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百十六話 カウントゼロ

 オージーがゲスかった。

 ショーターの弱点が見付かった。

 ロリーのぱんつは守られた。



 隠れん暴もついに大詰め。

 後7分。

 残りの人数は『3』だから、ラビたちで最後だ。


 男たちも順当にラビたちの隠れた林にたどり着く。


「ラビちゃんたち大丈夫かなあ」


「大丈夫だよファミ。みんなにはとっておきの策を伝えてあるからね」


「本当に? どんな作戦なの?」


「それは見てのお楽しみってね。ほら、始まったぞ」


 林を進むオージーたちの前には大きな木。

 そしてその根元には城なし作の壺がおもむろに置いてある。


「なんだこの壺は? おい、ショーター。まさかこれに化けてるって事は無いよな?」


「うん。これは注意をそらす為の囮だね。でも壺の下から変化の気配を感じるよ」


「おお。でかした。まさか、そんなところに隠れているとはな……。って、おい。壺のなかにも一人隠れているぞ」


「えっ?」


 オージーが呆れ顔で、壺の中に隠れた人物を引っ張り出す。


 シノだ。


「お前、バカじゃないのか? こんなところに隠れて逃げおおせるわけねえだろ!」


 オージーが喚くが、シノは表情を変えずに沈黙を突き通す。


「……」


「ちっ、黙りかよっ」


 そりゃ、そのシノは喋れないからな。


「家畜のお兄ちゃん。さっそく見付かっちゃってるよ?」


「あれは、身代わりの術。本当のシノは別のところにいるんだ」


「身代わりの術?」


 そう。身代わりの術。

 変化では相性悪く簡単に看破されてしまう為、こちらの術で勝負に出たのだ。


 もっとも、身代わりの術自体は目眩ましのつもりだったが、ショーターにもバレず、オージーすら騙せてしまったのは予想外だった。


 ただし誤算もある。


 オージーが壺をどけるとぽっかりと空いた穴が現れた。


「おっ、うさぎ娘がいたぜ。こりゃあ楽勝だな」


「兄さん。その子は変化してない。その子の後ろに化けてる人が隠れてるよ」


「このトカゲか? おいおい。外の奴らってのはここまでお粗末なモノなのか?」


 これこそが誤算だ。

 隠れん暴開始時点では、ショーターがここまで簡単に変化を見破り、気配まで察知出来るなんて思わなかった。


 ラビの後ろにトカゲに化けたツバーシャを隠したがその気配を辿って芋づる式に二人が見付かってしまったのだ。


 それでも、これで簡単に退場するツバーシャではない。


「ルググ……。ルガアアアア!」


 見つかったのをこれ幸いと飛竜の姿に戻り、暴れだす。


「ぎゃああああ? なんじゃこりゃあ!?」


 たかがトカゲとタカを括っていたオージーは尻餅をついて後ずさった。


「つ、ツバサさん!? これは!?」


 それを見ていたロリーが慌てて俺に問いただしてくる。


 だから、俺は言ってやるのだ。


「ルールに相手を消し炭にしてはいけないなんて無かった」


「いやルールに無くてもそんな事しちゃダメです! というか、あります! ルールに相手を傷つけちゃいけませんってありますから!」


「でも、オージーはロリーのぱんつ見ようとしたし万死に値すると思う」


「未遂! 未遂ですから! 消し炭はダメです!」


 まあ気持ち的には消し炭にしてしまえってのはあるが、別にツバーシャに俺が指示したわけじゃあ無い。


 策を伝えたときに──。


「ねえ、それで私は誰をればいいのかしら……?」


「いや、っちゃだめだから! ツバーシャはここに隠れているだけで良いんだ」


「つまり、ここに潜んで敵が近づいてきたられば良いのね……」


 ──なんて言って、話が通じず、時間もないし取り合えずそう言うことにしておけば大人しく隠れてくれるかと諦めて放置しただけなのだ。


「ルガアアアア!」


 勢いよくオージーに火を吐こうとするツバーシャ。

 しかし、そこでツバーシャの姿が消える。


 強制退場だ。


「うーん。おしかったな」


「おしかったな。じゃ無いですよ。あわや大惨事じゃないですか!」


「フン……! 後でちゃんと決着を着けるわよ……」


「おう。やってやれツバーシャ!」


「ちょっ! 平和な村で暴れさせようとしないで!」


 なんて、オージーに対する報復を語っているとファミが不安気な表情でまたも会話に割って入ってくる。


「ねえ、本当に全部作戦何だよね?」


「ん? どうしたんだ? 心配しなくてもまだまだこれから勝ちにいくさ」


「でも、もう隠れん暴終わっちゃったよ」


「へっ?」


 ファミがあまりにも突拍子も無いことを言うものだから、変な声で聞き返してしまった。


 だが、ファミの言葉は間違いでは無かった。


 何故なら空に浮かぶ数字は『0』を示していたのだから。


「えっ? 何で? 嘘だろ? ここからが、俺たちの戦いなんだ。これで終わりのわけが……」


 どういう事だ?

 まさか、ショーター以外にも隠し玉がいたのか?

 そんな気配はまったく無かったのに……。


 抑えきれない焦燥感が胸の奥から沸き上がる。


「何かの間違いだ……」


 だが無情。


 空に浮かぶ時計も『0』を示し、隠れん暴の終了を告げる。


「負け……。なのか?」


 いったい何が起きたのか。

 まったく分からないまま終わってしまった。


「じゃあ、ラビたちは……」


 これから待ち受ける敗者への境遇が頭に浮かび俺はガックリと膝を落とした。


 すると。


「ぶふっ……! あっはっは!」


 唐突にロリーが吹き出した。


「いや、待って? 笑うところじゃないだろう」


「ごめ、くくっ……。ごめんなさい! でも、我慢できなくて……。くくっ……」


 敗北のショックで変になってしまったのか?


 しかし、その理由も直ぐに明らかになる。


「へへっ。勝った! 勝ったぞ! これからが俺の時代よ!」


 絶望する俺たちとは対照的に浮かれ狂うオージー。


「兄さん……」


 そんな兄を曇った表情で見詰めるショーター。


「安心しろって。ちゃんとシスのババアはお前にやるから。何だかんだでお前はああいうのが良いんだろ?」


「ああ! そう、そうだよ兄さん! まだ隠れん暴は終わってない!」


「ああ? 突然何を言ってるんだ?」


「シスさんだよ! シスさんが見つかってないんだ!」


「いや、だが、隠れん暴はもう……。ん? そういや、終わったハズなのに鐘がならねえな」


 鐘というのは隠れん暴開始時になったものだろう。

 本来なら終了時にもなるらしい。


「そうか。そうだったんだ……。兄さん。僕たちは最初から化かされていたんだよ!」


「ショーター? お前いったい何を言ってやがる」


「見付けたよ。シスさん。シスさんは空に浮かぶ時計に化けている!」


 ショーターは空に向かって宣言した。

 すると空に浮かぶ時計がべろんっと剥がれ落ち、ゆらゆらと地面に向かって落ちてくる。


 そして、それはシスの姿を形どった。


「おやおや。流石だねえ。見付かっちまったか。こりゃあ嫁になって坊やに可愛がってもらわないといけないねえ」


「えっ、えっ、可愛がる……?」


「ちっ! ショーター! そいつは時間かせぎだ。まだ隠れん暴は終わっちゃいねえ!」


「なんで? シスさんで最後なんじゃ……」


「上を見てみやがれ!」


 空に浮かぶ本物の時計が告げるのは残り10分。

 そして、残りの人数を表す『2』の文字。


「シスの野郎、時間だけでなく、残りの人数まで騙ってやがったんだ!」


 顔を真っ赤にして悔しがるオージー。

 そりゃあ、そうだ。

 勝ったと思ったら騙されていただけだったんだ。


「まあ、俺もまんまと謎の敗北を喫したと思って絶望したけどな」


「ふふっ。姉さんは凄いですよね! ツバサさんが自分の策を見てのお楽しみって言うので私も黙ってました」


「そうかい」


 さっき吹き出したのはそれでか。

 まったく心臓に悪い事をしてくれるぜ。

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