百十話 隠れん暴
女の子と遊んでみた。
ラビも混ざった。
なんだかキナ臭くなってきた。
日が上れば再び俺は畑に向かう。
今日も畑を耕す事になったのだが、今日はロリーと一緒に村長のシスも畑まで付いてきた。
「ふーん。これがため池かい」
「ああ。畑に水をやるのにいちいち川から汲むのは面倒だと思ったんだ」
シスは腰を屈めてため池がわりの壺をの覗き込みながら、コンコンと叩いて具合を確かめる。
太くてフサフサした尻尾をこちらに向けるものだからついさわりたくなる。
しかし、尻尾の裏にあるむっちりとした尻の肉が毛皮のぱんつから溢れ出していたので、それははばかられた。
なんかエロい。でも、この尻尾だとトイレで邪魔になりそうだ。どうしてるんだろう。
尻尾を見ながらそんな阿呆な事を考えていると、ロリーが俺の隣に立った。
「ツバサさん。姉さんの(お尻)が気になるんですか?」
「あ、ああ。触ったら気持ち良さそうだし、首に巻いたらあったかそうなモノ(尻尾)だなって思った」
「お、お尻を首に巻くんですか!?」
「ええっ!? おい待てなんでそうなった!」
どうやったら尻なんぞ首に巻けるのか。
あっ、肩車かな?
シスは俺よりでかいし重そうだから大変だ。
「ずいぶんと丈夫な壺だね」
そんな会話をする俺たちには構いもせず、シスは壺について聞いてきた。
そりゃ、陶器じゃなくて岩だからな。
ボコボコ穴を開けまくって、よくプランターがわりにしてはいるけれど普通の壺よりずっと丈夫なのだ。
「どうやったら、こんな壺が作れるんだ?」
「俺が作ったわけじゃあないぞ。空の上にいる仲間に石を持っていくといくらでも作ってくれるんだ」
「いくらでも……。か」
おや? いくらでもってところに反応したな。
もしかして、もっと欲しいのかな?
「持ってこようか?」
「構わないのかい? 別の畑にもこれが欲しい。ウチの村はか弱い女ばかりだからそうしてくれると助かるんだ」
「あ、ああ任せてくれ」
どっからどう見てもシスは素手で熊とやり合えそうな体付きをしている。ツッコミ待ちなんだろうか。
「ただ、壺を持ってくるとなると畑仕事は中断しないといけない。畑の上に落とすから耕す意味がなくなるんだ 」
「畑仕事は誰にでも出来る。だから、ため池を設置してくれるならもう畑は耕さなくて良い」
「いいのか? ならそうするよ。必要な数と畑の場所を教えてくれ」
そんなわけで、城なしでの水やりから帰ってきたツバーシャを捕まえると、再び壺を持ってきてくれるように頼み込んだ。
「嫌よ……」
しかし、瞬時に拒否された。
ちょっと凹む。
だが、ここで挫けたりはしない。
「頼むよ。俺じゃああんなでかい壺を持って空を飛べない。と言うかあんなものを持ってこれるのはツバーシャだけだ」
「私……。だけ……?」
ポツリと言葉をこぼすと、ツバーシャは指をくわえる様に唇に当て、何やら考え込むように視線を落とす。
おや、これはもしかして?
「ああ。ツバーシャにしかできない事なんだ」
改めて言葉を重ねると、ツバーシャは勢いよく顔を上げて、その金色に輝く瞳を恍惚とさせる。
「私だけにしかできない……。良い響だわ……」
その言葉はツバーシャの琴線に触れたようだ。
「やってくれるか?」
「フン……! 空の支配者足る私には容易いわ。任せなさい! でも、一人は嫌よ……」
「おう。その気になったか。しかし、言葉の最後はへたれたな」
さて、ヤル気になってくれたのは良いが、俺が空を飛ぶのを許してくれるだろうか。
チラリと一部始終聞いていたシスを見やる。
「構わないよ。ウサギの娘を残してどこかに消えるなんて出来ないんだろう?」
「もちろん。必ず帰ってくるよ」
許可は得た。さっそく城なしに戻ろう。
そう思い、飛び立つために崖を探そうと歩み始めるとツバーシャがそれを止めた。
「なんだ? ツバーシャに乗せてくれるのか?」
「違うわよ。背には誰でも乗せられるけど、一緒に飛べるのはアンタだけじゃない……」
「そうか。それならどうして俺を止めるんだ?」
「ちょっと、コンパクトになりなさい……」
ツバーシャは何をしようとしてるんだ?
だが、下手なこと言ってせっかくのヤル気を削ぐのはよろしくない。
素直に従っておこう。
え? なになに? 膝を両手でかこんで丸くなれ?
ツバーシャの言うとおり、地面にしゃがんむと膝を抱えて丸くなる。
がぶっ。
そんな俺を飛竜にもどったツバーシャがくわえた。
そして空に向かって放り投げる。
なるほど、これなら崖が無くても飛び立てる。
考えたな。
だがしかし高さが足りない!
俺は丸まった姿勢のまま元の位置。ツバーシャの足元へと落下していく。そこでツバーシャが暴虐に出た。
あろうことか、俺の尻を蹴りあげたのだ。
「ひぎぃ!?」
俺の体はサッカーボールの様に高々と上がった。
そうして空を飛び、壺を持って帰ることが出来たが二往復ほどでやめておく。
ツバーシャも空を飛ぶのは疲れるのだ。
いや、正直に言おう。
俺の尻がもたない!
そんな事もあり、まだ日は高いながらもへっぴり腰で村へと戻った。
「あっ、家畜のお兄ちゃん! こっちこっち!」
一番に俺を見付けたファミが手招きする。
そう言えば、昨日はもう暗かったから空を飛ぶのを断ったんだっけか。
空を飛びたいと言われても尻が痛い。
「早く早く!」
「そんなに急かさなくても今いくよ」
まあ、蹴りあげられるわけじゃあないし、あと一回ぐらいなら空を飛んでも大丈夫だろう。
俺はファミにの方に向かって駆けた。
するとファミも駆け出す。
鬼ごっこかな?
追いかけ、距離があと少しと言うとこまでだ詰まったところで、ファミが民家の裏へと回り込む。
俺もそれに続く。
「よぉしもう逃げられないぞ……! って、あれ?」
「ふえっ? ご主人さま?」
しかし、そこにいたのはファミではなく、ラビだった。
「あれ、おかしいな。ラビ、こっちにファミが来なかったか?」
「ファミちゃんを探しているのです? ファミちゃんならほらっ、ご主人さまの後ろに」
「えっ?」
あれいつの間に背後に?
困惑しつつも俺は振り返る。
「えっ? あれ? ラビ?」
しかし、そこにいたのはまたもラビ。
「ご主人さまどうしたのです?」
「ラビが増えた!」
俺は驚きのあまり二人のラビから距離を取る。
なんだなんだ。いったいどうなってる。白昼どうどうオバケが出てきたのか? いや、そもそも、ラビは死んでない!
慌てふためくも、ふと気づく。
あれ? 別にラビが増えたところでなんの問題が?
おバカ二倍、おドジ三倍、可愛さ二乗じゃないか。
冷静さを取り戻した俺は二人のラビを撫でた。
すると、ボンッと音を立てて片方のラビがファミに変わる。
「なんだ。ファミが化けてたのか」
「あっれー? 家畜のお兄ちゃんあんまり驚いてくれない。誰かに見せてもらったの?」
「んー? いや、シノも化けられるからな」
どうやら、昨日帰りぎわ俺にお礼に見せようとしたのはこれの事だったらしい。
俺の反応がイマイチなもんだから悔しそうだ。
もう少し大げさに驚けば良かった。
失敗したなあ。
「うー。もうすぐ戦いが始まるからその前に見せたげよう思ってたのに……」
「ん? 待て! やっぱり戦争するのか?」
「えっ? 隠れん暴の事? 男の村の人たちと化けっこしながら隠れんぼするだけだよ?」
「えっ?」
シノが戦だなんて言うものだからあせってしまったが、そんな大それたモノじゃあなかった。
早とちりかい。
するとシノのお忍びは無駄だったのか。
ほっと、胸を撫で下ろす。
しかし、その時。
「おうおう。神聖な戦にちゃちゃ入れやがって! 村長をだせや!」
村の入り口の方からそんな怒声が飛んできた。




