続こうとしたところで、バタンと扉が閉じられる。


 取り残された俺。


「何だか拒絶されているみたいで、俺悲しい」


「ラビとご主人さまの姿が見えてないので仕方がないのです」


「そりゃそうなんだけどさ」


 どうにも実感が薄い。

 そんなにすぐ今の状況には馴染めないんだ。


 だが、閉じられた扉をすり抜ければ、嫌でも理解する。


 変な気分だな。


「あに様これを。元気になるお薬だ」


 俺たちが部屋に入ると丁度エルルが薬を差し出すところだった。


 もちろんその相手はエルルの兄だ。

 名前はトトエル。

 エルルと同じ髪と瞳の色。

 そして長い耳。


 ただ、エルフにしては優しげな瞳をしていて、今もエルルに微笑みを向けている。


「この人がビョウキなのです?」


「ああ、不治の病だ。とてもじゃないが放っておく事は出来ないビョウキだよ」


「でも、全然そうは見えないのです」


 精神的な面の強いビョウキだから、それも仕方がない。


 トトエルは、エルルから薬を受けとると一息で飲み干した。


「ふぅ。いつもありがとう。でも相変わらず酷い味だね」


「良く効く薬ほど、不味くなるってはは様が言っていたぞ」


「そうかな? でも、そもそも僕はどこも悪くないんだよ? それにこれを飲むと海の向こうにいるまだ見ぬ恋人たちへの思いがどうにも薄れてしまう気がするんだ」


 まあ、そう言うお薬だからな。


 トトエルは愛に生きる男だ。

 とにかく手が早い。

 ついでに相手の性別を問わない。


 因みに俺も迫られた事がある。


 そんなわけで、トトエルは誰彼構わず、里のエルフに愛の手を差し出した。

 が、それは限度を超え、ついにはエルフたちの信仰する神の怒りを買い、里を追放されるに至る。


 トトエルのビョウキはこれの事。


 好き勝手やらかした彼は転生者で転生前は女性だったりもする。


「あに様。健康と言うのは直ぐに手にはいるものではないんだ。長い目で見てほしい」


「うん。そうだね。僕もそう思うけど、それは僕の求めた問いの答えじゃない気がするんだ」


「まだ見ぬ恋人うんぬんの話なら、冷静に見詰められるようになったと考えればいい」


 どうやら、トトエルも薬の効果には疑問を持っているらしい。


 対してエルルは、なれた様子でトトエルの懐疑的な質問をサラリとかわす。


 だが、その心中には確固たる決意があるのだ。


 エルルにはエルフの里が始まって以来、最大の極秘任務が課せられている。


 それはこの男トトエルの醜態を外の世界に広めないこと。


 その為のお薬と随伴なのだ。


「それよりあに様。もう昼食が出来ているんだ。みんな待っているぞ。早くいこう」


「ん。もうそんな時間なんだ。待たせたら悪いね」


「うむ」


 しれっと、食事だと言って薬の話題から逃れる辺りこなれたもんだ。


 多分、それを見越して直前に薬を飲ませたんだろうな。


 しかし、全員揃っての食事なら好都合だ。

 仲間が何処へ向かっているのかの話が話題に挙がるかも知れない。


 俺はラビの手を引き、更に二人の後を追いかけた。

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