百二十四話 先見の大老
おなかがすいた。
でも食らったのはお預けだった。
ともかくドラゴンマージャンは始まった。
三人のマージャンを間近で見ていた俺は驚愕のあまり開いた口が塞がらなかった。
まず、このマージャンにはポンやチーといった相手の捨て稗を拾い入れるルールがない。
自分で揃える方のカンはある。
でもドラはない。
じゃんじゃんドラドラドラゴンマージャンと言いつつドラがない。
そして、そのルールでドラゴンしかないマージャン稗でマージャンをするとどうなるのか。
「ツモだ。グルォォアア! 四暗刻(フォース ヒストリア オブ ダークネス) (すーあんこー)」
「ツモです。グルォォアア! 四暗刻(フォース ヒストリア オブ ダークネス) (すーあんこー) 」
「ツモよ。グルォォアア! 四暗刻(フォース ヒストリア オブ ダークネス)(すーあんこー)」
アホか!
四暗刻ばっかりじゃないか。
ついでにアガる時になぜか吠えるし。
四暗刻は、同じ稗を三枚ずつ四組に加え同じ稗を二枚集めるシンプルな手だ。
しかしながらそれは役満と呼ばれ、容易に作れるモノではない。
だが、普通のマージャンよりずっとアガれる形が少ないがため、形が完成するまでに時間がかかり、奇しくも成立する。
「他に役は無いのか?」
「たくさんあるわ。天和(てんほう)、地和(ちーほう)、国士無双(こくしむそう)、四槓子(フォース クアッズ ドラゴン)(すーかんつ)」
「全部役満じゃないか」
まあ当然か。
全部ドラコンだもんな。
そうなるわ。
しかし、このぶっとんだ役の名前はいかんともしがたいな。
「博識。一つ抜けていますよ。七対子(セブンス ティラニー オブ サーヴァント)(ちーとーいつ)があります」
「ああ。あまり好きじゃないから忘れていたわ」
「七対子もあるのか」
「よし、干し芋も大体飲み込めたみたいだし次からは干し芋も参加出来そうだな」
まあ、なんとかなるか。
腹も減ったしいっちょやってみるかな。
そうして、外が暗くなり、明るくなるまでマージャンは続けられた。
結果は上々。
備え付けられたサイドテーブルには、戦利品の果物が山と積まれている。
あとパンダ。
でも食べられない。
もちろんパンダは食べるつもりもない。
果物の方だ。
して、その理由は。
「稗がベトベトになるだろうが」
ごもっとも。
たが、それなら休憩させて欲しい。
「負け続けたまま、中断は出来ませんよ」
「そうかい」
熱くなりおってからに。
人は空腹ですさむとか言ってた眼鏡はどこいった。
「しかし、解せないわ。なぜ干し芋のひとり勝ちなのか」
「そりゃ、一番手の早い七対子で攻めているからな」
このマージャンは単純にアガった回数で勝ち負けを決める。
点棒もなければ点数もない。
だから、どんな手でアガっても同じ価値。
それ故の結果なんだが。
「なるほど。マージャンの神に愛されているってわけですね」
「いや、違うし!」
この人たちあんまり話を聞いてくれない。
と言うかだ。
「俺はこんな事をしている場合じゃあないんだけど」
徹夜でマージャン出来るほど体力があるんだ。
そろそろ本気でツバーシャを探しにいかなければならない。
そう伝えたところ。
「ん? 仲間を探しにいく? どこにいるのか見当はついているのか?」
「いやまったく。それでも探しに行かないと」
「なら、マージャンをすべきよ」
いやいやいや。
ツバーシャを探しに行くべきではないとしてもマージャンはないわ。
どんだけマージャンしたいんだ。
なんて、思ったりしたのだが、意外な言葉が続いて出てきた。
「大老は先見の大老と呼ばれています」
「先見の大老?」
「長く生きた大老は、その身の鱗に未来を映すんです」
どうやら、あの爺さんただものではなかったようだ。
「制約があって、どんな未来をも見通せるわけではないわ」
「制約ってなんだ?」
「将来大老に出会う者が求める答えだけが見えるんです。それも一人につき一度限り」
未来視と言うよりは、凄まじく強力な占いのようなものらしい。
ともかく、俺がツバーシャの居場所を大老に聞けばわかるそうだ。
一度限りってところがなんだかもったいない感じにさせるが致し方がないだろう。
ん? 何か引っ掛かるな。
他にも探しものがあったような……。
それもかなり大切なもの。
「おい。どうした干し芋」
「ああ。いや、考え事をしてたんだ」
「わかるわ。私も思考の渦に飲まれると手が止まる」
あれ?
何を考えていたんだっけか……。
「ま、どうでもいいさ。続きやるぞ続き」
「いや、飯を食わせてくれ! 出来れば睡眠も取りたい!」
もはやマージャン稗がかすんでダブって見えるわ。
俺は必死に懇願した。
しかし、その懇願が届く事はなかった。




