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百三話 モチカレー

 街が滅んでた。

 ラビが聖女になってた。

 そして、城なしが街を直した。



 一夜明け。


「ケェー! こっこっこっ……」


 けたたましく喚き散らかす鶏をスルーして、寝坊することお昼過ぎ。


「で、結局なんでラビは聖女さまなんだ?」


 ラビに聞いてもラチがあかないのでシノに聞いてみた。


「ラビにあの者たちが、冗談半分でカレー言語魔法を教えたところ、比類ないほどのカレー言語魔法を使ったのじゃ」


「カレー言語魔法って、香辛料の粉に着火するアレだろ? 凄い炎でも生み出したのか?」


「いや、カレー言語魔法の本質は、香辛料に語りかけること。炎は一部に過ぎないそうなのじゃ」


 ん。なんだか難しい話になってきたな。


「まあ、その辺はいいや。ラビの魔法はどんな物だったんだ?」


「ひとことで言えば癒し。ラビの魔法は、傷ついた人びとの心と体を癒したのじゃ」


「おっ。治療魔法か。怪我したとき便利そうだな。でも、それって、ラビだけにしか出来ないのか?」


 カレー言語魔法は初めてだったが、他の魔法で何度か治療してもらった事はあるので、取り分けて珍しい訳じゃあない。


「無論、ラビだけにしか出来ないわけではないが、ラビの魔法はそれだけでは無かったのじゃ」


「まだ、何かあるのか?」


「いや、癒しだけなのじゃが、人だけでなく、大地にも効果があったのじゃ」


 大地……。


「枯れた土地を豊かに出来るのか?」


「いや、そうでは無いのじゃ。主さまは忘れているかも知れないが、あの国の大地は暗黒香辛料によって死の土地と化しておるのじゃ」


「ああ、そう言えばそんな話もあったな」


 確かにそれをどうにか出来たのなら平伏すのも納得出きるか。


「なるほど。しかし、何でラビにそんな才能があったんだろうな」


「カレー言語魔法は、心の清らかさでその力が決まるらしいのじゃ」


「そっか、ラビがおバカだからまっ更だったと」


「ま、まあ、言ってしまえばそう言う事なのじゃ」

 

 変な魔法もあったもんだ。


 その時。


 ふと、背後から視線を感じた。


「ラビは、おバカじゃ、無いのです……!」


「うおっ、いたのか」


 フグみたいにほっぺた膨らませてむくれきっとる。


「いいかいラビ。おバカはおバカでも、ラビは頭からっぽって事なんだ。頭からっぽなんて、どんな賢者にだって出きる事じゃあない」


「そ、そうなのです?」


「ああ、そうだとも。ラビは凄いんだぞ」


「それならいいのです!」


 ラビは、胸を満足げにそらして誇らしげだ。


 ふう。

 ラビがおバカで良かった。


「ところでご主人さまは何を作っているのです?」


「ん。これか。これはな……」


 アラビンド皇国を出る際に、お土産にターメリックの苗と粉末をもらった。


 だから、早速カレーを作ってみたのだ。

 とは言え、スパイスからカレーなんぞ作った事はない。


 でも、前世は中学生時代。家庭科の調理実習でクリームシチューを小麦粉とバターで作った記憶がある。


 多分ウコンで、それに色を付けりゃカレーになるんだと思う。


 が、小麦粉もバターもない。そんな中で出来上がった代物は。


 黄色いスープだこれ。

 なんか香りも足りない気がする。

 食えないレベルじゃあないが……。


「うーん。やっぱりこれだけじゃ無理かなあ」


「ご主人さま。ラビに任せるのです!」


「えっ? 任せると言ったって、ラビもカレーを作った事は無いだろう?」


 でも、なんだかやる気だし任せてみよう。


 ラビは火にかけた壺の中を両手で握ったオタマでグリグリと混ぜ始める。


 気づけば、ラビの頭にはターバンがのっていたりもした。


 ラビはそれが落っこちそうになるぐらい、頭を上げて背後の俺を見つめる。


「ご主人さま。 ラビを後ろからぎゅってして欲しいのです!」


「と、突然何を言ってるんだ!?」


「カレーの為に必要なのです」


 カレー作るのにそんな愛の溢れる行程が必要なんて聞いたことない。


 いや、まてよ?

 果たして本当にそう言いきれるのか?

 人さまがカレーを作る姿なんて見たことない。


 もしかしたら……。そう思い、俺はラビを後ろからぎゅってした。


「ターメリック。ターメリック……。ウコン。ウコン!」


 そして、ラビが魔法を唱えると壺から光が溢れだし、辺りにカレーの香りが広がる。


「出来たのです! これが、ご主人さまのカレーなのです!」


「俺のカレー?」


「さっき、ぎゅってしてもらったときに、ご主人さまの記憶にあるカレーを覗き見したのです」


 うむ。良く分からん。が、黄色いスープがカレーになった。そして、それが旨そうだってだけで十分だ。


 しかし、困った。パンも米もない。ああ、そうだ。モチを入れよう。


 七輪で表面がカリカリになるまで、焼いたモチにカレーをかければ、はい、モチカレー。


 そのお味は。


「んー! おモチが銀河を駆け抜けていくのです!」


 銀河には極限まで摩擦がないからな。さぞ、とんでもない速さで駆け抜けた事だろう。


「うむ。うまいのじゃ。しかし、やはり、コメにかけてみたいのう」


「城なしは空を飛んでるんだ。いずれ、米に出会えるさ」


 いつしか、ご飯にカレーをかけて食べる事を夢見ながらモチカレーを平らげる。


 しかして、その味は、長いこと手抜きでカレーを食べていたせいか。レトルトカレーのそれだった。

  

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