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百三十二話 一方通行な再会

 ツバーシャに未来を見てもらうことにした。

 ラビが飛んできた。

 壺の中へと落っこちた。

 


 青い空。眩しすぎる太陽。申し訳なさげにちょびっと浮かぶ雲。


 しかしながら、その雲の存在がここは城なしでない事を指している。


 そう、城なしは雲より高い位置にあるからだ。


 じゃあ、ここはいったいどこなんだ?


 地面に張り付く自分の体を起こすと、俺は辺りを伺った。


 木で出来た床。

 やたら高いところに干されたシーツ。

 そして、遥か彼方に水平線。


「ん? 水平線!? いったいこりゃ、なんだってんだ」


 キラキラと光を反射させながらたゆたう波の先にあり、フラットに空と海とを別けるそれを前にただ呆然とするしかなかった。


 ふー……。

 落ち着こう。

 冷静に状況を整理しよう。


 俺は壺の前で飛び込んできたラビを受け止めた。

 でも、勢い余ってラビともども壺の中。

 んで、次の瞬間今の状況におちいったと。


 なるほど。

 さっぱりわからん。


 わかる事と言えばここが海に浮かぶ船の上なんじゃないかって事ぐらいだ。


 大きさは少し大きめのヨット程度といったところ。


「あっ、そうだ。それよりラビはどこに?」


「ご主人さま!」


「うおっ。真後ろにいたのか、ビックリするじゃないか……。って、なんで正座?」


 うつむき、いつになく深刻そうな雰囲気で、ラビはぷるぷると震えていた。


 まあ、突然こんな事になったら震えたりもするか。

 何て言ってラビを慰めたもんか。


 しかし、ラビは俺より先に口を開き、そしてとんでもないことを言い出した。


「ご、ご主人さま。ラビは、ラビはやらかしてしまったのです。ラビとご主人さまとこの子は揃って天国に……」


「いやいやいや、死んでないからね!?」


 どうやら、ラビは皆で図らずとも無理心中してしまったと勘違いしたらしい。


 人は死んだら女神さまに出会うのだ。

 お船に揺られて漂うわけじゃあない。


「女神さま?」


「ああ、金のカツラとカラコン付けた女神さまが現れて転生させてくれるのさ」


 尤も、あれは特別だったし、そもそも世界が違うから女神さまが出てくるかはわからん。


 が、死んだらどうなるのかなんてのを考えるのはラビには早いからこれで良い。


「かつら? からこん? ご主人さまは、女神さまにあった事があるのです?」


「ああ、かなり好き勝手してくれるもんだからだいぶ振り回されたもんだ」


「はー。ご主人はやっぱり凄い人なのです」


 それはどうだろう。

 女神さまって言っても、中身はその辺にいそうな女の子だったしな。


「ご主人さま。もっと詳しく教えて欲しいのです!」


「詳しくか。そうだなあ。女神さまは向こう見ずで地球かぶれでいっつもトラブルばかり運んできて……」


 バン!


 俺がラビに女神さまについて語っていると、突如船室の扉が開く。


 そして女の子が一人姿を現した。

 黒い髪に黒い瞳。

 常人ばなれした容姿を持つ女の子。


「あれは……! なんでここに?」


「ご主人さま? あの人知っているのです?」


「知っているも何も……」


 今しがたラビに語っていた女神さまそのものだ。

 そしてそれは、かつての仲間の一人でもある。


 もう会えないと思っていた。

 だってそうだろう?

 俺は城なしで暮らしている。


 仲間との距離もとんでもない速さで拡がった。


 世界はあまりにも広大で。

 そんな世界で仲間を探すなんて、砂漠に落としてしまった硬貨を探すようなものだ。


 だから俺は諦めていた。

 ひどい話で、いつの間にか仲間と別れてしまった事すら忘れつつあった。


 でも、名前まで忘れてしまったわけじゃあない。


 俺はその名を叫けぶ。


弥子やこ!」


 感動の再会。

 でも、それはそこまでだった。


 近づいて来た女神さまに詰め寄ろうと試みた時。

 足元を何かにすくわれて派手に転んだからだ。


「げっ!」


 そういや、ズボンを下げたままだった!

 いかん、このままじゃ女神さまとぶつかる……!


 だが、俺の体が女神さまに触れる事はなかった。

 あろうことか互いの体がすり抜けた。


「はっ? ぐへっ……」


 そして俺は予想外の結果になすすべもなく甲板に突っ伏した。


 なんだってんだ。

 まったく意味がわからない。


 いや……。

 分かってた。


 めまぐるしく思考し、ぐるぐると感情の渦に呑まれていると、ラビが取り乱しがちに声を荒げた。


「ご主人さま! この人たち変なのです。なんなのです? どうなっているのです?」


「変じゃないさ。ここはね、おそらく未来なんだ。だから、むしろ俺たちがここにいることの方が変なんだよ」


「未来……?」


 そう、未来だ。

 まさか、こんな形で未来を見ることになるとは思っていなかったが、先ほどの流れからそうであると確信した。


 もしかしたら、何かの間違いでここに飛ばされたのかもしれないなんて考えて期待したりもしたけれど、竜の鱗をツバーシャに頼んで未来を見てもらうために行動していたのだ。


 それ以外に無いだろう。


 しかし、どんな未来が待ち受けているのかと思ったら、かつての仲間の未来だったとは。


「どうしたんだよ弥子」


 船上に響く声。

 だがそれは俺の言葉じゃあない。

 女神さまの肩に乗る透明な物体から放たれた言葉だ。


 スライム。

 彼もまたかつての仲間の一人。 


「いえ、何となく……。ですかね?」


「おいおい突然外に飛び出して何となくって何だよ」


「あはは。何なんでしょうね。戻りましょうか」


「もう戻るのか。まあ、良いけどよ」


 それだけ言うと、かつての仲間はきびすを返す。


 未来を見ているとは言え、相手に見えない、触れられない、声が届かないってのは寂しいな。


「ご主人さま元気がないのです」


「すー?」


「ん。まあな。ちょっと思うところがあっただけさ」


 いかんいかん。

 ラビに心配させちゃあダメだな。

 あと、狂竜にも。


 気持ちを落ち着かせようと、ラビと狂竜の頭を撫でてやる。


 しかし視線だけは女神さまの背中を見ていた。


 このまま、未来を見続けていれば、再会の為の手掛かりが見つかるかもしれない。


 だから、今は少しでも情報を集めよう。


 そんな風に、気持ちに区切りを付けたとき。


 ふっと、船室の扉に手を掛けていた女神さまが振り返る。


「えっ? 見えていないハズじゃ……」


 でも、それも一瞬の事で、すぐに船室の中へ入っていった。


 気のせいか……。


「おっといかん。せっかくのチャンスだ。色々と調べておかないともったいない。後を着けてみよう」


「はいなのです!」


「あいー」


 海の上、それも船で移動している。

 そんな仲間を探すなんてのは不可能だ。


 でも。


 行き先さえわかればきっと何とかなる気がした。

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