百話 イモムシダンジョン
少々お下品です。
ツバーシャがいなくなった。
墜落してた。
そして、地球外生命体さんが走り出す。
先走っちゃった地球外生命体さんのお手てに握られたまま戻ると神聖核とやらを受け取った。
神聖核なんてなんでもっているのかと思ったら、抱き枕の中に入っていた。
こいつが空を飛ぶ原動力で、超過精錬した香辛料なんだそうだ。
核、精錬って単語から硬くて、鉱石の様なモノを想像していたんだがまん丸で柔らかいな。
ラビのほっぺたみたいにぷにぷだ。
透明だしラビ餅にも見える。
ワラビ餅……。
食べたい。
材料あるし作ってみようかな。
「ソレをあの羽なし暗黒香辛料の体内にある暗黒泉に放り込めば反発作用が働いて、体を維持できなくなって崩壊するハズだヨ!」
「体内か。やっぱり、巨大な相手になるとそれが定番なのか」
「アッ、口から入ると胃酸で溶けるかも知れないネ!」
「ヤルなら後ろからだネ!」
「タブン、後でちゃんと体を洗えば臭く無くなると思うから頑張ってネ!」
なるほど。
イモムシの胃の中に落ちてじゅわって溶ける姿は想像もしたくないわ。
ん?
後ろから?
臭い……?
「ちょっ、まさか尻から入れって言うんじゃ──」
「ご主人さまなら絶対にイモムシやっつけられるのです!」
「やっつけられるか、やっつけられないかの話じゃあないよ!?」
そんな期待に満ちたキラキラしたお目目で見ないでおくれ。
しっ、尻からはいるんだぞ?
そんなんしたらお嫁に行けなくなってまう。
「私は嫌よ……」
俺だってヤだよ。
ツバーシャは人の姿に戻ったままだし、そもそも墜落したせいで怪我しているから着いてきてくれそうにないな。
うーん。
一人で行くには心細いなあ。
勇気がほしい。
その為には道連れが必要だ。
ツバーシャなら適任だったんだが。
「主さま。わぁたちに全く関係のない世界とはいえ、見捨てるのはしのびないのじゃ」
「よし。じゃあ、代わって! ついてきてくれるだけでもいい!」
「そ、それは絶対に嫌なのじゃ……」
あ、うん。
言ってみただけだし。
さすがにシノでも連れていくのは気が引けるし。
でもちょっと悲しい。
「なら、ラビがご主人さまについていくのです!」
「ラビはだめかなー」
「がーん。なぜなのです!?」
おドジだから心配。
でも、言いにくいな。
さて、どうやって説得したものか。
なんて考えていたら、地球外生命体さんが痺れを切らせた。
「ンガンガンガ!」
もう知らん、早くいくぞと言わんばかりに走り出す。
なに言ってるのか分からないのに待たされたから、イラってしちゃったか。
「あっ、待ってほしいのです! ラビも──」
「また、今度ね!」
ラビにはすまんが、地球外生命体さんが走り出してくれたおかげで助かった。
ん?
助かっては無いのか!?
ドドドドド……。
走る地球外生命体さん。
迫るイモムシの尻。
「待って! まだ心の準備が!」
「ンガガガガガガ!」
いや、ほんと待って。
尻だよ?
入るところじゃないよ?
出てくるところだよ!?
「というか、酸素とか無さそうだし、ほら、もうちょっとよく考えてみようぜ?」
「ンガー?」
「あっ、地球外生命体さんは宇宙に漂ってたんだっけか……」
そっか。
酸素いるの俺だけか。
そんなやり取りをしている間にも尻は迫る。
こりゃまるで山だね。
生物が育って良い大きさじゃあない。
ああ、入り口。
いや出口が見えてきた……。
「い、嫌だ! 尻から何ぞ入りたくない!」
「ンガー!」
ズボンっ。
そんな叫びも虚しく、地球外生命体さん共々イモムシの尻に突っ込んだ。
ううっ。
俺ケガレちゃった。
ぷちラビたちもう俺に近づいて来ないかも。
もう死んでしまいたい。
しかし、残念。
息をしても苦しくない。
酸素あるがあるみたいだ。
イモムシも尻で息をしているんだろうか。
それにしてもイモムシの体内……。
無機質で生物っぽくない。
地球外生命体さんみたいにヌメヌメしているかと思ったんだが。
床も天井も硬めのゴムを彷彿とさせる見た目だ。
体内と言うよりはダンジョンだな。
幸い、最大の懸念材料だったばっちくて臭そうなのはない。
暗くて先は見えないけれど、辺りを伺える程度の明かりはある。
なんだか、粉を撒いたような不思議な光源が床に落ちてるからだ。
「ンガー?」
地球外生命体さんも、それが気になるようでしゃがみこんで不思議そうに見てる。
「これ何だろうな。ところで、地球外生命体さん。そろそろ解放してくれんかね」
「ンガー……」
何だか悩ましげな顔をしてる。
いや、なぜ悩む。
「もうここまで来たら、何もせず引き返すのも虚しいよ」
「ンガー?」
通じないか。
あっ、でも放してくれた。
地球外生命体さんはよくわからんなあ。
「じゃあ、奥へ行ってみよう。暗黒泉とやらを探して見ようじゃないか」
「ンガー!」
俺は地球外生命体さんと共に、床に散らばる光を追って、イモムシダンジョンの奥へと足を向けた。
するとそこには──。
 




