百二話 奴隷聖女
体内で農耕してた。
神聖核をぶつけたらイモムシダンジョン崩壊した。
地球外生命体さんは俺を投げた。
斯くしてアビンド皇国を襲った巨大イモムシの危機は去った。
「た、ターメリック、ターメリック!」
しかしイモムシの尻から座薬の様に顔を出した俺の瞳に映ったのは荒廃したアラビンド皇国の街だった。
「ウコンウコン!」
絶命の瞬間転げ回ってたしな……。
滅びちゃったか……。
しかし、それ以上の光景も拡がっていた。
まるで、神に祈りを捧げる様にダーバン巻いたやつらが地にひれ伏していたのだ。
それも一人や二人では無い。
この街全てのダーバン巻いたやつらがだ。
「ターメリック、ターメリック。ウコンウコン!」
しかし、彼らの祈りの先にあるのはイモムシの危機を退けた俺の姿ではなかった。
「ターメリック、ターメリック。ウコンウコン!」
先ほどから、顔を赤らめ恥ずかしそうに香辛料の名前を連呼するウサギ少女。
そう、ラビに対してひれ伏していたのだ──。
……。
……。
……。
いや、何でだよ!?
芋虫の尻から這い出た俺はラビに詰め寄った。
「ラビ……」
「あっ、ご主人さま!」
「これは一体どういう事なんだ?」
何をすれば一国の人間全てがひれ伏すと言うのか。
「ラビは奴隷聖女になったのです!」
「ど、奴隷聖女ってなんだ。俺がいない間に何をしていたんだ?」
「カレー言語魔法で遊んでたのです!」
ご主人さまがからだ張っている間に遊んでいたといけしゃあしゃあと宣いおる。
しかし、どこから突っ込んだらいいのやら。と言うか何があったのか結局分からんし。
でもまあ。何だか疲れてしまっしどうでも良いわ。
「ラビ。もうおうちに帰ろう」
「はいなのです!」
おうちに帰ってお風呂に入って寝てしまおう。
「いやいやいや。主さまは本気でその様な事を?」
「ん? シノ? なんか不味いか?」
「不味いも何も……」
シノはそう言いよどんで、瓦礫の山になった街の方向を指差す。
「あー……。あれも俺が何とかしなきゃダメか?」
「放っておけば、皆のたれ死ぬのじゃ」
「それは、寝覚めが悪くなりそうだ。しかし、どうしたもんか」
壺の仮設住宅で何とかするか? いや、この街の人口は、一万はゆうにあるだろう。
いくらせっせと城なしに壺を作ってもらっても、とても間に合うものじゃあない。
作ってる間に人口が半減するわ。
どうしたものかと悩んでいると、不意に辺りが暗くなった。
「おや? これは……」
「ご主人さま城なしなのです」
「城なしが降りてきた?」
何のために?
不思議に思い、城なしの行く先を目で追う。
城なしは、荒廃した街の上へとたどり着くと。
ズズーン……。
トドメと言わんばかりにその上に降り立った。
「何だ? この国の人たちを城なしに乗せるつもりのか? 無謀だ。とても乗りきらない……」
「主さま。それは違うのじゃ。あれは」
「城なしが街の残骸を食べてるのです!」
街を……。
喰ってるだと……?
ズゾゾゾゾゾ……。
城なしは蕎麦やうどんをすするかの様にそれらを飲み干していく。
そして、城なしの後方から、失われたはずの街が蘇り始める。
何だか前より、綺麗になってるし。後なんだか壺が増えてる。
「アア、聖女さまがご慈悲を与えてくれたんダ」
「コレデ、干からびなくて済ヨ」
「モウ、カレー食べてもいいんだネ」
ダーバン巻いたやつらが、街を見て更に深々とラビにひれ伏した。
「なんか、ラビがやった事になってるな」
「ふええええ!? ま、待って欲しいのです。街を直したのは……」
「いや、このままで良いのじゃ。説明が面倒だし何より今のこやつらには聖女と奇跡が必要なのじゃ」
なるほど。これだけ国が荒れに荒れたんだ。本来なら、パニックに陥ったり絶望にくれてもおかしくはない。
でも、ラビの存在がそれを押し留めているんだ。
「あっ、そう言えば地球外生命体さんはどこだ? まさか、イモムシの中に閉じ込められて……」
「あやつならホレ。向こうの方でツバーシャとじゃれておるのじゃ」
「ンガー!」
「ルガアアアアア!」
あ、うん。元気だね君たちは。
まあ、とにかくこれで全部解決だ。
「じゃあ、今度こそ本当に帰ろうか」
俺はラビとシノの手をとると、平伏すダーバンたちを背にその場を後にした。




