百二十三話 じゃんじゃんドラドラドラゴンマージャン
寝床を抜け出した。
岩を投げつけられた。
ごはんはタダでは出てこなかった。
かくして、ドラゴンマージャンの開催が決まった。
「まあ、干し芋は初めてでルールわからないだろうからまずは練習だな」
酔っぱらいが、自分の杯にシュワシュワした酒を注いだ。
まだ飲むのかよ。
「ふふっ。マージャンは、中華、王台、そして、日出国で今人気の卓上ゲームなんですよ」
眼鏡がズレてもいない眼鏡を直しながらマージャンの人気について語り始めた。
どっかで聞いたような三国だ。
日出国はシノがいたところだが他は知らない。
というか、ここは日出国に近いのか。
「『じゃんじゃんドラドラドラゴンマージャン』はとても知性的な遊戯よ。私は好き。ただ、普通のマージャンとは少し違う」
なんて長い名前なんだ。
ドラゴンマージャンで良いじゃないか。
博識が、皮でできた小さめのトランクケースの様な物を卓にのせ、指の腹でつつーっとそれをなでる。
「それで普通のマージャンと何が違うんだ?」
「干し芋。これを開けてめくってみて」
「どれどれ……」
言われたとおりにケースを開けると中にはみっちり白くてつるつるした石に竹を磨いて張り付けたような 稗が入っていた。
おお。
マージャンっぼい。
更に一枚稗をひっくり返してみると。
「っ……! これはドラゴン!?」
「おう。カッコいいだろう?」
「ふふっ。驚いて頂けたようですね。これこそがドラコンマージャンです」
大した光源も無いのにキラリと眼鏡を光らせる眼鏡。
めくれどめくれど、ドラゴンドラゴン。
わぁ。全部ドラゴンでやんの。
34種が4枚ずつ。計136枚。
そのすべてにドラゴンと来たもんだ。
お前ら自分大好きだな!
萬子、筒子、索子、字稗なんてものが無いんだがマージャンになるのかコレ。
「まあ、確かにカッコいいけどさ」
何げなく一枚手にとってもてあそんでいると、酔っぱらいがもじもじし始める。
いったいどうした?
「ああ、そのな。その稗な……」
「ん? この稗がどうかしたのか?」
「それに描かれているドラゴンは俺なんだ」
お前かい!
自分の稗に照れるおっさん。
でもまんざらでもなさそうだ。
「いつまでもこうしていても仕方がないわ」
「そうですね。そろそろ始めるとしましょうか」
「干し芋は見学だ。わからないことがあったら遠慮なく聞いてくれよな」
酔っぱらいの声色が変わった。
どうやら好かれたらしい。
そんなに自分の稗をほめられたのが嬉しかったのか。
「まずは良く混ぜて稗を積んでいくんです」
三人はチャッカ、チャッカと音をたてて稗を積んでいく。
566で一列17稗、二段で34稗。
これは普通のマージャンと同じだ。
見ているだけってのもなんだな。
「積むぐらいなら俺もやるよ」
自分の場所以外に積むのはめんどくさいものだ。
17枚の列を二つ作りその片方の両端を指で押さえて持ち上げて乗せる。
「な、なんだその積み方は……」
「えっ? 普通こうやって積まないか?」
「そんな積み方は知らないですね」
「カッコいいな。俺もそうやって積むわ」
「干し芋。あなたできるわね……?」
卓で打つマージャンは学生時代に少しやった程度。
後はもっぱらネットマージャンだ。
このやり方が気に入ったのか、三人はわざわざ積んだ稗を崩してまで真似しだす。
どっぱーん……!
ところがうまくいかずにぶちまける。
「これはちょっと練習が必要そうですね」
「ゆっくり丁寧にやればなんとかなるわ」
「おおっとと。難しいなこれ。指が震えて手元がおぼつかねえ」
なかなか苦戦中の様だ。
でも酔っぱらいのそれは酒が原因だろ。
そのまま、俺の腹がなるまでそれは続けられた。
「おっといけねえ、そろそろ始めないと干し芋が飢え死にしちまう」
「水さえあれば一月は持つそうよ。試してみる?」
「人間は食べないとやさぐれてしまうそうなのてやめてあげましょう」
そういって、三人は稗を順に取っていく。
やれやれ。
人間をなんだと思ってるんだか。
というか、食料ならもってるんだが。
マージャンの決着なんぞ待たずに食べてしまおうとウエストポーチから干し芋を一山取り出す。
すると三人の手が止まる。
「ふむ。それが例の干し芋ですか」
「ほお、ヤル気は十分みたいだな。干し芋は干し芋を賭けるのか」
「それなら、私たちも賭けの対象を見せなければならないわね」
「えっ? いや、待っている間に摘まもうかと……」
だが、俺の言葉は届かない。
賭け品を出したと勘違いされて、摘まもうにも摘まめなくなってしまった。
そして、三人が順に賭け品を出し始める。
「私が賭けるのはこの果物」
最初に品を出したのは博識。
それは拳を二つ重ね合わせるより大きさだ。
色は赤紫。いや、濃い目のピンク色と言ったところか。
見た目はごつく、鱗を張り付けたような外皮がテカテカと光る。
あんまり食べ物には見えない。
「見たことが無い果物だ」
「これはドラゴンフルーツよ」
「ドラゴンフルーツ?」
ああ、とうとう現れてしまった。
ここは異世界。
いつかはファンタジーな食べ物が出てくるんじゃあ無いかと思ってた。
「はっは。竜の鱗をまとったみたいな果物だな。そりゃ、名実ともにドラゴンマージャンには相応しい」
「博識はなかなかやりますね。ですが、僕のもひけを取りませんよ?」
そういって、眼鏡を取り出したのは、さくらんぼをふたまわり大きくして梨色にしたような代物。
「これも見たことがない」
「竜眼と呼ばれる果物です。乾燥させたものを楽しむのが一般的ですね。もちろん乾かしたものも用意しています」
「竜眼……」
ドラゴンフルーツに竜眼。
ここにきて二つもファンタジーな果物に出合ってしまった。
どちらも、少々食べるのには勇気のいりそうな果物だが食べてみたい気はする。
残るは酔っぱらい。
さて、次は何が飛び出すのか。
「俺はこいつよ」
いって、震える白黒まんじゅうを持ち上げる。
「パンダかよ!」
「おう。俺たちもパンダを食べないからな。処分に困る」
「自分たちが食わないものを出そうとしたんかい!」
まったく。
早く解放してやってほしい。
ん? いや待てよ?
「パンダに竜が群がって食べているのを俺は見たぞ?」
「ありゃ、知性も理性もない生まれたばかりの竜たちだ。俺たちとは違う」
「そうなのか?」
詳しく話を聞いてみれば、竜と言うのは生まれでてから最低数十年は、野性動物のごとく本能のままに生きるものらしい。
「竜は二度生まれるの」
「知性と理性が芽生えて真の竜になるんです」
「そう言うものなのか……」
ちなみに、子育てなんて概念はなくて真の竜になるまでは放逐されらしい。
なんてワイルドな生態なんだ。
「さあ、賭け品は出揃いました。今度こそ本当にドラゴンマージャンを始めますよ」




