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空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~  作者: つばさ
十章 ひきこもり飛竜(ワイバーン)嵐の家出
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百二十八話 おめでとうございます。元気な男の子です!

 ツバーシャが怒られてた。

 なんとか庇ってみた。

 渓に渓が出来て竜が出てきた。



「ツバーシャ……」


 慌てて後を追うも追い付けるハズもなく、ツバーシャは狂竜に迫っていた。


 いったいどうしたっていうんだ。

 いつもならやらかしたってふんぞりがえっているだろうに。

 ラビの宝物を破いた時だってそうだ。

 急に居なくなったりして……。


 待てよ?

 ツバーシャは、城なしから飛び出して何をしていたんだ?

 大老とテルルにダンジョンを案内させて……。


 そこまで考えて、ふといなくなる前のツバーシャの言葉が頭のなかに浮かんできた。


『ダンジョンに行けばこれと同じものが手にはいるのかしら……?』


 これかっ!?

 ツバーシャは、壊してしまったラビの宝物の代わりを探して……。


 なんてことだ。

 ツバーシャが反省や責任って言葉を覚えたっていうのか!?


 だから今も、ドラゴン岩をぶち壊した責任感じてこうしてひとり狂竜に向かっていると。


 そう言うことなのか?


「ルガアアアアア……!」


「ォォォ……」


 対峙する二匹の竜。

 しかし、その体格差は絶望的でツバーシャと言えど狂竜の前では赤子にしか見えない。


 いや、赤子はその狂竜なんだけど。

 気持ちはわかるがこれの相手は無謀だ。

 早く止めないと。


 だが、狂竜は待ってくれない。


 狂竜が翼を薙いだ。

 巨体に反して軽々とした動きで放たれたそれはツバーシャを襲う。

 だが、初動で直ぐに回避に移っていたツバーシャに直撃はしなかった。


 それでも、ツバーシャはとんでもない勢いで吹っ飛んだ。


「嘘だろう……」


 ツバーシャだって十分でかい。

 それなのに風圧だけでこのありさまだと?

 いや、それよりツバーシャは大丈夫だろうか。


「ルググ……」


 ツバーシャのところに駆け付けると、それはもう酷い有り様だった。


「うわあ……」


 仰向けにひっくりかえって、白目むいてヨダレをたらし、ぐったりとしている。


 時おり、びっくんびっくん痙攣けいれんしてはいるものの命には別状なさそうだ。


「こんな醜態晒したとなってはトラウマが増えそうだけど」


 せめてもの情けと、まぶたを下ろし口をふさいであげた。


 さてさて。

 ツバーシャの保護者としてどう収拾つけたもんか。

 いや……。


 どうにもならんわこんなん。


 相も変わらず、地上を見下ろすその姿を見て俺は全部投げ出したくなった。


「こんな時こそ、地球外生命体さんがいてくれたら……」


 ぽつりとこぼれた僅かな希望。


 キラッ……。


 それは、天に届いたのか。

 雨雲にでっかい穴を開け、一筋の光が降り注ぐ。


「来てくれたのか!」


 思えば、いままでトラブルに輪をかけて更なる巨大なトラブルを呼び込んで来た地球外生命体さん。


 そんな、地球外生命体さんでもこの時ばかりはありがたいほかなかった。


「ンガー!」


 その雄叫びが心づよい。

 不思議と勇気が沸いてくる気さえする。


 地球外生命体さんは、飛び蹴りの形で流星の如く狂竜へと吸い込まれていく。


 大きさに圧倒的な差があれど、地球外生命体さんならなんとかしてくれる。


 俺は信じて止まなかった。


 だが。


「ンガー……」


 再び、振るわれた狂竜の翼から放たれた風圧であっけなく彼方へと消えていった。


「嘘だろう……?」


 頬がひきつっているのが自分でもわかった。


 こんなのもう逃げるしか無いじゃないか。

 そうだそれが良い。

 ドラゴン渓の皆には悪いけどこれはどうにもならない。


 その時。

 なんとなく視線を感じた。


 チラリと俺は振り返る。


 するとそこにはテルルの姿が。


 凛として、俺を見詰めるその瞳は、『干し芋さまならきっと何とかしてくださいますの』。


 そんな風に語っていた。


 いやいや。

 いやいやいやいや。

 あれは無理。絶対に無理だ!


 気が付けばドラゴン渓の人たち。

 いや、竜たちも俺を見ている。


 えっ? なんで?


 バカな。

 たかだか、翼の生えた人間ごときに何を成せっていうんだ!


 しかしながら、俺ももとは日本人。

 空気は読めない方ではあったが、この時ばかりは違った。


 ツバーシャの保護者として責任は取らなきゃならんよな。

 このまま何もせずに逃げるわけにはいかないか。

 せめて、ツバーシャや地球外生命体さんの様に突っ込んで、やられておかないとならんだろう。


 幸いにも、ツバーシャも地球外生命体さんも風圧でぶっとんだだけだ。

 命まで取られる事は無いだろう。


 ちょっとだけ。

 ちょっとだけ近づいてぶっ飛ばされるだけ。

 きっと、みんなそれで諦めてくれると思うし、そうなったら逃げてくれるだろう。


 やる事は決まった。


 俺は、狂竜が産まれた時に出来た渓に身を投げると空を飛んだ。


 頼むぜ【落下耐性】スキルちゃん。

 俺が死なないように守っておくれ!


 狂竜目指して俺は飛んだ。

 狂竜も近づいていく俺に気がついた。


「ォォォ……。ォォォ……!?」


 しかしその様子は今までと違った。

 なにやら驚くようなそぶりを見せる。

 更には、翼を振り上げる事をせず、ゆっくりと、しかし確かに力強く加速していく。


「これは……。おいおい体当たりする気か? なんで俺だけ体当たり!?」


 慌てて旋回しようとするも、狂竜はとんでもない速さでこっちに向かってくる。

 とても避けられる気がしない。


「こりゃもうダメかも知れないな……」


 俺は他人事の様に呟いた。


 圧倒的な質量と速度。

 とても【落下耐性】でどうにかなる気がしない。


 すまんなラビ。

 あんまりご主人さましてやれなかった。


 最後に遺言めいた言葉を心に残す。


 そして、みるみる近づいてくる巨体。


 しかし、そこで変化が起きる。


 何故か、俺に近づくにつれて狂竜が小さくなっていくのだ。


「えっ?」


 あまりの出来事に呆気に取られて固まった。


 そんな、俺の腹に犬猫程度に縮んだ狂竜が飛び込んでくる。


「ぶべらっ!?」


 しかし質量が小さくなっても速さは健在。


 米の入った袋か、土砂の入った土嚢袋でも超高速で投げつけられたんじゃないかって衝撃が腹を襲う。


 狂竜を腹に張りつけたまま俺は吹っ飛んだ。


 墜落。そして、体操選手も驚愕するであろう、手を着かない連続バク転の数々。


 それらを経て、俺の体はようやく勢いを失った。


「イテテ……。いったいなんだっていうんだ」


 俺は、腹に張り付いた小さな狂竜を見た。

 小さな狂竜もまた俺を見た。

 そしてひと言。


「ママ!」


「パパじゃなくて!?」


 思わず突っ込みを禁ずる事はできなかった。


 事態が飲み込めずなんとも言えない沈黙が流れる。


 そこへやって来たテルルが祝言をあげた。


「お、おめでとうございます。元気な男の子です!」

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