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空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~  作者: つばさ
十章 ひきこもり飛竜(ワイバーン)嵐の家出
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百二十話 ドラゴン渓と荒ぶる竜の血

 雷に撃たれた。

 女の子に助けてもらった。

 謎のジジイが現れた。



 それから紆余曲折ありつつも体を休めるべきだと言うことで俺は彼らの住処へと招待してもらう事になった。


 道中、竹林でパンダなんぞを見付けてほっこりしたり、竜の群れがパンダに群がり一瞬で骨だけになったのを見てぞっとしたりもした。


 やがて、山をでっかい斧で割ったような谷にたどり着く。


 両側が壁になってる。

 間に入って行きなり閉じたらどうしよう。


 そんな不安にさせられるところだ。


「ここがわたくしたちの住まうドラゴンだにですの」


「へえー。あの壁面にぽつぽつ空いている穴が住居かな」


「はい。大抵の竜は飛べますので」


 なるほど。

 良く観察してみると、空からやって来た竜が穴に入っていくようすが伺える。


 悪天候にもかかわらず、ツバーシャの様に激しい着地をする竜はいない。


 ふむ。まさか竜の暮らしを垣間見る事が出来るなんて思わなかったな。


「大抵って事は飛べない竜もいるのか」


「はい。わたくしは空を飛ぶことが出来ませんの。ですが、それが何か?」


「えっ? いや……」


 うわっ、急に表情が消えた。

 声も冷たいし。


 何気ない疑問を口にしただけだったのだが、地雷を踏み抜いてしまったらしい。


 どうしたものか。


「これ、お前が空を飛べぬことを気にしているのはわかるが、干し芋に当たってはならんぞ」


「はっ。わたくしとしたことが初対面の方になんて事を。申し訳ありません」


「いや、別に気にしてないよ」


「すまんの。こやつは散々飛べないことを馬鹿にされてきたせいで、その話題に敏感なんじゃ」


 大老は哀しげな表情で言葉を続けた。


 ずっとこの女の人を見てきたんだろうな。


 なにやら大老と言うからにはたかそうな地位にありそうなもんだが、ただの孫大好き爺さんに見える。


 まあ、この女の人が孫なのかは知らないが。


 なんだかほっとけない。

 そんな気持ちからついついおせっかいが生まれでてしまう。


「空を飛べないのは悲しいな……。そうだ。協力出来そうな事があれば協力するよ? アドバイスなんかも出来るかもしれない」


「それは……」


「ううむ。干し芋でも難しいじゃろうな」


 反応はよろしくなかった。


 うっ。空気が沈んでしまった。そこまで難しい問題なのか? 翼があればいつかは飛べそうなもんだが。


「そうですわね。見ていただいた方が早いと思いますの」


 言うが早い。

 てるてる坊主の裾からもくもくと煙が現れると、その姿を包み込みむ。


 そして、煙が晴れれば巨大な竜が姿を現す。


「グガアアアア!」


「やっぱり、迫力あるよなあ。ん? あれ? 翼がないな」


「うむ。こやつ、にょろにょろしたタイプの竜じゃからな」


「竜ってそっちかい!」


 ラーメンのどんぶりに描かれていそうな竜だった。


 飛べるとか飛べないとかそんな話しだったから、翼があるものだと思ってたわ。


 しかし大老。

 にょろにょろしたタイプじゃなくて、もっとカッコ良くカテゴライズしてあげようぜ。


「そんな訳なのでわたくしは空を飛べませんの」


 人の姿に戻ったテルルが哀しげに言う。

 テルルってのは、俺がこの人に勝手につけた名前。


「ああ。余計なことを言ってすまなかった」


「お気になさらないで下さいまし。空を飛べないのは残念ですが、自分の体は気に入っていましてよ」


「そうか」


 テルルがこの話題はこれで終わりだと目で語ってきたので沈黙で応えた。


「それよりも今は干し芋さまの身を案じて直ぐにでも横になって頂くべきだと思いますの」


「そうじゃ、そうじゃ。ここで一時休養していくがよいぞ」


「それなんだが──」


 俺はゆっくり休んでいる場合じゃあないんだ。

 つい断り切れずに着いてきてしまったがはっきり言わないと。


「なあ、気持ちはありがたいんだが、俺は家出娘を探さなけりゃならないんだ」


「ですが干し芋さまに施した治療は一時的なもの。放置してはいずれ廃竜になってしまわれます」


「いや、そうは言っても……。ん? 廃竜?」


 どういう事だ?

 廃竜になってしまう?

 竜の血を使って竜の力が備わるとかじゃなくて廃竜?

 響きからしてダメな感じになりそうだが。


「干し芋さま。キズがうずきませんか?」


「疼く気がする」


「痒く(かゆ)くありませんか?」


「痒い気もする」


うごめいていませんか?」


「蠢いている気も……。って、はっ? 蠢く!?」


 慌てて服を捲りあげる。

 そこには変わり果てた有り様が。


「なんじゃこりゃあ!? なんか傷口が鱗で覆われてるし、何かが体の中をもごもご動き回ってる!」


「その鱗はドラコンかさぶたで、動いているのは竜の血ですの」


「なんて大それたかさぶた!?」


 いや、違う。そうじゃない。

 かさぶたより中で動いてるやつだ。

 なにコレ。ほんとなにコレ。

 血管に無理矢理ちっこいハムスター詰め込んだみたいに中で暴れまわってるんだけど。


「気持ち悪っ! あっ、ショックで意識が……」


「干し芋さま。お気を確かに!」


「そのまま気を失ってしまった方が後が楽じゃぞ」


「なるほど。では、気を絶って下さいまし」


「意識して出来ることじゃあないわ!」


 なにやらとんでもない事になってしまった。


 それから、処置の続きを行うと言うことで、地に接した穴の一つへと運ばれた。


 そして、簡易の寝台に寝かされ、テルルが慌ただしく何やら準備をしはじめる。


 なんだか、手術でも始まりそうな雰囲気だ。


「な、なあ。これから、体を割いて中のものを取り出したりするのか?」


 手術なんて転生前にもしたことない。

 医者に掛かるのもまれで割りと無駄に健康だった。

 だから、今のこの状況に不安と恐怖がひしひしと込み上げてくる。


「刃物は使いません。ただお薬を飲んでもらって体をマッサージするだけですの」


「えっ? この状況でマッサージ?」


 前世でも俺の知らない手術室の先ではマッサージが行われていたりしてたんだろうか。


「少しご説明する必要がありそうですの」


「そうしてくれると助かる」


 テルルはうなずくとゆっくりと説明を始める。


「こんな事になってしまったのは大老が張り切ってしまったので、結構な量の血を使ってしまった事が原因ですの」


「出血大サービスじゃぞう!」


 実際に身を切るサービスとか初めてだわ。


「少量を幾度かに分けて投与する必要があったのですが、それを怠った結果竜の血が拒絶反応を起こしました」


 ああ、血液って繊細だもんな。

 人間同士だって型の違う血液を投与したら大事だ。


「ですから、干し芋さまの体に入った竜の血をマッサージして体外に導かなければなりません」


「マッサージするぐらいで出るものなのか? いやそれぐらいで体外に出るなら別にやってもらう事に抵抗はないか」


 マッサージなら痛みも無いだろう。


「では、これをお飲み下さい」


 テルルはそういって、ビー玉サイズの丸薬と水を差し出してきた。


「これは?」


竜下りゅうくだしですの」


 うん? 竜下し? 何やら虫下し(下剤)みたいな名前だな。


 俺はこの時、躊躇せずにそれを飲み込んだ。


 しかしこの事が非常に大きな後悔を産む事になる。

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