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百十四話 隠れん暴開幕

 シスとオージーがたかぶった。

 子ダヌキのショーターが謀反を構えた。

 俺だけ参加を拒まれた。



「嘘だろう……?」


 神さまによる拒絶。

 それは物理的干渉を阻まれることを意味していた。


 簡単に言ってしまえば、俺は隠れん暴盤に触れることすら出来ないのだ。


 盤には次々と村人が上がっている。

 ラビたちも既に上がっている。

 だが、俺が盤に上がろうと掛けた足は素通りした。


 マズイマズイマズイ。


 俺は最初からまともに勝負する気なんて無かった。

 ヤバそうなら逃げれば良い。

 村人に助けが必要であれば、ツバーシャを解き放ち暴れるのも良い。

 場を掻き回してしまえば、シノだって大いに忍の力がふるえる。

 これについては不本意であるが、状況次第ではやむを得ないと考えていた。


 しかし、だ。


 それら全てが叶わないばかりか、参加すら許されない。


「くそう……」


「ご主人さま!」


「すまんラビ。ご主人さまが不甲斐ないからこんなことに」


 こんな事になるならさっき暴れて置けば。

 いや、ツバーシャが村を焼き払おうとしたのを止めなければ。

 そもそも、最初この地に降り立った時にそそくさと逃げ出していれば。


 そんな後悔ばかり次々と浮かんでくる。


「ご主人さま。それじゃダメなのです」


「いや、勝手に受けた勝負で俺が参加できないなんて──」


「違うのです違うのです! ラビたちをもっと信じて欲しいのです! ラビたちが勝てば良いのです!」


 それはそうだ。

 勝てば万事解決だ。

 だが、ラビたちにリスクを強いる勝負へ参加させた時点で咎められるだけの事をしてしまったのだ。


 俺は自分が許せない……。


「フン……! 勘違いしないで欲しいわ……」


「ツ、ツバーシャ?」


「私は私の意思でここにいる。この勝負も私の勝負よ。ツバサが何を気負っているのかは知らないけれど、私はやるの。そして、勝つのよ……」


 ツバーシャは金色の瞳の奥。

 黒い瞳孔をきゅっと細めて叱咤する。


「いや、でも……」


「思い上がらないで! 私は子供じゃないのよ。自分の事ぐらい自分で責任はもてる。それに始まる前からそんな辛気くさい顔をされたら不愉快だわ……」


「そうじゃのう。わぁたちがまるでもう敗北したかの様な顔をされるのは癪なのじゃ」


「みんな……」


 そう、だよな。

 反省も後悔も後で良い。 


 情けないご主人さま。

 情けない主さまはここまでだ。

 まだ勝つために出来る事なんて幾らでもあるはずだ。

 なぜなら、まだ勝負は始まってすらいないんだ。


「ツバサさん。急いでください。後五分もすれば始まります!」


「そうか……。だが五分もあれば十分だ! ラビ、シノ、ツバーシャ! 取って置きの策がある。耳を貸してくれ!」


「ご主人さまが元気になったのです!」


「うむ。そのようなのじゃ。さあ、取って置きの策とやらを聞かせてもらおうぞ」


「フン……!」


 気づかわれていたのか。

 これは絶対に負けなれないな。


 俺は策を告げ時間の許す限り微調整を繰り返した。


 そして。


 ゴォォォン……。


 鐘の音が辺りに響く。


 隠れん暴が始まったのだ。


 空にはでっかいアナログ時計が浮かび上がる。

 長針だけだから恐らく制限時間は一時間。

 その横には参加者の人数とおぼしき数字も浮かんでる。


 数は『23』だ。


「はー。ご主人さまが消えちゃったのです……」


「主さまは参加できない様じゃからのう。退場させられたかのう」


 いや、目の前にいるんだけどね。


 参加は出来ずとも、観戦は出来るらしい。


 お化けにでもなった感じで、俺からはみんなが見える。


 心なしか体が透けている気もする。


 でもこれ良いのかな。

 ぱんつ覗き放題なんじゃ……。


 おっと、いかん。

 みんなが頑張っているのにそんな阿呆な事を考えるのはよろしくない。


「それより早く隠れないと不味いわ……」


「そうじゃのう。隠れる前に見つけられてしまっては間抜けも良いところなのじゃ」


「じゃあ、掘るのです!」


 早速三人は隠れる準備を始めた。


 隠れん暴の舞台は小さな湖とそれを取り囲む林となっている。

 湖はこの大きさなら小池といった方が良いかもしれない。

 亀なんかもいたりして、親亀の上に小亀が乗ってうんぬんを体現している。


 三人はそんな池の方から少し離れたところにある林に隠れる。


 流石に、池のそばじゃ目立つからね。


 さて、このままここで男衆が来るのを待っても良いが、俺の方から出向いて後を追い、様子を見る方が良いかな。


「しかし、男どもは何処にいるんだろう……?」


 ぽつりと、一人ごちたつもりだったが、予期せず返答が返ってくる。


「家畜のお兄ちゃん。男の人たちのところにいくなら案内するよ。私もそっちを見に行くんだ」


 透け透けのファミが現れた。

 もちろんふしだらな格好をしているわけじゃあない。

 俺と同じお化け観戦者だ。


「ああ。そうしてくれるとありがたい。というかファミは隠れん暴に参加しなかったんだな」


「えっ? だってわたし子どもだもん。お嫁さんとか早いよう」


「確かに。しかし、年齢を理由に拒否れたのか……」


 そもそも参加しなくても良かった。


 なんて、新情報に軽く目眩を覚えたりもしたがファミに手を引かれ小池の向こうへ、ぽくてく歩いて向かう。


「あっ! 男の人だ!」


「本当だ。先頭にいるのはやはり、オージーとショーターか」


「うー。もうこんなところまで来てるんだ。ペース早いよう」


「んー。でも、もう20分は経っているみたいだぞ」


 そういって俺は空に浮かぶ時計を指差して見せた。


「あれー? もうそんなに経ってたんだ」


「ドキドキしているから、時間の流れが読めなくなってるのかもな」


「そっか。もう20分も経っているなら勝てるかも」


 この勝負は基本的に隠れる方が有利なのだそうだ。

 理由の一つに移動時間が挙げられる。

 子供のかくれんぼであれば、目の届く範囲で行うのが常だ。


 しかし、これは大人の隠れん暴。


 城なしの数倍はある広さの中で行われるのだ。

 端から端まで歩くだけでも、かなりの時間を消費する。


 そして、そんな中。

 更に探し出す為の時間を捻出しなくてはいけない。


「だから、ほとんど隠れる方が勝つんだよ」


「そうか。なら、今回も勝てるのかな?」


「ううん。わからない。だって、今年はショーター君もいるから……」


「そんなにショーターは凄いのか?」


「うん……。ほら見て?」


 言われて、ファミの指差す方を見る。


 するとそこには顔の左半分を手で覆い、目をつむり立ちすくしたショーターがいた。


 数舜の後。

 くわっと目を見開くと何もない地面を指差す。 


「兄さん! そこだよ!」


「よし来た!」


 言われたオージーが、ダンっと地面を力強く踏みつける。


 すると「きゃっ!」という悲鳴が聞こえ、地面が盛り上がり村娘が姿を表した。


 おいおいおい。

 地面になんて化けられるのかよ。

 でも、驚くのはソレだけじゃあない。

 なんて事もないとでも言うように瞬時に看破したショーターこそ真の驚異だ。


「いったーい! もう乱暴な事しないでよう!」


「はん。男ってのは乱暴な生き物なんだよ」


「そんな事ばかり言ってるから誰もあんたの嫁になりたがらないんだからね!」


 おっと、何やら言い合いが始まった。

 これは良い時間稼ぎになる。

 オージーは良い感じに足をひっぱってくれそうだ。


 しかし、そんな思いも次の瞬間には打ち砕かれる。


「兄さん! そこのお岩の影に一人化けてる。あと池の水にも一人。亀の甲羅の模様にも化けてる人がいる。あっ、兄さんの足元の松ぼっくりも化けてるからね」


 ショーターが瞬く間に変化を見破って見せたのだ。


 思わず俺は叫ぶ。


「一瞬で四人だと!?」


「うん。ショーター君は探索時間ゼロでみんなを見つけちゃうんだ……」


「そんなのありかよ!」


 空を見上げれば残り時間は35分。

 残りの人数は18人。


 早くも五分の一が脱落した形だ。


 しかし、ショーター無双は始まったばかりである。

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